ハムスターは

ハムスターは死ぬ日の前の晩、元気になる。


初めてハムスターを飼ったのは小学校低学年の時。


よく人の指をかむ、あまり頭の良くないやつだった。名前はハムハム。弟がつけた。


ハムハムは、うちにきて半年くらいで死んでしまった。


お袋によると、死ぬ前日の夜、妙に元気にケージの中を走り回っていたそうだ。


次にハムスターを飼ったのは、小学校四年生ぐらいの時。呼びやすくていいだろう、と親父がつけた名はチッチ。


こいつは人の指をかまずにペロペロ舐める、とても賢いハムスターだった。


しかしチッチも一年もたたないうちに死んでしまう。


やはり死ぬ前の晩、いつもより元気に動いていたのを俺が見ている。


その頃友達の家でもハムスターを飼っていて、しばらくしてそのハムスターも死んだ。


チッチが死ぬ前の晩にすごく元気だったという話をしたら、友達もオレん家のやつもそうだった、と共感してくれたのを覚えている。


そんなわけで、俺の周りで飼われたハムスターが長生きしたことはない。やつらの寿命は約二年だと聞いたことがあるが、俺の家では二匹とも一年生きなかった。


だから奈津がハムスター飼おうと言い出した時、俺はすぐには賛成出来なかった。


「どうせ半年ぐれぇですぐ死んじまうぞ」


「ちゃんとお世話すれば大丈夫だよ」


「つってもな~」


しかし結局彼女に押し切られ、ゴールデンハムスターを飼うことになったのだった。




それから一年。ゴールドはまだ元気に生きている。


だが、俺達の仲は冷めて来ていた。


「ねぇ! ちゃんとコップ使ったらしまってっていつも言ってるじゃん!」


「買い物頼んだのに醤油ね~んだけど!?」


「ねぇリモコンどこやったの!?」


「必要以上にエアコンの温度下げんなよ!」


それでもなんとか関係の修復をはかろうと、週末には二人で出かけてみたりもする。


しかしその試みはいつも失敗し、イライラしながら帰ってくることになるのだった。




23時を過ぎても奈津が帰ってこない。もしかしたら、佐々木と一緒なのかもしれない。


責める気持ちはわかない。俺だって昨日は川崎さんと一緒にいて、帰らなかった。


ガラガラガラガラ。音に、ハムスターのケージを見る。


ゴールドが、今までにないほどの勢いで回し車の中を走っていた。


ハムスターは死ぬ日の前の晩、元気になる。


明日、死ぬのかもしれない。

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