おしゃべり戸棚

退屈そうだね、坊や。一人で留守番するのは、初めてだものねぇ。


どれ一つ、私がお話をしてあげよう。


上から二番目の、右側の引き出しを開けてごらん。そっちじゃないよ。そう、そこ。


奥の方に、手紙が入っているだろう? 古くて黄ばんでるやつ。ああ、読んじゃだめだよ。


それはねぇ、坊やのお祖父さんが坊やぐらいの年の頃に書いた、ラブレターなんだ。


何度も何度も手紙を持って家を出たのに、いつも渡せず持って帰ってきてねぇ。


ついには引き出しの奥にしまい込んじまった。せっかく覚え立ての字で一生懸命書いたのに、もったいないったらなかったよ。


そうこうしているうちに、相手の女の子は引っ越しちまった。あの時のあの子の落ち込みようといったらねぇ~。


最初は泣くもんかって踏ん張っていたけど、最後には我慢できなくなってわんわん泣いてしまった。


さて坊や。あんたは祖父さんの二の舞になるんじゃないよ? ちゃ~んと、好きだ、って伝えなさい。


どうして知ってるかって? ずーっとこの家とあんたを見てきた私に、わからないわけないじゃないの。


いいね? 早いうちにちゃ~んと告白、するんだよ?


おや。そろそろお母さんが帰ってくる時間だね。


坊や、私がしゃべったことは、誰にも言っちゃあいけないよ。


お母さんにもお父さんにも、お祖父さんにもお祖母さんにも秘密だ。


口の軽いおしゃべりなやつだと思われたら、私の中に、な~んにもしまってくれなくなっちまうからね。

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