第14話 森に住む人
『森に住む人』という、この村に昔から伝わるおとぎ話がある。
話す人によって少しずつ違う話にはなるが、あらすじは大体同じで、話の最後に必ず『決してあの森には近づいてはいけない』というようなフレーズが入る。
子供が勝手に森に入ってしまうと危ないので、怖がらせてそれを防ごうという目的で作られたんだろう。
この『森に住む人』、俺が小さい頃に母さんから聞いた時は、こんな話だった。
「あの森の奥にはね、小さな家があって、不思議な力を持った人が住んでいるの。
ある人はその人を天使と呼ぶけれど、ある人は悪魔と呼ぶ。本当はそのどちらでもないのかもしれないし、どちらでもあるのかもしれないわね。
一つだけわかっているのは、願いを叶えてくれるらしい、ということだけ。
でもね、うかつに会いに行ったら、何をされるかわかりませんよ。
願いを叶えられるということは、人に呪いをかけることだって、簡単だってことですからね。
特にその人と子供が出会うとろくなことがないらしいから、決してあの森に近づいてはいけません。恐ろしい目にあいますよ」
確か友達も、似たような話を聞いたと言っていた。
ところが、あれから10年以上の時がたち、話は大きく変わったらしい。
今近所のおばさんは、子供達にもっと怖くてえげつない話を聞かせていた。
「あの森の奥にはね、小さな家があって、恐ろしい力を持った悪魔が住んでいるの。
悪魔ってわかる? 恐ろしい化け物よ。
家に人間が訪ねてくると、魂を取り上げてペロリと食べてしてしまうの。
あの森に出入りしている少年の姿を、あなた達も一度くらいは見たことがあるでしょう?
あの子はバカなことに、願いを叶えてもらうかわりに悪魔に魂を売って、悪魔の奴隷になったのよ。
だから晴れの日も雨の日も、朝から晩まで悪魔にこき使われてるの。
そんな風になりたくなかったら、あの森には決して近づくんじゃありませんよ」
子供達はその話を聞きながら、怖がってぎゅっと目をつぶったり、隣に座っている子の手を握りしめたりしていた。
そんな様子を見て、おばさんは満足気に微笑んでいる。
『田舎って怖ぇえ……』
さすがにこんな話を怖がる年ではない俺はと言えば、少し引いていた。
何も実在する人物を引き合いに出さなくてもいいではないか。
「豊お兄ちゃん、オレぜっったい、森には行かないよ!」
少し涙目になっている弟の言葉に、俺は苦笑しながら答えた。
「あぁ。そうしろよ」
俺の時より、大きなリアクションだ。やはりリアルな方が、お話の効果は大きくなるらしい。
『森に出入りしている少年』はかわいそうだが、この方が子供が森に近づかなくなっていいのかもしれなかった。
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