秋の味覚
秋が深まり、庭の植物は次々に枯れていく。姉が大事にしていたハーブも例外ではなく、「最後のバジルも枯れちゃった」と言って、とても残念がっていた。一応室内に入れてはいたが、元々冬を越せない植物らしいから仕方がない。
この季節になると食べたくなるものがある。たき火の思い出とともに恋しくなる味。こう言うと普通は焼き芋を思い浮かべるのかもしれない。けれど、私たち姉妹は違う。
「ただいまー! 買ってきたよ!」
「やった!」
姉がスーパーの袋から取り出したのは、マシュマロだ。そして、竹串。わくわくしながら、台所に向かう。
竹串の先にマシュマロを刺し、コンロの火にかざして焼くのである。マシュマロと竹串に火が燃え移らないように気をつけないといけないが、とてもおいしく甘くなる。
実家に住んでいた頃、特にまだ小さかった頃には、よく枯れ木を集めてたき火をし、バーベキュー用の金串を使ってマシュマロを焼いた。
今では近所にたき火が出来るような場所はないし、金串を貸してくれる人もいない。それでも毎年、焼きマシュマロが食べたくなってしまうのだ。
串を回してマシュマロをひっくり返したりしながら、焼けるのを待つ。きつね色になったら食べ時だ。熱いので気をつけて食べる。表面はサクッ、中は溶けてトロトロ。
「“はんなりした味”ってさ、こういうのを言うのかな」
姉は既に三つ目のマシュマロを焼き始めていた。
「テレビで聞いたことない? はんなりした味、って」
私が焼いているのはまだ二つ目だ。私は姉よりも長めに焼くのが好きな上、猫舌なので食べるのに時間がかかる。
「もっとお金持ちが食べるようなのに使うんじゃないの? これはもっと庶民的でしょ」
「そっか。串にさして焼いてるようなのは、はんなりじゃないのか」
「だよ。ナイフとフォークで食べないと」
「でも和風の方がイメージに合うんじゃない? はんなりって」
「かもね」
たくさんあったマシュマロが、どんどん減っていく。一度だけ、姉のマシュマロに火が付いた。
「うわ、やばっ!」
姉が大慌てで火を吹き消す。
マシュマロはなんとかコンロに落ちずに、竹串にしがみついていてくれた。落ちるとべったりくっついて面倒くさい。
マシュマロが落ちないよう器用に串を傾けながら、ふーふーと息を吹きかける。燃えたマシュマロは、よく冷まさないととても熱い。
「もういいかな」
と、口にマシュマロを入れる姉。「あふいあふい」と口をはふはふさせたが、火傷はせずにすんだようだった。
「苦くなっちゃったでしょ?」
マシュマロは真っ黒になっていた。あれでは表面は焦げの味だ。
「でも外が苦くて中が甘いから、意外とおいしいよ」
焦げた竹串を新しいのに取り替え、姉はまたマシュマロを刺した。
マシュマロを焼いて食べることを最初に思いついたのは、実家の右隣に住んでいた男の子だった。金串を貸してくれたのは向かいの家のお兄さん。たき火をやろうと言い出すのはいつもうちの父と、左隣の家のおじいさんだった。ご近所みんなでたき火を囲って、マシュマロを焼いた。大人達はビールを飲んでいた。
今この狭いアパートの台所で、姉と二人マシュマロを焼く。いつか結婚して子供が生まれたら、また大勢でたき火を囲えるだろうか。囲えたら素敵だ。
ぼんやりしていたせいで、私もマシュマロを燃やしてしまった。慌てて吹き消し、落ちる前にと左手を出す。
ぼとりとマシュマロが手に落ちた。あちち、と騒ぎながら息を吹きかけ、頃合いをみて、ぱくり。
熱い、苦い。でもその後に、とろりと甘い。
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