つまらないものですが

「つまらないものですが」


 隣人から受け取った箱の中には、おいしそうではあるが何の変哲もない、お菓子が入っていた。


近所のデパートで買ったものとすぐに予想がつく。確かに、面白いものではない。


でも、『つまらないもの』って言うからには、もっとつまらないものじゃないといけないんじゃないかしら?


 私は箱からお菓子を全部出して、中に何を入れるべきか考えることにした。


 コートから取れたボタンに、部屋の隅に落ちてた綿埃。にんじんのしっぽ、玉葱の皮、ほとんど残ってないわさびのチューブとか。


 でもこんなのがつまった箱を渡されたら、なんて失礼な、って思うわよね。


『つまらないもの』を詰め合わせたはずなのに、『失礼なもの』になっちゃう。


 つまらないものつまらないもの。あぁ、あったじゃない! つまらないもの!


 箱を空っぽにしてから、寝室で寝ている夫のところに持って行く。


「ねぇあなた、起きて起きて」眠そうに目をこすりながら夫が起き上がる。「なんだよ急に」


 私はすばやく箱に夫を詰め込んだ。夫はすっきりと箱に収まった。


まるで最初からこの箱が、夫を入れるためにあったみたいに! でも、少し隙間がある。もう一つ何か入りそう。


 しばらく考えて、うんざりしてしまった。この隙間には、きっと私がちょうど収まるのだ。


なんてつまらない夫婦。つまらないつまらないつまらないつまらない。


「おはよ~」夫そっくりに目をこすりながら、娘が起きてきた。


「何それ」「つまらないものよ」私は娘に箱を見せる。


「ちょうどお母さんも入れそうじゃん」「やっぱりそう思う?」「思う思う」


娘は目をこすりながら行ってしまった。多分台所に、朝ご飯を作りに行くのだ。


と思ったら、すぐに戻ってきた「でもさ」


 「つまらないものですが、って、そんなにつまらないもの入れたら駄目だよ。


けんそんの気持ちが大事なんだから。だから珍しくはないけどちょっといいお菓子とか、入れるんでしょ」


 娘の言うことはもっともだった。箱から夫を出してベッドに放り出す。


「なんだよまったく……」夫は二度寝の体制に入った。


 リビングに戻り、最初に出しておいたお菓子を入れ直す。ぴったりだ。まさしくぴったりだった。


当たり前だ。初めからこの箱は、お菓子を入れる箱だったのだから。

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