花火(森の神様外伝)

 一人の少女が、森の入り口で人を待っていた。名を、レアといった。

 彼女は元々この森の民族の人間だ。

 しかし神語の勉強をしすぎたために神の秘密を知ってしまい、今では村の外の街で暮らしていた。


 村に帰ることは、許されない。けれど手紙のやりとりをすることは許された。

 一月に一度、ここで長老を通してやりとりするのだ。

「待たせたな」

 森の奥から、長老が歩いてきた。

「いえ。そんなに待ってはいません。今回も手紙と、それからこれも」

「これは、なんだね?」

 手渡されたひものような物を見て、長老は首をかしげる。

「線香花火っていうんです。妹が喜ぶと思って」

「そうか。確かに、渡しておく」

 長老はそう言うと、森の奥へと帰って行った。


 *


 長老はそれからすぐにレアの家族のもとに行き、手紙と線香花火を渡した。

 「ありがとうございます」

  母親は微笑んでそれを受け取る。長老はそれを確認すると、自分の家へと戻っていった。

「お母さん、早く見せて! 見せて~!」

「そうせかさないで、リア。今あけるわ」

 リアと呼ばれた少女は、レアの妹だ。

「早く見せて~」

 母親はレアからの手紙を読み上げた。

 神様が海の魚や外国の魚が見られる施設(水族館)を作ったこと、神様に火でできた花を見せてもらったことなどが書いてあった。

「みんなにも火でできた花を見せてあげたくて、長老に火の花の素を渡しました。

 ひものようなものがそうです。ひらひらした方を持ち、太い方に火をつけてください。

  綺麗な火の花が見れます。火がついている間、なるべく揺らさないようにしてください。

 これは、線香花火というそうです。火が消えたら水をかけてください。

  終わった後も、森に捨ててはいけません。大切に持っていれば、いつでも神様が守ってくれます」

 母親は読み終わると、手紙をたたんだ。

「お姉ちゃんが送ってきてくれた、線香花火に火をつけてみましょうか。

  終わったら水をかけなければならないそうだから、川へ行きましょう」

 母親はリアを連れ、川へ歩いていった。

「早く早く!」

 川につくと、リアはぴょんぴょんと跳ねながら母親をせかした。

「はいはい」

 母親は地面にしゃがむと、手紙に書いてあった通りに線香花火に火をつけた。

 火花がぱちぱちと花のような形をつくる。

「わぁ…綺麗! かわいい!」

 初めて見る花火に、母もリアもうっとりと見とれていた。

 やがて、火が消えた。

 母親は線香花火に川の水をたっぷりとかけ、草で包むと立ち上がった。

 「さぁ、帰りましょう。このひもは、大切にとっておきましょうね」

 「うん♪」

 二人は嬉しそうに家に帰っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る