第7話
元々空に住んでいた人魚達は泳ぎがあまりうまくない。
そのため、元から海にすんでいた人魚達に比べ、人間に捕まりやすかった。
海では生き残れないと考えた人魚達は、人間の好きをついて一人、また一人と空に帰って行った。
そして一ヶ月後。
空に住んでいた人魚の中で海に残っていたのは、ティンクだけだった。
「こんなことになっちゃったのは……私が掟を破って、地上に降りてきた、せいなのかな……」
ティンクは落ち込んでいた。そんなティンクに、ヴェルはやさしく声をかける。
「ティンクのせいではありませんわ。悪いのは人間です。ティンクが悪いわけではありません。
だからそんなに落ち込まないでください。人魚が二つの一族に別れてしまうのは、運命なのかもしれません」
「……」
「長老が言っていたのですが……大昔に人魚が二つの一族に分かれたのも、人間のせいだったんだそうです。
ですから、やはり運命としか言いようがありません。ティンクのせいでは、ありません」
「ありがと」
ティンクに少し笑顔が戻った。ヴェルはその笑顔を見て、ずっと言おうと思っていたことを、今言おうと決意した。
「ティンク、あなたもほかの方々と同じように、空に帰るべきですわ。
ここは海。あなたの住むべき場所ではありません。ここは危険ですから」
「何言ってるの? 私は帰らないよ!」
ティンクは驚いてそう答えた。帰るつもりは全くなかったのだ。
「私も、ティンクに帰ってほしくはありません。
でもティンクは泳ぎがあまりうまくありませんから、捕まってしまっては大変です。だから……」
ヴェルは一度口ごもったが、きっぱりと言い切った。
「ティンクは、空に帰るべきです」
ティンクの身を本当に考えるなら、空に帰すべきなのだ。
「私、帰りたくないよ……。ヴェルと、一緒にいたい」
「私も、です。でも、そのせいでもしティンクが捕まってしまったら……考えただけでぞっとします。
だから空に帰ってください。ティンクが住むべき場所は、空です」
ヴェルの言葉に、ティンクもついに納得した。
「わかった。私、帰るよ」
そして、その夜。
「ヴェル、もう、二度と会えないね……でも、忘れないよ」
「私も絶対に忘れません。二度と会えなくても、ずっと友達です」
ティンクとヴェルの瞳には、涙がたまっていた。
「それじゃ、行くね!」
ティンクはヴェルに手を振ると、空にあがっていった。
こうして、人魚は完全に、再び二つの一族に分かれたのだった。
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