第3話 Lost memory

「誰?…えっ?…ショウ?」

 おばさんは、自分の子供を気味悪い目で見ていた。

「嘘よ…ショウのはずない…ショウはまだ…3歳…でも…」

「お母さん?」

「ひっ!! いやぁーーーーー!!」

 おばさんは手を伸ばす我が子を突き飛ばして病室を出て行ってしまった。


 その後の事は覚えていない。


 その子のお母さんは、精神病棟へ移されたということは知っている。

「オマエの母さん、頭オカシイんだろ?」

 その子が、そのことで、虐められていたのは覚えている。

「オマエのせいで…」


 その子が最後に僕に言った言葉。

 一家は引っ越して行った。


 結局、クラスの秘密になっていた僕の力も皆にバレて、僕の家族も田舎町へ引っ越した。

「2度と、そんな力を使うな!!」

 父親は、田舎で就職先が見つからず、両親はアルバイトとして働き、僕は、中学卒業と同時に、家を出た。


 地方でアルバイトしながら、ひっそりと生きてきた。

 土地を転々としながら…時々、この力で稼いでは噂になる前に、その土地を離れる。

 この力は金になる。


 でも…代償もある。


 この力は、治すわけではない。

 時を戻すだけなのだ。


 つまり…経過した時間を巻戻すだけ…治しているわけではない。


 だから代償がある。


 生き物に使うと…記憶も戻してしまう。

 あの子の母親は、我が子の成長を信じられなかった。

 まして産んだ覚えのない妹の存在など知りもしないのだ。


 結果、彼女は現実に置いて行かれたのだ。

 経験していない記憶など、持ち得ないのだから…


 知らなかったんだ…何も…

 治していると思ったんだ。

 直していたはずなんだ。


 違った…


 僕は、あの家族の時間を…思い出を奪った。


 時を進めることはできない。

 病気になる前まで時間を戻しただけだった。


 この力は、あまりに残酷だ。

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