外伝2

冬。空に住む人魚達にとっては、寒さが身にしみる嫌な季節だ。


「平和にもなったし、またヴェルに会いに行きたいな~♪」


「掟。破っちゃだめでしょ? 人間に見つかったらどうするのよ!?」


ティンクの言葉に、友達のフィルルがすかさず反対する。


「そっか……そうだよね……」


ティンクは少ししょんぼりしたようにそう答えると、服のポケットから石を取り出した。


「それはどこで取ってきたの? まさか、地上に降りていって取って来た訳じゃないでしょうね!?」


フィルルが尋ねる。


「違うよ。空に帰ってくるときに、取ってきたの」


フィルルの質問に答えたティンクは、その石に傷をつけて下に落とした。


「どうかヴェルに届きますように」


石は遙か下、海へと落ちていった……




フィルルはそんなティンクをしばらく見ていたが、スッとティンクに背を向けて飛んでいった。


「いいな……」


小さな声で、そうつぶやいて。




フィルルが向かったのは、人のこない山の頂上。


そこにはフィルルの親友だったリンフィーのお墓がある。


ただ大きな石に名前が書いてあるだけで、骨が埋まっているわけではないけれど。


フィルルの友達は、一番初めに人間に捕まった人魚だ。人間のせいで死んだ一番初めの人魚でもある。


「私は生き残れたけど……寂しい、よ」


そう言って、近くに咲いていた花を添える。高い山に咲いている花で、小さな花だ。


海の中に生えていた珊瑚を見て、「きれいだね~♪」と言って笑った友達の顔が忘れられない。


けれど、珊瑚をそなえるのは不可能だ。


「……」


フィルルの瞳から、涙がこぼれ落ちる。


「フィルル、こんなところにいたんだ……」


振り返ると、ティンクがいた。


「うん。寂しくなって」


「そっか……。久しぶりだね~リンフィー♪ どう?ここからの景色は、最高だよね?」


明るく墓石に話しかけるティンクの笑顔も、少し寂しそうだった。だが、フィルルはその笑顔に少し励まされた。


「だね♪ ここからの景色は、最高だよ。でも、ほかのところからの景色が見れないのが、欠点かな? 


ここの景色ってどこの景色よりもいいから、十分?」


自分も石に笑いかけてみる。そして墓石に背を向け、ティンクとともに山を離れた。


「ばいばい。また、来るね♪」


最後にそう言って、墓石に向かって手を振って。

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