神様とクリスマスデート
樹 風珠
前編
拝啓 皆様
平成最後の、天皇誕生日の振替休日たる本日、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
西洋の宗教に根ざしたイベントがらみで、下界はさぞかし賑やかなことと思います。
私は今、とある山中に来ています……
(Facebookより抜粋)
◇◇◇
年の瀬だというのに。
あと一月も待てば初詣の時期だというのに。
師走に入ったあたりから、ふとしたときに脳裏に浮かぶ神社があった。
挙句。夢にまで出てきたとき、これはいよいよ神様に呼ばれているのだと思い、ついにきてしまった。
埼玉県の奥の奥、絵に描いたような山並みが連なるその山頂に鎮座する神社。
三峯神社に。
思えば、今年は散々な年だった。
3年前、職場の男性に思いっきり振られた。
いや、そもそも恋ですらなかったかもしれない。私が一方的に好きになって、世にありふれた形で弄ばれ、当然のごとくなかったことにされたのだ。
よくある話だ。
「俺は職場では恋愛する気はない」とか言われたが、そうのたまったその男はあっさりと同僚の女性を結婚した。
そのくせ、性懲りもなく私に連絡を取ろうとするそのクズ男との悪縁を断ち切りたく、『縁切り』でご利益があるという有名な新宿区にある某神社にお参りしたら、悪縁どころが男縁すべてと切れてしまった。
あれから……気持ちの中では幾星霜。
この3年間。これといった出会いもなく、あっても長くは続かず、浮いた話も華やいだ話題もないまま、ついに平成という世が終わろうとしてしまっている。
どうすればいいのかも、誰を恨んでもいいのかもわからないまま過ごしていたら、今年に入って妻子持ちの上司に迫られ、関係が持てないとなるとその男に仕事のミスの責任を押し付けられ、専門外の部署に飛ばされ、慣れない作業で残業が続き、挙句急性感染性胃腸炎で入院するはめにいたった。
おかしい。
厄年はとうの昔(でもないか?)に終わったはずだというのに!!!
絶え間ない下痢と嘔吐によって病院のベッドでのたうち回りながらそんなことを思う。
くそぅ。私がいったい何をしたというんだー!!!
だー、だーっ!、だぁーっ!!!
そして。
今日に至る。
初めて、三峯神社に参拝したのはいつだっただろうか。
確か。同僚に誘われて、「日本三大曳山祭り」の一つである「秩父夜祭」を見に行った時だったと思う。
祭りを見に行く前に、早起きして三峯神社をお参りした。
その当時は普通にお参りして、普通に「縁結びの木」をみて、普通に境内をまわったように思う。
別に私には霊感があるわけではないし、そのあたりの直感的レーダーが発達しているわけではないから、三峯神社の気配がどうのこうのということはサッパリわからない。でも、なんだか清々しく落ち着く場所だな〜ってのは思った。
あとから知ったけど、実は私と同じ風属性の神社とのことだった(友人情報)。
あぁ〜どうりで!!なんと思ったりした。
しかし、あの日以来。
ここ三峯神社が、私のなかの「なんか気になる場所」にランクインすることとなった。
だからなのかな?
災厄続きの今年が終わろうとする直前。
何かの予定で埋まることもなく、独り身のクリスマスイブを過ごすことになりそうだった今日。
どういうわけだか朝早くに目が覚め、なにか突き動かされるように思いたち、気づけば朝のラッシュに逆らうように人並みをかき分け、秩父行きの特急に乗り込んでいた。
そして、来てしまったよ。三峯神社に……
うぅっ。朝日というには少し登りすぎた太陽が眩しい。
風は恐ろしいほどに吹いているというのに、空は圧巻の快晴だった。
きっと呼ばれたのだと思う。
だからこそ、神妙な面持ちで境内までの道を歩く。
しかし、寒い。
今年は異常なほどに暖かい冬だというのに、さすが山の中、寒い。そして風が痛い。
ホッカイロ持ってくればよかったな〜と思いながら、本殿に参拝する人の列にならぶ。朝早いというのに、世間はクリスマスだというのに、私以外にも物好きがいたんだな〜と感心する。
いやいや、自分何様よ。
そうして、いよいよ私の番となる。
勢いできたからこれといって頭の中が整理されない。
うーんうーんと考えようやくひねり出したのが、「私は幸せになれますか?この先、良縁に恵まれますか??」なんて随分とひねりもないベタなものだった。
本当はきちんと続けたかったけどすでに長く念じていた私。後ろに並んでいる人から咳払いやクスクスとした笑声が聞こえてくると、これ以上長くするわけにもいかず軽く赤面をして本殿を後にする。
今すぐおみくじを引きたいところ、すぐに神様からのお返事を確認するのも味気なく、そのまま境内を散策することに。
いや、寒いけど寒さが気にならないんだよね。
たいして広くもない境内だし、見どころはこれといってないんだけど、ただ歩き回っていたいんだよね。
寒いし。
そして、足が赴くままこれといって意中の人もいないのに、縁結びの木にむかったわけで……
御神木を背にした小さな社には恋愛向けのおみくじやら絵馬やらが置いてあった。
本当に小さな社だというのに、そこそこ早い時間だというのに若い女性やらカップルやらでギュっと詰まっていた。
急ぐわけでもないし、縁を繋げたい人がいるわけでもないから、とりあえずその場所があくまで周囲をうろつく。「御仮屋」の前を通り過ぎあとでお参りいしようと思う。
そうして再び戻ってきたときには、なぜか誰もいなくなっていた。
社に入るが、どうにも札を手に取ることができない。
くどいようだが、これいって誰と思える人がいないなか、何を願えばいいのかどう願えばいいのか急にわからなくなったのだ。
じっと札をみつめていると、ふいに頭の上から声が聞こえてきた。
「そんなに考えこんでしまうほど、心に思う方が多いのですか?」
あまりに気配なく急に声をかけられたので、思わず振り仰ぐ。
みるとそこには、黒いタイトなダウンコートを着込んだ背の高い男性が立っていた。
(続く)
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