外伝

外伝1 夏休み

「ねぇ、夏休みだね」


光一は葉音の顔を見上げ、キラキラした目でそう言った。


「夏休み……ねぇ……」


葉音はそれにたいし少し考えるようにしてから


「あんたって学校とか行ってたっけ?」


と尋ねた。


「行ってないよ! 毎日葉音のトコに来てるんだから、行く暇なんかあるわけないじゃん!」


「あっそ」


葉音は興味なさそうにそう言うと、お茶を飲み終わって空っぽになったカップを光一に渡す。


「じゃあ、あんたには夏休みは関係ないわね」


「え~~!?」


光一はバタバタと足を踏み鳴らして不満を表現する。


「海とか山とか行きたいよ~!!」


「何を言おうと休みなんかあげないから」


「なんで!? ほかにもプールとかキャンプとか! 葉音と一緒に行けると思って楽しみにしてたのに!」


光一の言葉に、葉音は一瞬驚いて動きを止めた。


「葉音、どうかした?」


「あんた、家族でどっか行きたかったんじゃないの……?」


光一は、問いの意味がよくわからず、首をかしげる。


「そりゃ行きたいけどさ、お父さん仕事で忙しくて、毎年どこにも行けないんだ。


でも今年は、葉音と遊びに行けるかと思ったのに……」


光一はつまらなそうに床を蹴る。


そんな光一を見て、葉音は少しだけ笑った。


「山は虫が出るから嫌だけど、海なら行ってあげてもいいわよ?」


「ほんと!?」


光一は飛び上がって喜ぶ。


葉音はうなずいてニヤリと笑い、


「その代わり荷物は全部あんたが持つのよ」


意地の悪い声でそう続けた。


しかし光一は葉音のそんな意地悪はものともせずに、無邪気に笑った。


「いいよ! 楽しみだね♪」

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