外伝4 お正月

「ふああぁああ……」


自然に出そうになったあくびを、葉音はわざと大袈裟に出してみた。


その行動に特に意味はない。強いて言うなら、暇潰しだ。


『眠い……』


12月31日、23時57分。年明けまで、あと少し。


しかし、葉音はその事に特に興味はなかった。


読書にも紅白にも飽きてしまったし、何より眠いのでもう寝たい、と思う。


でも


『ぜったい寝ないでね!ぜぇったい、起きててね!』


光一は今日、そう言い残して帰って行ったのだ。


「あぁもう……なんなのよ」


つぶやいた、その時。


ジリリリリリリ!


滅多に使わない、今まで電話がかかってきた事もない電話が、鳴った。


『そういやあいつ今日、電話番号聞いて来た……』


かけて来たのはおそらく光一だろう。


「もしもし?」


「もしもし、葉音?」


葉音の思った通り、かけて来たのは光一だった。


「当たり前でしょ。他にいないわよ。で、何?」


「じゅーご、じゅーよん、じゅーさん……」


「はあ?」


光一は呪文のような謎の言葉を唱えるだけで、用件を言わない。


「ななー、ろく、ごー、……」


「だから何よ?」


苛立って先を促すと


「あけまして、おめでと~~!」


ご機嫌なあいさつが、返って来た。


先程まで光一が唱えていたのは新年へのカウントダウンだったのだと、それでやっと気がつく。


「お、おめでと」


こちらもあいさつを返すと、光一はえへへっと笑った。


「一番最初に、葉音におめでとうって言いたかったんだ!」


それじゃあまた明日ね、と、光一は電話を切った。


「これでやっと寝られるわけね」


葉音は小さなあくびを一つして寝室に向かう。


いい夢が、見られそうだった。

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