第3話 泣き黒子さんの正体

街でアイプチを探してから三週間がたった。

二重は諦めたが、せめて目を開けようとスッキリ一重を目指すことにした。

そのために毎日瞼をマッサージしている。


さて、話は変わるがここで私が目指す目標を話しておきたいと思う。


ずばり、美人になりたい!ヒロインのように大輪のバラを背負えなくても、何かの花を一輪でもいいから背負いたい!


だが、美人と一言で言っても様々な美人がいると私は思っている。


一つ、いくら年月が経っても美人と言われる人。―絶対的な美人。


二つ、流行りの美人。年月が経つにつれ、美人と言われたり、ブスと言われる人。


三つ、顔の造形はそこまで良くないが、何故か目を引く雰囲気を持っている人。


と私が思いつくのはこのくらいしかないが、だいたいこんなものだと思う。


この中で一つ目と、二つ目は顔の作りがものを言うので私には無理だろう。

アイプチが無い時点で整形級の美人顔に作り変えることは不可能となった。

となると目指す美人は三番目となる。


いわゆる、「あの子さー顔はブスなのに何故か彼氏が途切れないんだよねー」というやつである。私が狙うとしたらそこしかない。


雰囲気美人の特徴を思い出すと、所作の一つ一つが丁寧で繊細。

言葉使いも美しく、常に微笑んでいたりする。

身だしなみもいつも整えており、相手への配慮も忘れない人だと私は思っているが、それが難しい。


つまり、顔以外は完璧になれということだ。


だが、それしかカルロスを見返すことができないため、やるしかない。


私は『雰囲気美人になる!』という目標を達成するため、一度は習得したマナーなどの授業をもう一度一から受けたいと思い、両親に相談したところ、あっさり許可が出たので最近はダイエットと授業で予定がぎちぎちだ。


ダイエットでは体重が67㎏になったので、筋トレを始めてみた。

上体起こしなどはお腹のお肉が邪魔でまだできないが、背筋、スクワットなどお肉が邪魔しないところは30回1セットとし、1日3回行っている。

肝心な腹筋は体幹トレーニングとういうものをやっている。

私がやっている体幹トレーニングは『フロントブリッジ』というもので、一見簡単そうに見えるがやってみるとなかなかきつい。これを10秒3回を1セットとして、1日5回行っている。


今日も筋トレをしようと部屋で動きやすい格好に着替えて広間に向かおうとしていたら、アビーが部屋に来て


「お嬢様、お客様がお見えです。」


「お客様?そんな予定はなかったけれど・・・どなた?」


「それが、この前街でお嬢様が助けたとおっしゃっていた方なのです。なんでもこの間のお礼がしたいとかで」


街で助けた人とはあの泣き黒子さんの事だろう。

名前も名乗らなかったし、顔も隠していたのに何故私と分かったのだろう?

と感心してしまったが、ふと、今の自分の格好を思い出した。

とてもお客様に会えるような格好ではない。


アビーに着替えを手伝ってもらって急いで応接室に向かった。



応接室に入ると何故か緊張した顔のお父様が泣き黒子さんの反対側のソファに腰かけていた。

お父様が応接室に入ってきた私に気づくと立ち上がり、隣に来るように手招きしている。

私がお父様の隣に立つと挨拶をするように促された。


「大変遅くなりまして申し訳ありません。私はソフィ・マクリーンと申します。」


すると泣き黒子さんは少し慌てた様子で立ち上がり


「いえ、こちらが急に押し掛けたのが悪いのですから気にしないでください。それよりも先日は助けていただきありがとうございました。ソフィ嬢の勇気とあの機転は素晴らしいものだとお父上と話をしていたところです。」

と柔らかい笑みを浮かべた。

その笑顔に少し見とれてしまったが、はっとして返事をする。


「そんな、褒めていただくようなことはなにもしておりません。ただ、見過ごせなかっただけですので。」


「ですが、そのおかげで僕は助かりました。何かあなたにお礼をさせていただきたいのです。」


私は笑顔を作り

「まぁ、ありがとうございます。でしたら今度私が困ったときに助けていただけますか?」


「えぇ、もちろんです。その時は全力であなたを助けましょう!」


「ありがとうございます。えぇっと・・・」


名前を聞いていなかったため、なんて呼ぼうか迷っていると思い出したかのように泣き黒子さんは

「あぁ、まだ名乗っていませんでしたね。これは失礼いたしました。僕はアレク・ミールこのミール王国の第一王子です。以後お見知りおきを」

と優雅に一礼した。


泣き黒子さんが言った『王子』という言葉に私は固まってしまった。

今、王子と言った?そうだ、思い出した。どこかで見たことある顔だなと思ったら『ドキプリ』のメイン攻略キャラじゃないか!

メインなのに、隠しキャラのように他のキャラ全員とハッピーエンドを迎えないと登場してこないキャラクターだったはずだ。

このアレク王子を攻略するためにプレイヤーは全力で走っていたのを思い出す。


なぜ、今まで忘れていたんだ!!

王子のルートは他のキャラのライバルたち全員が出てくる。が、ちょっとしか登場しないので忘れていた。

出番はアレクルートだけだしなとか言っていた過去の自分を殴りたい。

前世の記憶を思い出していると隣から咳払いが聞こえてきて思考が中断される。

(そうだ、王子の前だった!!)


「し、失礼いたしました。少し、驚いてしまいまして。」

と頭を下げると


それを見て王子は少し笑いながら

「僕はあまり社交界に出ていませんからね。知らないのも無理はありません。」

と言って、机の上にあるお茶菓子に手を伸ばしてその中の一つを食べ少し不思議な顔をし


「このクッキー美味しいですね。普段のクッキーより軽い感じがします。」

というので私も一つ取って食べてみる。

!?

これは私が週1の楽しみで食べている『おからクッキー』

普通のクッキーでは太るだけなのでせっかくならダイエットもできるクッキーを食べたいと思い作っていたものだ。

「・・・これは、おからクッキーと言います。」


「おから?」

不思議そうに首を傾げる王子。

普通、一国の王子がおからなんて食べないもの。

私はけして変なものではないということを説明することにした。


「はい。大豆から豆乳を作る際にできるカスの事です。カスと言っても栄養価も高いですし、食物繊維も豊富なので体にもいいものです。」


私の説明を頷きながら聞いていた王子はクッキーを見つめたまま

「へぇ、オルフェイ領ではこんなものを作っているのですね。どこに売っているのですか?」


と聞かれたので、少々気まずくなりながら、

「それは、あの・・・私が作ったものでございます。」


私がそういうと王子はクッキーから視線を移し、驚いた顔をして

「作った?公爵令嬢のあなたが?」


王子が驚くのはもっともなことだろう。普通のご令嬢は厨房に自ら立ったりしない。平民と一緒の事をして恥ずかしい。というのがこの社会だ。だが、おからクッキーなど売っている店などこの領の中にはないし、国の中を探しても見つからないだろう。

私がおからクッキーを作るところを見て家の料理人達が驚いていたくらいなのだから。


私は少しバツが悪くなり

「お恥ずかしながら。ダイエット中のため自分の食べる分は自分で作っているのですが、見た目が普通のクッキーとあまり変わらないので間違えて出してしまったのかと・・・あの、きちんとしたお菓子ならこちらの物を・・・」


そういって、店で売っているちゃんとしたお菓子を差し出すが、王子はいきなり笑いだした。


「あはははは。いえ、失礼しました。まさかダイエットのためとはいえ、自分で料理をするご令嬢を知らないもので。それにしても豆のカスにこんな使い方があったとは・・・。他にも何か面白い事をやっていそうですね。」

王子はそういって目じりに溜まった涙を指でふき取りながら、驚きで固まってしまっている私に向かって手を差し出し


「よろしければお友達になっていただけませんか?」

と満面の笑みを浮かべていた。


私はその手をしばらく見つめ、少し迷ってから手を握り返した。

「はい。私でよろしければ。」

私も王子に負けないくらいの笑顔でそう返した。

(王子のルートでは私はあまりひどい終わり方をしなかったはず!!)


「では、よろしくお願いします。」

そういうと王子は馬車に乗って帰っていった。


それから王子は週一で家に来るようになりました。



★現在のデータ★

名前 ソフィ・マクリーン(13)

身長 153㎝

体重 67㎏

現在の評価:もう、王子様と知り合いなら早く言って欲しかったわ!・・・じゃなくて、ダイエットは順調そうで何よりです。このまま頑張りましょう。

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