ソラ 2:真っ逆さま


いつもの通り星の採掘をしていて、うっかり空を割ってしまった。


体重を乗せていた手が、支えを失う。


「げ!」


星を入れた袋を持ったまま、真っ逆さまに落ちる。


夜空の破片が、私より速く落ちていく。続いて、さっき手を離してしまったのみと槌が落ちていった。


嘘、あんなに下まで落ちるの!?


頭からぐんぐん落ちていく。途中雲にしがみついたりしてみたが、すぐにちぎれてしまって意味が無かった。


「さようならお母さん、お父さん、お姉ちゃん。こんにちはおじいちゃん!」


おじいちゃんも去年、星の採掘の途中で空に大穴をあけて地上に落ちた。今の私と全く同じ。


ああ、なんて哀れな私! 地面に叩きつけられたら、頭蓋骨がぐしゃーってなって、体もぐちゃーってなって、私かどうかなんてわからなくなっちゃう。 


せめてもっと綺麗に死にたかったな。月に腰掛けてうたた寝してたらいつの間にか……っていうのが理想だったのに。


地面が見えきた。いよいよぺちゃんこだ。


どーん! というものすごい轟音とともに、地面につっこんだ。


「…………痛い……」


死んだ後も、意識というものは残るらしい。体は、生前の姿と同じかな? ぐちゃぐちゃになっているなら見たくない。見てみる勇気がなかなか出ない。


「驚いた。空と一緒に孫が落ちてきた」


寝転がったままぼんやりしていると、人がのぞき込んできた。おお。おじいちゃんだ。


「ここって天国? 死んでも生きてるときと、あんまり変わらないもんだね」


「馬鹿たれ。空から落ちたぐらいで死んでどうする」


「えー、でも結構落ちたよ」


「いくら落ちようと、大したことじゃない」


おじいちゃんが伸ばしてくれた手を握り、立ち上がる。おじいちゃんの手、暖かい。 


「お前、星持ってるか」


「うん。ちょっとだけど」


「でかした。地上じゃ星は高く売れるんだ。空ほどじゃないがな」


よく見ると、おじいちゃんは空の破片を持っていた。


「こんだけありゃあ金持ちになれる。空の上にいた時よりいい暮らしが出来るぞ」


「じゃあお母さんたちも呼ぼうよ」


「無理だな。連絡のとりようがない」


空を見上げる。遠い。上から見ていた地上より、ここから見上げる空の方が、ずっと。


おじいちゃんの手が、ぽんっと私の頭に乗せられた。


「あきらめなさい。俺も始めのうちはいろいろ試したが、無理だったよ」


「二度と会えないの?」


「だろうな。うちの家族で落ちるような間抜けは、お前と俺くらいだろう」


ぎゅっと、手を握られる。


「行こう、破片と星を換金したら、何でも好きなものを買ってやるよ」


おじいちゃんの声が優しい。だから、今は泣かない。実感もまだわいてないし。


後でおもいっきり泣こう。いくら泣いたって、もう涙が雨にはなったりはしないんだろう。だったら、隠れて泣いても誰にもばれない。


おじいちゃんに手を引かれ歩き出す。一歩一歩の感触が、今までとは全く違っていた。





――終わり――

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