第3話
次の日。ヴェルが海面から顔を出して空を見上げていると、約束どおりティンクが降りてきた。
「掟を破って本当に大丈夫だったんですか?」
ティンクと出会ったヴェルは、まずそう尋ねた。ティンクのことが心配だったのだ。
「大丈夫♪ 掟って言ったって、別に罰とかが決まってるわけじゃないし」
「そうですか」
ティンクの答えに、ヴェルは安心した。そして、ティンクのTシャツを指さして尋ねた。
「それでは、質問です。ティンクは人間によく似た服を着ていますが、その服はどこで手に入れているのですか?」
ちなみに、ヴェルの格好は童話に出てくる人魚そのもの。服は着ていない。
「どっからか服売る人が仕入れてきて売ってるの。
で、それを買ってるっていうわけ。どうしてヴェルは服着てないの?」
「私にとっては、服を着ているほうが不思議に思えますわ。
私たちが服を着ていないのは、水の中では服を着る必要がないからだと思います」
「なるほどね~」
ティンクは自分の服を見て言った。
「これ着てると、泳ぎにくそうだもんね」
二人は初め、お互いの一族のことや自分とは違う環境での暮らしについて質問していた。
しかしだんだん時間がたつにつれて、お互いのことを質問しあうようになっていた。
「家族構成は?」
「私とお母様とお父様の3人です」
「じゃ、ヴェルも一人っ子なんだ。おそろいだね~。じゃぁ、趣味は?」
ティンクがそう尋ねた瞬間、ヴェルの瞳が輝いた。
「趣味は、貝殻の色と太陽の光の関係について研究することです。実はこの間大発見をしましたの。
雨の日の太陽の光というのも微妙にありまして、その光が貝殻に45.32°の角度であたると
貝殻の色がどちらかというと緑に近いエメラルド色にうんたらかんたら……」
キラキラした瞳で、貝殻の色と太陽の光の関係について語るヴェル。
なんとなく危険なにおいを感じ、ティンクはその話を遮った。
「ごめん、それ私には難しすぎるみたい。ちなみに私の趣味はお散歩♪」
「お散歩ですか。わたくしも好きです。
空の散歩をしたことはないのですが、海の中の散歩というのも楽しいものですよ。
特に、水の中に差し込む太陽の光が一筋の線となって、
沈んでいる貝殻に36.28°の角度であたっているのを見つけたときなど、最高です!」
「……それって、めったにないんじゃない?」
「まぁ、時々しかありませんわね。見つけたときはもう感動ですわ。あと、」
「……結局ヴェルは、貝殻の色と太陽の光について研究するのが好きなんだね」
「そういうことになるかもしれません。でも、散歩も好きですよ。」
「楽しいよね♪」
楽しげに話している二人を、目撃した人間のおばあさんがいた。
おばあさんは呆然と二人を見詰めた後、「人魚じゃ~~!!」と大声で叫びながらすごい勢いで走っていった。
「今日は楽しかったね♪ また来ていい?」
「私しもまた遊びに来てほしいです。私が飛んでいければいいのですけれど」
「それは無理でしょ~。じゃ、明日また同じ時刻にね」
こうして二人は、友達になったのだった。
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