100日後に最終回を迎えるHALF(100日目)
「これで終わりだねぇ、セナちゃん」
正面から煽るような女の声が響く。
向けられたセナは全身傷だらけだ。ボロボロの身体で立ち上がりながら、彼女は目の前の女を睨みつける。
「ユウもヒスイもヒメコも死んじゃったねー。それにパンドラも消えてしまった。今のお前に何ができるっていうの?」
「……っ」
仮面を被った女────が嘲笑混じりにセナを煽る。その言葉にセナは強い怒りを覚えるが、同時に仲間を失った悲しみを抑えきれず一筋の涙が頬を伝った。
ヘカーテの言葉にセナは何も言い返せなかった。ヒスイは魔獣や魔女たちとの戦いで力尽き、ヒメコは命を引き換えに魔女を倒し、そしてユウはセナを庇って目の前で息を引き取った。残されたセナはパンドラと共に戦う決意をするも、ヘカーテとの戦いで消耗し、セナを守るために力を託して消滅してしまった。もう、共に戦える仲間はいなくなってしまったのだ。
「でも……でも、わたしは折れるわけにはいきません……! 皆が、力を託してくれたから……!」
そう言ってセナが取り出したのは、一つの白い魔石。パンドラが消滅する寸前に、自身の魔力の全てを魔石に変換してセナへ託していったものだ。
その様子を見たヘカーテは首を横に傾ける。
「へぇー。そんな程度の力でどうにかできるとでも?」
「できるできないじゃないんです。必ず、ここであなたを倒します!」
『ったく、らしくねぇなセナ』
「「!!!???」」
突如響いた少女の声にセナとヘカーテの双方が驚く。
声は魔石の方から響いた。そして純白だった魔石に青い光が徐々に現れていく。
「ゆ、ユウさん!?」
『ああ、そうだよ。あたしがあんな所で死んでたまるかよ。って言っても、素人だからあたしの魂を魔石に移せるのかどうか不安だったけどな」
「は、はあ……」
心なしかユウの声音に笑みが含まれているような気がする。状況をよく飲み込めないセナに、新しい声が魔石から響いた。
『こら、僕も忘れるなよ!』
「ひ、ヒメコちゃん!?」
『自爆で退場とか絶対にゴメンでしょ。というか小学生の僕にそれやらせるって脚本の人正気?』
「そういうこと言うのはダメ!」
メタ発言をするヒメコに軽くセナがツッコミを入れる。持っていた魔石に水色と紫の光が混じり始めた。
『────私だってまだ戦えるよ』
「ヒスイさんも!」
『なんだよ、全員無事じゃねえか。余計な心配させんなよ』
『え、何、ユウちゃん泣いてたの? 見たかったなー』
『ちげぇよ! お前こそヒスイがいなくなった時にわんわん泣いてただろうが!』
『なっ、そりゃ悲しくなるでしょ! お前には血も涙もないのか!?』
『はいはい、二人とも喧嘩しないの。セナ、私達の魔力が入ったこの魔石で変身して。今こそ一つになる時だよ!』
「えっ、えっ、何を言ってるんですか!?」
「そんな、ありえない! あいつらは消えたはずなのに!」
ヒスイの言葉にセナは疑問を抱き、消えたはずのユウたちが復活したことにヘカーテは強く動揺する。
だがヒスイの物言わせぬような強い気迫を感じる言葉に、セナはヒスイを信じることにし魔石を強く握りしめて胸に当てる。
『変身の呪文は「合体、クライマックスフォーム」で行くぞ!』
「は、はい!」
『何かダサくない?』
『でもしっくり来るかも……!』
「行きます、合体・クライマックスフォーム!」
セナは勢いよく叫び胸に魔石を突き刺す。直後、眩い虹色の光が彼女を包み服が弾け飛んだ。
「きゃあああああああああああああ!!!??」
突然裸にされて赤面しながら局部を隠すセナ。そんな彼女の背後から黒いドレスと緑のサイバースーツ、水色と紫のヘアピンが飛んでくる。
「なに、なになになに!? 怖いんですけど!?」
『まあまあ、そう言わずに大人しく着けてろ」
『くすぐったいかもしれないけど我慢してね』
『僕の要素薄すぎない!?』
そしてセナの右肩から先に黒いドレスが、左肩から先に緑のサイバースーツが、そして胸と下半身は白いドレスへ変わり、髪は毛先が紫色に染まった水色に変化し、瞳の色が金色に染まった。
変身が完了したセナは一言。
「てんこ盛り……!?」
『ちょっ、何だこれ狭すぎね!?』
『痛い痛い、よく分かんないけどぺちゃんこにされてる!』
『こ、これ、キツすぎない……?』
「ちょっ、皆さん暴れないでください! 痛い、痛いですから!」
一人で両腕をぶんぶん振り回しながらセナ(+中の三人)が叫ぶ。一人であべこべした動きをするのは傍か見ると何ともシュールな光景だったが、こんなことをしている場合ではないとセナは思い出し、いつの間にか持っていた鍵を構える。
「覚悟して下さい、ヘカーテ。あなたは絶対にここで倒してみせます!」
『やっちまえ、セナ!』
『私達の力を見せる時よ!』
『なんか超必殺技的な奴を出そうぜ!』
「みなさん黙ってて下さい!」
頭の中で響く三人の声にセナはツッコミを入れる。
そして対峙されたヘカーテは動揺をしながらも、周囲の空間が歪むほどの魔力を集め始めた。
「ふざけるな、クライマックスだか何だか知らないけどこんな奴らに負けてたまるか!」
「こちらこそ、あなたに負けるわけにはいきません!」
そう言ってセナも鍵を構え、魔力をかき集める。
周囲に黒い靄と青い炎、そして風と冷気と電流が鍵先へ結集し巨大な光へとなっていく。
「はぁぁあああっ!!!!」
「死ねぇぇぇぇっ!!!!」
双方の魔力がぶつかり合い、眩い閃光が辺りを散らして────。
※※※※
「っていう最終回はどう?」
「却下ですっ!!!!!」
バン、と机を叩きながらセナはヒメコの提案を却下した。
「何ですかクライマックスフォームって!? どっかの特撮番組になかったっけそんな設定!? っていうか所々メタ発言あったし、最終回としてはあまりにも緊張感が欠けると思います!!」
「ちぇー。みんなの力を合わせて合体とかロマンじゃん~」
「合体(物理)はダメだと思います!! そもそも何なの、『100日後に最終回を迎えるHALF』って企画!?」
目の前のノートに乱雑な字で書かれた企画を読み上げながらセナはツッコミを入れる。
「大体最終決戦で一回皆が死ぬとか縁起悪いこと考えないでよ! 魔法少女はいつ死ぬか分からない仕事しているだから!」
「うっ、そう言われると自分の軽率さに心苦しくなる……っ!」
「こういうのは、わたしとユウさんが結婚するオチとかでいいと思うの!」
「は?」
「え?」
突拍子もなくとんでもないことを言いのけるセナに思わずヒメコは素っ頓狂な声を上げ、返されたセナも自分が何を口走ったのか理解する。
「ぁ……ぁ」と顔が真っ赤に染まり、両手で顔を抑えてしまう。その様子を見たヒメコはニヤニヤと悪い笑みを浮かべ始めた。
「へぇ~~~~、お二人さんそこまで熱いんですかぁ?」
「ちっ、ちがっ、今の言葉忘れてっ、何でも無いから!!」
「結婚、結婚オチねぇ……期待してるよセナちゃん」
「やめてぇぇぇぇぇぇえぇええええええ!! 本当にユウさんには言わないでねっ!!??」
「はーい」
と、答えたヒメコだったがその悪戯っ子な表情にセナが気が付くことはなかった。
────HALFが最終回を迎えるまであと100日以上。
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