第2話 Time for

離人りじん現実感喪失症侯群げんじつかんそうしつしょうこうぐん

 医師は僕にそう告げた。

「なんです?」

「キミは、この現実を生きているという実感が湧かないのでは?」

「いや…そんなことは…」

「どこかね…キミは、その全てが他人事というか、自身ですら俯瞰的に視ているのではないかな」


 いいえ、とは答えられなかった。


 空虚感とでも言うのだろうか、僕には…僕の心には、何も無い。

 子供の頃から…いや、あのときから…


 飼い猫が車に跳ねられた。

 僕の目の前で、幼い僕には猫が死んだということが理解できなかった。

 母親が道路から猫を抱いて、僕の手をひいて、庭へ埋めようとした。

「ミゥにお別れを言いなさい…」

 母親が僕の手を死んだ猫の頭にそっとおいた。

(あぁ…ミゥは死んだのだ)

 そう思うとクタッとしたミゥを抱きしめずにはいられなかった…

 さっきまで、走っていた子猫。

(戻ってきてよ…ミゥ…)

 僕は泣いて願った。

「もう…いいでしょ…ミゥとサヨナラしなきゃ……えっ?…キャー!!」

 母親の悲鳴で驚いて抱いていたミゥを落としてしまった。

「ミャー」

 ミゥはシタッと着地して、伸びをした。

「ミゥ!!」

 僕は嬉しくて、嬉しくて、涙を拭ってミゥと遊んだ。

「嘘よ…嘘でしょ…死んでたのよ…舌を出して…血を垂らして…嘘よ」

 母親は庭に座り込んだまま、ブツブツ言っていた。


 あの日から…僕は、色んなモノを治してきた。

 両親は気味悪がったけど、クラスでは人気者だった。

 ある日…


「ねぇ…お母さんを治してほしいんだ…」

 その子の母親は、その子の妹を産んでから、ずっと入院していた。

「いいよ、簡単だよ」


 生き物に力を使うのは2度目だった。

 僕は知らなかったんだ…この力の怖さを…


 病室に入ると、青白い顔の中年の女性が笑顔で迎えてくれた。

「あら、お友達?」

「うん、あのね、お母さん、病気を治してあげる」

「あら…嬉しいわ、お友達が手伝ってくれるの?」

「ううん、この子が治すんだよ」

「ホント…魔法の薬でも手に入れたのかしら?」

「じゃあ、治すよ…身体を丸めて、おばさん」

「はいはい…これでいい?」

 おばさんは横になったまま身体を丸めた。

 僕は、おばさんを背中から抱きしめる様にギュッと抱いた。

「なんだか温かいわ…」

 おばさんからは、何か薬のような匂いがした。

 その匂いが消えるまで…僕はおばさんを抱きしめた、どのくらいそうしていたのだろう…10分くらいかな…


「あなた達!! 誰?」

 おばさんが急にベッドから飛び起きた。

「えっ?」

 おばさんは…明らかに若返っていた…



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