ソラ

ソラ 1:お空の上は


「あれなー?(あれ何?)」、「これなー?(これ何?)」


ついこの間までただそう繰り返していた娘が、最近では「なんで?」「どうして?」さらには、「~ってどうなってるの?」と言ってくるようになった。


少し面倒ではあるが、面白くもある。


大人が当たり前だと思っているようなことを疑問に思う様子が、かわいらしい。


「お空の上ってどうなってるの~?」


ある日、そう尋ねられた。宇宙があるのよ、と答えようとして、それじゃあんまり面白くないな、と思いとどまる。そうだ、昔。


「おばあちゃんがね、お空の上にも人が住んでるって言ってたわよ」


眠れないと騒いだ私に、母が聞かせてくれたお話。


「その人たちはね、お空に足をつけて立っているの。それでね、夜に見える星、あれを掘って暮らしてるんですって」


「すごいね!」


娘の目が輝く。


「雨はね、その人たちの涙なの。だからその人たちは、隠れて泣いてもすぐにばれてしまうそうよ。雨になるから」


「りっちゃん泣かないよ!」


「そうね、りっちゃんは強いものね」


娘の頭をなでてやると、娘は目を細めて嬉しそうに笑った。


「さ、そろそろご飯の準備しないと。今日何がいい?」


「スパペッピー!」


スパペッピーとは、スパゲッティーのことだ。娘は最近ミートソーススパゲッティーがいたくお気に入りで、いつもリクエストしてくる。


「同じはだめ。ほかに食べたいものない?」


「やだー!」


騒ぐ娘を尻目に考える。そうだ。母はおそばが好きだった。今日はおそばにしよう。


「今日はおそばね。お母さん準備するから、りっちゃんはあっちで遊んでて」


「やだー!」


「わがまま言わないの。わがまま言うと、お空の上の人に頼んで、りっちゃんを連れてってもらっちゃうよ」


むーっと膨れた娘の顔をちょんとつつく。


「りっちゃんお空なら連れてかれても平気だもん」


そう言いながらも、娘は一応おとなしくなった。


さあ、昼食の準備だ。娘をリビングに残し、台所に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る