第8話 飾り
店に飾られていたそれを見て、僕は思わず微笑んだ。
天井からぶら下げるタイプの飾り。どうやら、天使をモチーフとしているようだ。
時々風でちらちら揺れて、かわいらしい。
『誰かさんにちょっと似てる、かも』
僕はそれを購入し、ある場所に向かった。
「遅い」
僕がその家に入ると家の主、葉音は開口一番そう言った。
声に、微妙な殺気がこもっている。
「昨日お茶が切れちゃったから、買ってきたんだよ」
僕はそう言って、袋からお茶のパックを取り出す。
「今入れるね」
「もう一つ、袋に何か入ってるみたいだけど」
彼女は袋を指さして言った。
さすがだ。鋭い。
「何? これ」
彼女は袋から、例の飾りを取り出した。
気に入ったようで、揺らしてみたりして微笑んでいる。
「天井からつるす飾りだよ。葉音に似てるな~って思って、買ってきた」
「光一、じゃぁこれ飾って」
「うん。いいよ」
僕はそう言って、葉音の顔を見る。
僕の方が葉音より背が高いので、自然と見下ろす形になった。
そう、見下ろすのだ。
僕が初めてこの家に来たとき、彼女は僕よりも少しお姉さんだった。
それなのに、今では僕の方が年上になっている。
つまり、葉音は歳を取っていなかった。
「なにぼ~っとしてるの。早くしなさい」
「はいはい」
僕はそう答え、天井からそれをぶら下げた。
この飾りもこの家の主人と同じく、ずっと古びず残ることになるのだろう。
この家は僕をのぞいて、みんな時間が止まっているようだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます