クリスマスCKDK会~クリスマスにカップルの片方をデーモン小暮に交換する会~

SH

第1話「進め!CKDK会」

 今年もこの季節がやってきた。


 我が”カップルの片方をデーモン小暮に交換する会”、通称”CKDK会”が最も忙しくなる時期だ。


 街中では聖なる夜だか性なる夜だか訳の分からない興奮でフィーバー状態のようだが、そんな浮かれた気分のヤツらを絶望と恐怖のどん底に落とし込んでやるのだ。


 工場でのデーモン小暮の生産状況も好調、オレはいそいそと袋にデーモン小暮を詰め込み、カップル共が溢れる夜の繁華街へ出発する。


「あ、会長! お疲れ様です! これから出発します」

「おう、お前も既に一人前の小暮師だ。油断すんなよ」

「大丈夫ですよ。毎年やってるんです。今日も問題なくやってやりますよ」

「ははっ頼もしいヤツだぜ」

「会長はもう終わらせたんですか?」

「おうよ。もう100組のカップルの片方をデーモン小暮に交換してやったぜ」

「すごい・・・・・・オレも早く会長のようになれるよう頑張ります!!」

「へへへ、無理すんじゃねえぜ。ここまで来るのにオレもだいぶキツイ思いをしてきたからな。それに、今日の小暮は一段と暴れやすい。気を付けろよ」

「はい!」


 会長は今年で42歳、これまでただの一度も彼女がいたことのない歴戦の猛者だ。


 会長が使うのは”時限デーモン小暮爆弾”、クリスマスの最も良い雰囲気の瞬間に片方がデーモン小暮に変わるという代物だ。


 夜景を見ながら良い雰囲気になり、あわやキスをしようとする瞬間に薄目を開けると目の前にデーモン小暮がいる。


 高いレストランを予約し、プロポーズする瞬間に相手がデーモン小暮に変わる。


 日本一のテーマパーク『でずんでいランド』で打ちあがる花火に感動する最中、ふと隣を見るとデーモン小暮がこちらを見て高笑いしている。


 これを全て完璧なタイミングで会長はやってのけるのだ。


「さすが会長だ・・・・・・。オレも急がないと!」


 既に日は落ちている。

 一刻も早く向かわなければならない。


 世の中には『えー彼氏なんていないよー。クリぼっちだよー』だとか、『まあ今年のクリスマスは一人で天体観測かな』とかぶっこいておきながら実はちゃっかり恋人と過ごしてる抜け駆け野郎どもが多い中、会長は本当に一人でこの戦いを勝ち抜いてきたのだ。


 オレだって負けてられない。

 そこらのなんちゃってクリぼっちどもとは既に風格が違う。


 さて、このビルの屋上がちょうどいいだろう。

 眼下を歩くカップルどもがよく見える。


 どいつもこいつも腕を組んだり、手を繋ぎながら笑顔で電飾の海を泳いでいく。


 許しがたい。


 まずは一組目だ。

 袋からデーモン小暮を取り出す。


「ロウニンギョウニシテヤロウカ! ロウニンギョウニシテヤロウカ!」

「ふふ。今日の小暮は本当に活きがいいぜ。興奮で髪の毛が逆立ってやがる。よし、あいつらだ」


 オレは予約したレストランの前で待ち合わせしているカップルをめがけて小暮を投下する。


「ごめーん! ぎりぎりになっちゃったぁ」

「いいよいいよ。まだ予約時間まで早いし」

「すごーい! こんなレストラン来たことない! 予約とるの大変だったんじゃない?」

「まあね。僕のパパがここのオーナーと知り合いでさ。特別に予約できたんだ」

「えーすごーい」


 くそぉ!くそぉ!楽しそうにしやがって!

 それもあと少しだ。よし、うまく小暮が着弾する。


 彼女が小さなうめき声を上げてよろける。


「あれ、エミちゃんどうしたの? まさか感動しすぎて泣いちゃったとか? ははっまだ早いよ。今日はとっておきのプレゼントも用意したんだ」

「うぅ・・・・・・」

「ねえ、大丈夫?」

「フハハハハハハハ!! お前を蝋人形にしてやろうか!!」

「う、うわあ!!!! デーモン小暮だ!!」


 上手くいった。小暮が着弾するやいなや彼女の髪が逆立ち、顔がみるみるデーモンメイクに変わっていった。


「よし、次だ」


 オレは次から次にデーモン小暮を投下する。

 どこもかしこも阿鼻叫喚、まるで聖夜の地獄絵図だ。


「ふふふ、どうだ。これがクリスマスにカップルの片方をデーモン小暮に交換する会の力だ!!」


 オレはこれまで味わったことのない全能感に満たされた。

 聖なる夜に恋人とイチャコラしようなんていう穢れた者どもをオレが成敗するのだ。


「ふう、これで最後か」


 オレは最後のデーモン小暮を袋から取り出す。

 なんだか様子がおかしい。

 小暮がずっとオレの目をみてくる。


「おいおい、なんだよ。お前の獲物はあっち」


 その瞬間、デーモン小暮がオレの腕を掴む。


「え・・・・・・ちょ、なに?」

「フハハハハハ! お前を蝋人形にしてやろうか!!」


 まずい、時間が経ちすぎて小暮ON状態になっている。

 少し調子に乗ってカップル共の騒ぎを眺めすぎたようだ。


「フハハハハハハ!!」

「やめろ! いやだ! デーモン小暮になりたくない・・・・・・!!」


 必死に小暮の腕を振りほどこうとするが、途轍もない力で掴まれている。


「フハハハハハハハハ!! 震えて眠れぇ!!」

「助けて・・・・・・」


 頭の中に『蝋人形の館』のイントロが流れ始めた。

 もうだめだ。


「危ない!! いけ、ちえみ!!」


 その瞬間、小暮に何かがぶつかる。

 衝撃で小暮はオレの腕を放す。


「早く! こっちだよ!」


 訳も分からず屋上から降りる階段の方へ走る。

 息を切らしながら必死の思い出でドアを閉めた。


「あ、ありがとう・・・・・・助かったよ」

「最後のちえみを残しておいて良かったわ」

「え・・・・・・?」


 こいつらは”聖夜に恋人をブルゾンちえみに交換する会”、通称”SKBK会”のやつらだ。

 さっき必死でよく見えなかったが、でも・・・・・・とても可愛い女の子だ。


 とてもSKBK会のメンバーとは思えない。


「キミ・・・・・・CKDK会だよね?」

「そ、そうだけど。あんたSKBKだろ?」

「うん。まあクリスマスに屋上でこんなことしてるのって私たちくらいだもんね」


 どうしよう。とても好みのタイプの女の子だ。

 でもダメだ。

 オレは会長のような戦士になるって決めたんだ。

 ここで心を折るわけにはいかない。

 どれほど可愛い女子であろうと、たとえ橋本環奈のような可愛い子であったとしてもオレの純潔を捧げるわけにはいかない。


「今日はもうおしまいだよね? せっかく同じビルでやってたんだし、これからお疲れ会やらない? 美味しいお店知ってるんだ」

「あ、うん、行きます」


 そしてオレとSKBK会の女の子は温かいシチューを食べて帰った。

 あとLINEも交換した。


 会長はコタツでAKB48のライブDVDを見返していたらしい。


 おわり

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