西暦20XX年 初詣
「さっみぃ~……」
鼻をすすりながらボサボサの黒髪に青い瞳の少女、ユウは呟く。
今は元日の午前八時。年明けとはいえ、祝日の早朝だと言うのに神社は人だかりでいっぱいであった。
最早この情報だけで、何をしに来たか言うまでもないと思うがユウは初詣に来たのである。普段はTシャツにジーンズと女っ気のない私服を来ているユウであったが、今日ばかりはと鼻息荒くする咲良にしつこく言われ仕方無しに紺色の着物を着たのであった。
「ちょっと、おじさん臭いよユウ」
「あ?」
隣で緑色の髪を夜会巻きに束ねた緑色の瞳の少女、ヒスイが苦笑する。名前にふさわしく着物まで緑づくしであった。普段はヘッドホンを身に着けている彼女だが、流石に神社では行儀が悪いと思ったのか持ち込んでいない。
その後ろをトコトコついていくのは紫のグラデーションが掛かった水色のツインのハーフアップに水色の左目に紫色の右目を持つ幼い少女、ヒメコだ。彼女は淡紫色の着物を着ていた。寒いのかヒスイに密着している。
「そうだよー。女の子がそんなこと口にしながら鼻啜っっちゃダメだよ」
「うるせぇな。大体何で今年に限って咲良さんあんなに口うるさかったんだよ。毎年あたしはコタツで寝てたじゃん」
「ま、まぁまぁ……。そこは咲良さんの粋な計らいで収めましょう。所で皆さんは初夢とか見ました?」
そうユウを宥めるのは白い着物を羽織った黒髪のおさげに眼鏡の少女、セナだ。
着物の上からでも分かるほどの二つの大きな膨らみを妬むような視線でチラチラとヒメコが向けているが、その視線にセナが気付くことはなかった。
「全っ然。あたしそもそもそんなに夢見ないしなぁ」
「私もだね。あまり意外と元日に見れるのってラッキーな方じゃない?」
「僕は見たよー! 知らない田舎に行ってうどんを食べる夢」
「妙にリアリティあるな……。あ、なんかうどん食べたくなってきたわ」
「セナは何か見たの?」
と、顔を覗き込むようにヒスイが言う。
だが、当のセナは冷や汗を流しながら顔を背けた。
「えっ!? いやっ、その……。見た、とは思うんですけど……。忘れました」
「………………」
「やめて下さいその目!」
「ないわー、自分から振っておいてそれはないわー」
「ヒメコちゃんまで!」
「いいよ、セナ。私、気にしてないから」
「その優しさが刺さるんですけど!?」
と、早朝から元気よく声を張り上げるセナ。ようやく人混みの列が抜け神前に四人が並び立つもセナは先程のツッコミでぜえぜえと息を切らしていた。
「おい、セナ。いくら記憶喪失だからって参拝の仕方ぐらい分かるよな?」
「そこは大丈夫です。ちゃんと事前に調べてきたんで」
「っていうかユウちゃんマナー知ってたんだね」
「冗談は口だけにしようかヒメコ」
「いいからやるよ!」
「「「はい」」」
ヒスイから叱咤を受け返事する三人。ヒスイの叱る声に確かにセナが含まれていたが「いまわたし関係あった……?」と思わず疑問を浮かべる。
賽銭を入れ、鈴を鳴らし、二回礼をして二回拍手をする。全員目を閉じたまま沈黙が続く。最後にまた礼をし、四人は振り返った。
「皆さん、何を願いました?」
帰路の途中でおみくじを買いながらセナは問う。
最初に結果を見たユウが口を開いた。
「今年も健康でいられますように、かな。あ、末吉だ」
「ベターだねぇ。私はもっとつよ────役に立てるように。なんたってリーダーだからね。あ、ユウ勝ったよ。吉だ」
「あ、そういう風に答えてくの。僕はやっぱりアイドルとしてテレビでデビューするとかかな! あと雑誌モデルになりたいとか!」
「煩悩の塊すぎる。却下」
「ユウちゃんに却下する権利はないでしょー。あ、やったー! 大吉だー! 神に愛されてる、ひゃっほう!!」
「セナちゃんはどうだったの?」
「聞けよ!! せめて何か反応しろよ!!」
無視されたヒメコを可哀想と思いつつ、セナもヒスイの問いに答える。
「わたしは……今年も『HALF』と……この四人で過ごす時間が増えますように、ですね。皆さんと過ごした時間は本当に暖かくて、わたしのずっと大事な宝物です。だから、今年も続けていけるように」
「なんだよ気持ち悪いな」
「今良いこと言ったと思うんですが!?」
心外なことをユウに言われ、少し傷付いた気になったが、ユウの方に視線を向けると彼女は頬を赤らめて目を逸らしていた。
まったく、冗談が分かりにくい困った人だ、と呆れながらもセナはじっとユウを見つめる。
だが不意におみくじを思い出し、結果に目を向けてぽつりとセナは答えた。
「…………大凶です」
「見事にオチが着いたな」
「ひどい!!」
セナの嘆きが早朝の寒空に響き渡った。
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