片思い中のあの人は2

 毎朝空き地の前ですれ違い、挨拶を交わすあの人は、多分昔近所の寮の、23号室に住んでいた男の子だと思う。


 四年前にここを離れた私は知らないけれど、つい最近まで23号室に住んでいたその子は、なかなかのイケメンだったらしい。


いろんな女の子をとっかえひっかえして遊んでいて、見るたびに違う女の子を連れていた、とか。


「こんにちは」


「こんにちは」


 私が挨拶すると、彼はいつも足を止めて柔らかく微笑んでくれる。この笑顔じゃモテて当然だな、って感じ。かっこいいな、と、毎回思う。




 毎朝空き地の前ですれ違い、挨拶を交わすあの人は、多分昔近所の寮の、23号室に住んでいた男の子だと思う。


23号室の彼は優しそうな笑みと高い背で、女の子にモテモテだったらしい。それで少し調子に乗っていたところがあって、同時に何人もの女の子とつきあっていたとか。


そんな彼だが、毎朝ジョギングをする習慣があったらしい。きっと、寮を出た後もジョギングコースを変えていないんだろう。だから毎朝すれ違うんだと思う。




 つい一ヶ月前、23号室で殺人事件が起きた。そこに住んでいた少年を、女の子が首を絞めて殺したのだ。彼女は、「彼を自分だけのものにしたかった」と供述したとか。痛ましい事件だ。怖い怖い。




「こんにちは」


 今日も彼とすれ違う。彼は挨拶を返してくれる。私の連れている犬が吠えても、気にしない。


「こんにちは」


 柔らかく微笑む彼の首には、青い大きな痣がある。人間の手の形の痣。首を絞められた跡みたいな痣。


見てるだけで痛々しい、酷い痣だ。それでも彼は、痣を隠そうとすることも、人目を気にすることもなく、堂々と毎朝ジョギングをしている。


「どうかしましたか?」


 考え事をしていると、彼にそう尋ねられてしまった。


「ええ、っと」


 少し考えて、勇気を出して言ってみる。


「近くに犬を連れて入ってもいいカフェがあるんです。一緒にお茶でもしませんか?」


 彼は一瞬きょとんとしたが、すぐにあの魅力的な笑みを浮かべた。


「俺も同じこと、言おうと思ってたんです」


 ああこうやって、女の子をおとしてきたのね。騙されてるな、って思うけど、もう駄目。


 大好き。

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