第6話

空に住んでいた人魚は泳ぎを覚えたが、海に住んでいた人魚で飛べるようになった人魚はまだいなかった。


そこでヴェルは、一番に飛べるようになりたい。と、ティンクとともに練習を始めた。


飛ぶ練習を始めた人魚はヴェルだけではなく、やがて砂浜は毎日人魚でにぎわうようになった。


何も起きなければ、それでもよかったのだが……


「なんか、たくさん人間が見てるね~」


「恥ずかしいですわ。失敗ばかりですのに……」


砂浜にたくさんの人魚がいれば、それを目撃する人間がたくさん出てくる。


「みんな、驚いていますね」


「私もヴェルに会ったときは驚いたよ~。伝説の人魚がホントにいただなんて、さ」


人間達は、とても驚いていた。 けれどヴェルもティンクもほかの人魚達も、あまり気にしていなかった。


だが人間達の驚きは、人魚がお互いの一族の存在を認識した時とは比べものにならないほど大きく……


人魚が大量に現れたというニュースは新聞やテレビから全国の人々に伝わっていき、大事件となってしまった。


謎の生物『人魚』の正体を確かめるべく、研究グループまで作られた。


そしてある日。人魚達にとって衝撃的な事件が起きる。


パーン!


砂浜に銃声が鳴り響いた。砂浜で飛ぶ練習をしていた人魚たちは、慌てて海にもぐる。


「捕まえたぞ! どうやらちゃんと、麻酔銃が効くようだ」


一人の人間が、ぐったりとした人魚をつかんで引きずっていった。


そして人魚を車に乗せ、どこかに連れて行く……


「待って! リンフィーを返して!」


一人の人魚が、海から飛び出そうとした。


「だめ! 捕まっちゃうよ!」


そばにいた人魚が、慌てて彼女を押さえる。


人魚を連れて言ったのは、人魚を研究する研究員だった。研究のために連れて行ったのだ。


「さらわれちゃった……」


「大変、です。人間に、姿を見せるべきではなかったのかも……」


「人間に姿を見せたら、捕まるんだって!」


「ますいじゅう、で撃たれるらしいよ!」


この事件はすぐに広まり、人魚達は海の外に出るのをやめて姿を隠すようになった。


しかし、時すでに遅し。


研究は本格的になってたくさんの人魚が捕まり、中には殺されて標本になった人魚もいた。


そして状況は人魚にとってどんどん悪い方向に進んでいく。


金持ちの間で、人魚を飼育しようという動きが始まったのだ。


生きた人魚は高値で取引されるようになり、研究員だけでなく金儲けが目的な人間も人魚を捕まえるようになった。


こうして自然の中に住む人魚は、急激に減っていった。


捕まえられた人魚達は、狭い水槽に入れられ、エサとして魚が与えられた。


海に、空に、帰してほしいと訴えても、聞き入れられなかった。


そして……海からも空からも話されてしまった彼女達は少しずつ弱っていき、一人、また一人と死んでいった。

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