あなたの本命チョコは何派?
────紅崎リコは勤しんでいた。
何を? チョコ作りである。
チョコ作りである。
本日は2月13日。そう、愛しの恋人に
もちろんリコが作っているのは本命のチョコ。今回彼女が作るのはガトーショコラ。割と本格的に作るつもりである。
そんな彼女に協力するのは。
「リコ、そこで卵黄と砂糖を加えて。白っぽくなるまで十分に混ぜるんだよ」
「うん、了解!」
リコの姉、紅崎
その様子を背後から呆れた様子で見るのは赤い髪に赤い瞳の女子大生、アーテーだ。
「おーおー、張り切ってるねぇ。どうしたのさ、普段そこまでやんないでしょ」
「うるさいよお母様。だって相手はセラだよ? 絶対クオリティ高いチョコ作ってくるって」
そう。リコが今回気合を入れてチョコを作る最大の理由はあのセラに渡すだからである。
彼女は自覚こそ無いが、非の打ち所がないと言えるほどに才能を多く持つ。きっと彼女ならそれはそれは絶品のチョコを作ってくるのだろう。
しかし、リコだってセラに最高のチョコをプレゼントしたいのである。ついでに言うと女子力だって負けたくないのである。故に姉と協力してチョコ作りに励むのだ。
ちなみに凜華が快く承諾したのは本命ではなく、友チョコを作りたいからだそうだ。
「そこまで頑張らなくてもワタシの手に掛かれば一発で絶品なチョコ出せると思うけど」
「違うのー。こういうのは自分で作るからこそ良いのー。愛情を込めて作るものなのー!」
「はいはい。ワタシはそんな手間かけずに咲良に美味しいチョコをプレゼントしますよー」
「それ咲良が聞いたらどう思うの」
「気にしないんじゃない? 省ける所は省きたい人間だし」
「妙に納得できちゃうよ……」
アーテーの言葉にげんなりするリコ。
しかし、手を止めている暇はない。リコが目指しているのは生チョコ風のガトーショコラだ。
「お姉ちゃん、次は!?」
「ここで卵溶いて。一個ごとに解きほぐしてね」
凜華のアドバイスを聞きながらリコはチョコ作りを進めていく。
今回作る型は本命がハート型、義理は小さい四角形だ。チョコの質感が滑らかに仕上がっていくのを見てリコは満足そうにほくそ笑む。きっと美味しいチョコになるだろう。セラに敵うかは不安だが。
そうしてチョコを焼き上げ、粗熱を取ってココアパウダーをまぶし。
「出来た……!」
「よし、後は明日だねリコ!」
「うん、ありがとうおねえちゃん!」
いえーい、とハイタッチする二人。
その背後をアーテーは真顔で見つめ、小さく呟いた。
「……アオハルだねぇ」
※※※※
そしてバレンタイン当日。
いつものようにセラの家の玄関前にリコは立つ。二人で登校するのがリコの日課なのだが、それに加えて今日一番のイベント、チョコ渡しを控えているのである。背中に隠し持ち、彼女が現れるのを今か今かとせわしなく待つ。
そしてついに扉が開いた。白いポニーテールの髪に青い瞳の自慢の美少女、セレスティア・ヴァレンタインことセラである。
「リコ、おはよう」
「おはよう、セラ!」
まずは笑顔で応え抱擁を交わす。第三者から見ればかなり甘い光景だが、二人にとっては最早慣れた行為だ。
そしてもじもじしながらリコは背中に持っていた箱をセラに差し出す。
「はっ、ハッピーバレンタイン、セラ!!」
「あっ……。用意してくれたんだ、ありがとう!」
「うん。手作りなんだよ! お口に合うと嬉しいなぁ」
「手作り!? すごい、楽しみにしてるね!」
セラは満面の笑みを浮かべ箱を受け取る。
そしてセラも背中に隠し持っていたのか、背後に回していた左腕をそっと前に差し出す。
「実はわたしも用意してたんだ。ハッピーバレンタイン、リコ」
その手に握られていたのは一つの紙袋であった。
そこに描かれていたのはある高級ブランドのロゴ。
それを見たリコはわなわなと体を震わせ、そして目をカッと見開いて叫んだ。
「ま、まさかの市販派ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」
────この後、リコがセラに小一時間ほど説教し、しかし手作りチョコを食べたセラの感想にリコがすべて許したのは言うまでもない。
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