外伝5 ろりこん疑惑

一瞬、ビシリと時が止まった。


数秒後我に返った僕は、慌てて手に持っていたお皿を置き、蛇口から流れ続けていた水を止めた。


出しっぱなしではもったいない。


「え~っと……ろくちゃんごめん。よく聞こえなかった」


動揺を隠しつつ、タオルで手を拭く。


が、その努力は無駄だったようだ。


「そんなに動揺してるってことはやっぱり!」


ろくちゃんは楽しそうに笑って。


「光一って、ロリコン!」


さっきと同じ言葉を放った。


「違うよ!」


慌てて否定する。だってそんなはずはない。


「だって葉音のこと好きなんでしょ?」


「そ、そうだけど……! そりゃそうだけど!! ちょっと待ってよ!」


「光一もうおじさんじゃん」


「14歳でおじさんはないよ!」


大体おかしい。初めて会った時は二人とも僕より年上だったのに、いつの間にか僕が追い越してしまった。


ろくちゃんは少ししか、葉音にいたっては全く成長していない。


「大体、葉音は僕より年上なんだから! 僕はロリコンじゃない」


「見た目がやばいよ。絵に描いたら怪しさぷんぷんじゃん!」


「僕が14で、葉音は10……いや、ちょっと小さい12ぐらいに見えるじゃん! 2歳しか変わんないよ!」


「葉音が人間の12に見えるってのは無理があるよ」


ろくちゃんは楽しそうだ。ひどい。


僕はロリコンなんかじゃ……!


しかしこのまま成長していけば、見た目の年齢はどんどん離れて行く……


「成長止めたい……」


「葉音にお願いしたら?」


「とんでもない代償取られそうだからやだ……」


それに、人間は成長するのが正しい形だと思う。それを歪めたらだめだ。


わかってはいるつもりだけど……それでも僕は、大人になんかなりたくない……


時間よ止まれ!


「ロ~リコン! ロ~リコン!」


「ち・が・う!」


「ロリコン!」


「違うったら!」


そんな言い合いをしていると、オーブンからいい香りがしてきた。


ろくちゃんが来る前から作っていたクッキーが、もうすぐ焼き上がるのだ。


でも決めた。このクッキーは、ろくちゃんにはあげない。

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