第4話

次の日。ヴェルは昨日と同じように海面から顔を出してティンクを待っていた。


しかし、なかなかティンクは降りてこない。


『ティンクったら、遅いですわね……』


退屈になったヴェルは、砂浜を眺める。小さな貝殻のかけらが、太陽の光をあびてキラキラと輝いていた。


「あぁ! あの貝殻! 52.18°の角度で太陽の光が差し込むことによって


あの貝殻の持つ独特のピンク色がどちらかというと赤に近いピンク色にうんたらかんたらで……」


ヴェルは目を輝かせて砂浜を見渡す。


「今まで海の中の貝殻しか観察できていませんでしたが、砂浜の貝殻もなんと美しいことでしょう!」


そう叫び、砂浜にあがった。海からあがるのは初めてのことだった。


「あそこでは少し大きめの貝殻に太陽の光が37.62°の角度であたっています!


それによってあの貝殻独特のクリーム色が微妙に城に近くて光を放つうんたらかんたらで……」


ヴェルはその貝殻をもっとよく見ようと近くまで移動しようとする。


しかし貝殻のある場所までは、尾びれで砂浜を移動していくには遠すぎる距離があった。


「あぁ…! もう! ティンクのように飛べたら便利ですのに!」


ヴェルはいらだち、力いっぱい跳ねた。すると……


「!? え? えぇ?? わたし、もしかして浮いているんですか!?」


ヴェルは地面から数センチほど上に浮き上がってしまったのだった。


『海に住む人魚も飛ぶ能力を持っている。ということでしょうか……


ということは、空に住む人魚も泳ぐ能力を持っているのかもしれません。これは大発見かもしれませんわ!!』


ヴェルは自分が浮いていることを忘れ、考えにふけった。すると、たちまちヴェルは落ちてしまった。


「痛い……尾びれがひりひりします……」


自分の尾びれを確認する。どうやら傷はつかずにすんだようだ。


『よかったです。傷にならなくて』


ヴェルがほっと一息ついた時だった。


「お前さ、いったいなんなの?」


男性の声がして顔を上げると、ヴェルは五人の若者に囲まれていた。


「!?」


「お前、ホントに本物の人魚?」


「本物……だよな?」


若者の一人が、ヴェルの尾びれにさわる。


「さわらないでください!」


ヴェルは若者の手を振り払い、距離をとった。


人間がどんな生き物かはよくわからなかったが、なんとなく身の危険を感じる。


「うわぁ……本物だぜ」


「どうする?」


「とりあえず捕まえようぜ」


「わかった」


若者が、ヴェルに手を伸ばす。


砂浜では、ヴェルはあまり自由に動けない。必死に逃げても、すぐに追いつかれてしまう。


「いやです! こないで!!」


ヴェルがそう叫んだそのとき。やっとティンクが降りてきた。


「ヴェル!!」


ティンクはとりあえずヴェルを持ち上げ、空へと飛び立つ。


「おい!! あいつら空を飛んでる!!」


若者達の驚いた叫び声が、海にこだました。

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