第4話 Orange sky

 病室を出て、しばらくボケーッと歩いていた。

 そんな病気があるなんて知らなかった。

 現実を認識できていない…

 言われてみれば、そうなのかも知れない。


 僕は何のために生きているのだろう?

 死んでないから生きているだけ…


 何処をどう歩いたのか?


 病院の屋上から街を見ていた。

 ゴチャゴチャとした街。

 この街へ来て、どのくらい経ったのだろう?

 あと…どのくらい、この街にいるのだろう?


 これだけ街を転々としても、きっと僕は誰の思い出にもなっていないのだろう。

 僕を覚えてるとしたら、何かを直してやったヤツだけだろう。

 幾度か風俗嬢の時間を戻した。

 本人に言っても無駄だから、依頼主はヤクザだ。

 金を貰って、数年間時間を戻してやる。

 つまり若返るわけだ。

 あるいは中絶や性病にかかる前に戻してやる。

 本人は、何も知らない。

 必ず仲介人が必要なのだ。


 だからまともに働かなくても金には困らない。

 嫌気がさすと、その街を去る。


 幾度、繰り返した?

 幾度、繰り返す?


 屋上で空を見ていた。

 気付けば夕方、オレンジの空は美しく、ゴチャゴチャとした街を忘れさせてくれる。

 この空へ溶けて逝きたい…


 ふいに手すりを越えてしまおうかと歩き出していた。


「あの…危ないですよ」


 後ろを振り返ると、車いすの女性。

 20歳かそこらだろうか…


「あぁ…いや…すいません」

「えっ? なんで謝るの?」

「えっ? あぁ…そうですね、すいません」

「また謝った、変なの」

 クスリと笑って…すぐに咳き込んだ。

「大丈夫ですか?」

 慌てて近寄ったものの、何をどうしていいかわからない。

「看護婦さん呼んできましょうか?」

 咳き込みながら、彼女は大丈夫と手でジェスチャーした。

「あの…」

「ゴホッ…アタシ半年…入院してるから…その、なんか解るの…何か死にたがってる人」

 ドキッとした。


 彼女の黒い瞳が、僕の心を視ている…そんな気がした。


 TickTack…TickTack…

 止まっていた時が…

 TockTock…TockTock…

 止めようとした鼓動が…


 今はウルサイくらいに鳴りだした。



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