第1回メリクリ女子会
────真っ暗な部屋に一筋のスポットライトが一人の少女を照らす。
燃えるような赤髪に血のように赤黒い瞳の少女は腕を組み、椅子に座ったまま話し始める。
「……今日もこの季節がやってきた。ある者は愛しの恋人と共にデートを、ある者はお家で盛大なパーティーを、ある者は熱い性の6時間を、ある者は孤独な夜を……コホン、これは失敬」
咳払いし、仕切り直すように少女は言う。
「今宵もまた、ある世界で二人は特別な夜を過ごす。なあに、今日という日ぐらい幸せを願ったっていいだろう。しかし、私には一つだけ不可解な疑問がある」
そこで一旦少女は口を噤み、しばしの沈黙を置いて至極まっとうな疑問を口にした。
「クリスマス回はこれで2度目だ。しかし、何故彼女たちは歳を取っていないんだい?」
※※※※
ピンポーン、とリコは玄関のチャイムを鳴らす。
ドカドカ、と騒がしい音が響いた後ドアが開き、そっと恋人が顔を覗かせた。
「あ、メリークリスマス……リコ……」
「メリークリスマス、セラ! どうしたの、上がっていい?」
「あっ、ちょっと待って……。わたしが奥に隠れたら入っていいよ」
「なにそれ」
セラの奇妙な言葉に思わずリコが苦笑する。
何故か赤面していたし隠しているような様子も見えたので、サプライズでも用意しているんだろうか。
セラが奥へ消えていくのを確認し、リコはドアを開けて中に入る。念の為、鍵とチェーンは掛けておいた。
(……ん?)
そこでリコは疑問を抱く。今まで彼女の家に上がって自ら鍵を掛けるようなことなどあっただろうか。
とことん珍しい恋人の姿にリコはどこかハラハラドキドキしながらもリビングへと向かう。
そして扉を開けた瞬間、
「メリークリスマース、リコ!!」
と、いくつも折り重なった少女の声と共にクラッカーが四方八方から鳴らされた。突然の出来事にリコは目を丸くしながらもその中心に立つ人物を見て更に驚く。
「わあ、びっくりした! セラ、どうしたのその格好!?」
「い、いや……ジリアンが『今年はコスプレだー』って言うから……」
クラッカーを持ち、赤面しながら目を逸らすセラはまさかのサンタのコスプレをしていた。
赤い三角帽子を被り、普段ポニーテールで束ねられている白髪は髪留めをつけずに真っ直ぐに下ろされている。そしてご丁寧にもちょび髭を付けて、何ともシュールな格好になっていた。
「ぷ、ふふっ、セラ、何その、格好……」
リコは口元を手で抑えるが頬の緩みまでは抑えきれず、笑みがこぼれてしまう。その様子を見たセラはむっと表情を変えて拗ねるように言った。
「だって、ジリアンが『折角なら完全に真似していくっす』とかいうんだもの。もういい、知らない、お髭外す!」
「あー、勿体ない……。貴重な姿だったのに」
そう言って肩を落とすのはトナカイの角をあしらったカチューシャを身に着けた桃色の髪のリコの親友、ジリアンだ。
「にしてもセラ先輩、本当にチョロいっすね。最初ゴネてたのにリコが喜ぶかもーとか言ったらスッと真面目な顔して『じゃあ着る』とか言っちゃうんすよ。もう面白くて面白くて」
「でしょー? セラったら、普段は照れ屋さんの癖に私のことになるとすーぐ乗っちゃうんだから」
「リコもジリアンもやめて! 恥ずかしいよ!」
「ほらまた顔赤くしてる」
「いいじゃん今日ぐらい惚気けちゃっても。っていうかいいなー、私もコスプレしたかったなー、ミニスカサンタとか」
「みっ……!? そんなの破廉恥すぎない!? ダメだよリコ!」
「何を想像しているんですか。リコさんの分も用意してありますよ」
横から口を挟んでくるのは同じくトナカイのカチューシャをしたヘイゼルだ。笑顔でサンタ衣装を持ってくる辺り、彼女も結構乗り気なようだ。
ご所望通りのミニスカサンタにリコは目を輝かせる。
「ホント!? ありがとう! っていうかせっしーはどうしたの? ヘイゼルがいるんならせっしーも来てるんでしょ?」
「何であいつが私とセットになってるんですか!?」
「だって仲良いから」
「え、仲良いんじゃないの?」
「お似合いじゃないスかあの二人」
ヘイゼルの言葉に三人は当然のような表情で答える。
それに対し、ヘイゼルは顔を赤らめて怒号を飛ばした。
「なっ!? 心外です、そんな訳ないじゃないですか! セシリアさんなら向こうの隅っこで項垂れてますよ!」
と彼女がいる方向を指差すヘイゼル。
視線の先には緑色の髪にたくさんの飾りがつけられたヘイゼルの姿があった。
「せっしー、どうしたのその格好?」
「……ワタクシハタダノ『木』デス、キニシナイデクダサイ」
「せっしー?」
「キニシナイデクダサイ」
「何か、『貴方達クリスマスを何だと思っているんですか!? 偉大なる主様の誕生日なのですよ! それをこのような催しなど!』とか怒ってたんスよ。んで、ヘイゼルも来ると言ったら嬉々としてついてきて。そんでコスプレするって話になったらこんな風に不貞腐れちゃって」
「は、はぁ……」
死んだような目をするヘイゼルの姿は中々新鮮なものがあったが、これ以上触れるのはいけないとリコは彼女から離れることにする。
それから。
「セラー、見て見て! お着替えしてみたよ!」
「わ、すごい……可愛いよ!」
「えへへぇ……。あ、お髭も付けてみる?」
「…………ふっ」
「何で全員笑うの!?」
と、リコがサンタ衣装に着替えたり、
「ほらー、セシリア先輩。ケーキ無くなっちゃいますよー」
「……ワタクシノコトハイイノデス、ホットイテクダサイ」
「ヘイゼルからもなにか言ってあげなよ」
「え、私ですか!? ……しょうがないですね。ほら、セシリアさん。いつまでも拗ねてないで一緒に食べましょう?」
「……! かしこまりました聖女様今すぐそちらへ向かいますぅぅぅぅぅ!!!!!」
「きゃああああ変態!?」
「ほら、やっぱり仲良いじゃん」
「違いますから!!」
と、セシリアが生気を取り戻したり、
「二人の馴れ初めってどうだったんすか?」
「ええと、雨の日に傘を忘れて私が困っちゃってて」
「それで、わたしが心配して声を掛けたんだよね」
「あの時のセラかっこよかったなー」
「もう……。あの時のリコも可愛かったよ」
「えへへ」
「ふふ」
「また惚気けてやがる……」
と、二人して思い出話をしたり。
そうこうしている内にパーティーはお開きになり、部屋にはセラとリコだけが残った。
「楽しかったね」
「うん」
「みんな呼んでくれてありがとう。家でお友達とパーティーするなんて久しぶりだよ」
「わたしは初めてだったからすごく新鮮で……。うん、本当に楽しかった」
「それは良かったね。……ね、セラ」
「何?」
「今日はその、クリスマスだから。これ」
そう言って照れながらリコは包装された小さな箱を差し出してくる。
それを見たセラは目をぱちくりさせながらも、笑顔を浮かべて受け取った。
「ありがとう! わたしもお返しにこれ!」
セラから渡されたのはリコよりも大きめの箱。
言わずもがな、せーので二人は同時に箱を開け、プレゼントの中身を見る。
「……! これ、もしかして……!?」
「……あ、リコがずっと頑張ってたのって……!」
リコが受け取ったのはもこもこした淡紫色のコート。以前、リコはこのコート着てみたいと、何気なく雑誌を読みながら呟いたのだが、セラはその言葉をずっと覚えていたのだ。
そしてセラが受け取ったのは水色のマフラー。リコが毎晩遅くまで編み込んで作った手作りのマフラーであった。
「ありがとう、セラ! 軽く言っただけだったんだけど、ずっと覚えてくれていたんだね!」
「うん、着たら絶対似合うと思って。リコもありがとう、このマフラーすっごく可愛いよ!」
「えへへ、ありがとう。褒められると頑張った甲斐があるのです」
と自慢げに胸を張るリコ。
それからリコはゆっくりと腕をセラの首に回し、頬を赤らめてそっと囁いた。
「メリークリスマス。大好きだよ、セラ」
「メリークリスマス。わたしも大好き、リコ」
二人の唇が重なる。
特別な日に交わすキスはいつもよりもずっと熱く、甘い気がした。
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