第2話 出会い
ダイエットを始めて1週間がたち、体重が72㎏になっていた。
まずまずの出だしだろう。
この1週間、私は毎日一時間のウォーキングをし、食事は自分で栄養バランスを考えながら作った。
スープにいろいろな豆を入れたり、ニンジンを星型に切って入れてみたりして、見た目をカラフルに、楽しくなるように工夫してみた。
また、最近キノコをよく食べるようになった。
キノコはほぼゼロカロリーに近いので、ダイエットにはうってつけである。
今まで、サラダはハンバーグの付け合わせ位の量しか食べなかったが、
ダイエットを始めてからは食事の半分をサラダに変更した。
また、食事の量は朝から夜にかけて少なくし、夜は炭水化物を摂らないようにしている。
大好きだったクッキーは週に1回3枚までと決めて食べている。
クッキーの日以外のおやつは『きゅうり』になった。
少し自分に甘い気がするという声が聞こえてきそうだが、前世の経験上無理してダイエットをするとすぐにリバウンドを起こすため、ストレスをなるべくためないようにすることが大切である。
そんな前世の経験を生かしたおかげか、1ヶ月経つ頃には体重は70㎏にまで落ちていた。
70㎏になって少し身軽になった私は、
ある日鏡を見て、開いているか分からないような一重をどうにかしないといけないという思いに駆られた。
正直メイクはやせてから頑張ればいいと思っていたが、目だけなら今の状態でもどうにかできるのではないかと思ったのだ。
そう思い立った私は街に買い物に出ることにした。
同行してくれるのは私付きのメイド・アビーだ。
アビーは私が5歳のころから仕えてくれている。もう長い付き合いになるメイドだ。
街に行くのにマクリーン家の令嬢だとバレると面倒なので町娘の格好をして出かけることにした。
もちろん日焼け対策もばっちりだ。
長そでの服を着て、サングラスをかけて、鼻の上までスカーフを巻いて、頭にも布を巻いた。
「さぁ、行きましょ!」
と元気よく出かけようとする私に同じく町娘の格好をしているアビーが待ったをかけた
「お嬢様。本当にその格好でお出かけになるのですか?」
「あら、どうしたのアビー。そんなに怖い顔をして」
「お嬢様。大変申し上げにくいのですが、その格好は不審者に間違えられて通報される恐れがあります。」
「えぇ!?そんなに怪しいかしら?」
「・・・・怪しいところしかありません。」
「で、でも日傘をさしていたら目立つじゃない?」
「商人の娘という設定なら日傘をさしていても周りは気にしません。最近じゃ日傘は貴族以外にもちょっとした金持ちのご婦人はさしていますし。
・・・それよりも、目のあたりにかけている黒いものは何ですか?それをかけているだけでアウトですよ」
「そ、そうなの?日傘はありなのね。あと、この黒いのはサングラスと言って日の光から目を守るための物よ。今日のために作ったんだから!ガラスにね、黒いペンキを水で薄めて塗って・・・」
「作り方は聞いておりません!それより、そんな怪しいものを作っている暇があるなら歩いたらどうですか?」
「うっ・・・。確かに。日傘がありならこれはいらないわね。でも、歩くのと同じくらい疲れたのよ?
それに、ガラスを切る時なんか暑くて、歩いているときより汗をかいたわ」
「でも、その黒いのは使いませんよね?使わせませんよ?」
「アビー。そんなにサングラスの事を悪く言わなくてもいいじゃない。私が無駄に頑張ってしまったみたいで悲しくなってくるから。できるなら褒めながら外すよう促してほしかったわ」
「お嬢様、そんな怪しものを作るなんてさすがですね。はい、では早くその格好から着替えて出かけましょう。でないとすぐに日が暮れてしまいますよ。」
私は褒められているのかどうかいまいち分からなかったが、アビーの手際の良さにより、頭の布とサングラスを取られた。
スカーフは顔バレを防ぐために巻いていくことをしぶしぶ了解してもらった。
と言うことでスカーフを鼻の上まで巻いたまま、私は街に出かけた。
今日はメイク道具を買いに来たのだ。
実はこの世界、『ドキプリ』にメイクアップ機能がついていたせいか、
前世の日本で出回っていたファンデーションやアイブローに似たようなものが存在しているくらい
化粧道具が発展していた。
メイクアップ機能では顔全体を自分好みに化粧することができ、
目の形も変えることができた。
目の形を変えることのできる『ドキプリ』の世界であり、メイク道具が発達した世界なら私の探し求めるもの・・・
そう、『アイプチ』もあるのでは?と思ったのだ
早速アビーに今回探すものを説明する。
「その『あいぷち』?と言うやつを探すのですね。かしこまりました・・・が、お嬢様どうやって探すのですか?」
「まずは、人に聞くのが一番手っ取り早いわよね!」
そういって私は近くを通りかかったパッチリ二重のお姉さんに声をかけた
「そこのおねーさん。その目はもしかしてアイプチ?一緒に私のアイプチ探しに行かない?」
と声をかけるとお姉さんはヤバイものを見る目つきで私を一瞥し、足早に去って行ってしまった。
「あれ?ちゃんと本の通りにやったのにダメだったわ」
その様子を見ていたアビーが
「お嬢様。その本はどのような本なのですか?」
「ちゃんとした本よ?確か題名が・・・『これで今日からあなたも一流のナンパ男!女を落として落としまくれ!!※イケメンに限ります』だったわ」
「お嬢様。そんな何の役にも立たないようなものはスッパリ忘れて、普通に聞き込みをしてください。」
「や、役に立たない・・・・。分かったわ、次から普通に聞くわ!」
「はい。普通に、お願いします。」
『普通』に力を込めてお願いしてくるアビーを見ながらそんなに嫌だったのかと思い、
私は次の人から普通に『アイプチ』について聞いて回るのだった。
・・・オレンジに染まる空を見ながら私は落ち込んでいた。
街にある化粧品のお店をすべて回っても『アイプチ』はなく、人に聞いても誰も知らなかった。
(まさか、アバターのメイクアップで目の形が変わっていたのは自力だったとでも?
【伏目がちな目】は常に薄く半開きにしていて、【いつもより大きな目】は常に全力で見開いていたとでも!?)
だとしたら、目の周りの筋肉が違い過ぎる。絶望しかない。
そんなことを考えながら露店の近くに置いてある椅子に座りうなだれる私にアビーが
「また、探しましょう。マクリーン領に無くとも他の領地に行けばあるかもしれませんし、私の知り合いが王都に居ますので聞いてみますから・・・ですから元気をお出しください。」
と優しく元気づけてくれる。
アビーはなんて優しい子なのだろう。と感激していると
そんなアビーはなんて優しいのだろう。と顔を見つめながら感激していると
ーバンッ
突然大きな音が鳴り、びっくりしてそちらを見ると
少年がガラの悪い人たちに絡まれていた。
「おうおう、兄ちゃん。俺はな、金出せって言ってんだよ。ここら一帯は俺らの縄張りなんだからよ、通行料くらい貰わねぇとだろ?」
「お金は持っていませんので、お支払することはできません。」
「金がねぇならよ、その高そうな服を置いていけば許してやるよ」
「やめてください。あなた方に渡すものは何もありません。」
何とかその場を去ろうとしている少年。
だが、その前を塞がれて通り抜けることができないでいる。
その少年は歳は私と同じくらいで黒髪に赤い瞳、右の泣き黒子が色っぽい。
かっこいい。という言葉ではなく、美しいという言葉がしっくりくるような容姿である。
服は確かに一目で良いものだと分かるようなのを着ている。
その人・・・泣き黒子さんは何度も逃げようとしているが囲まれてしまって逃げることができない。
周りはその人たちの事が怖いのか見て見ぬふり。助けに誰も入らない。
(・・・どこかで見たことある気がするんだけど、どこだっけな?んー。まぁ、いつか思い出すでしょう。それにしてもなんて典型的な絡まれ方をしてるんだ。)
だんだん泣き黒子さんが可哀そうになってきたので、私はアビーに自警団の人たちを呼んでくるように頼んだ。
アビーは頷いて走って呼びに行ってくれた。
その際「いいですか、ここでじっとしてて下さいよ。お願いしますから」と言われた。
しばらく言われたとおりにアビーを待っていたが、どんどん窮地に陥っていく泣き黒子さんを助けるため、話しかけようとする。が、見た感じ普通に「やめなさい」と言って聞くような人たちじゃない。
かといって私が喧嘩をして勝つことは絶望的だしな。
とそこで子供たちが遊んでいる姿が目に入った。
ーそうだ!!
(ごめん。アビー。あとでお説教は受けるわ!)
と心の中で謝りながらできるだけ大きな声を出した。
「貴方たちやめなさい!その人困っているでしょ!」
その言葉に周りの人たちの視線が一気に集まる。
ガラの悪い人たちも振り向いてこちらを思いっきり睨んでくる。
「あ"ぁ?嬢ちゃん誰に向かってそういうこと言ってるか分かってるか?俺たちはな、ここら一帯を取り仕切ってるんだぜ?通行料くらい貰わねぇとだろ?なんだったら嬢ちゃんが払ってくれてもいいんだぜ?」
そう言ってゲラゲラと笑い出すガラの悪い人たち・・・長いので不良と呼ぶことにする。
その不良たちに向かって私は
「あなた達の事は知らないけど、自警団をさっき呼んだからもう来るわよ。逃げるなら今だと思うのだけど?」
と言って私は人ごみの方に目を向けて大きく手を振る。
「こっちです!こっち!!」
すると人ごみの中から自警団が仲間を呼ぶ口笛の音が聞こえてくる。
口笛の音を聞いた不良たちは眉間に皺を寄せて舌打ちをすると、
「覚えてろよ!」
と何とも典型的な捨て台詞を吐き捨てて逃げていったのだった。
私は不良たちが全員逃げたことを確認すると、
近くの屋台に行き、お菓子をたくさん買ってさっきの子供たちの元に近づいていく。
私に気づいた子供たちが走って寄ってきて
「おねーちゃん、さっきの感じで良かった?」
「おれ、今日一番の口笛だったんだぜ!」
「口笛上手く吹けなかったんだけど・・・」
など一斉にしゃべりだす。
私は子供たちにお菓子を配りながらお礼を言った。
さっき子供たちが遊んでいる姿が目に入った私は子供たちにあるお願いをしていた。
『私が手を振ったら口笛を吹いて欲しい。』と
お願いを聞いてくれた子供たちがお菓子をもらって嬉しそうに帰っていくのを見守っていると、
そこでアビーが自警団の人たちを連れて帰ってきた。
アビーはお菓子を持った子供たちを見送っている私を見て不思議そうな顔をしながら
駆け寄ってきてくれた。
「お嬢様。お怪我はございませんか?」
「えぇ、大丈夫よ。」
「そうですか。お怪我がなくて何よりです。が、この状況は何ですか?先ほどの不良たちはどうなったのですか?まさか・・・お嬢様何かしたんですか!?」
ガッチリと私の肩を掴みながら問いただしてくるアビー。
は、迫力がすごい。
これは正直に言ってしまうと約束を破ったことがバレてしまい、説教コースに入ってしまう。
私はアビーから目をそらし、早歩きで屋敷に向かって歩き出す。
アビーは小走りで追いついてきて
「お嬢様。どうしても話したくないような事をやったのですか?」
「そ、そんなことはないわよ。」
と私が答えるとアビーはニッコリ笑って
「それでは、何があったか話してくださいますね?」
と笑っているアビーを見て、やられた。と思ったがもう素直に白状するしかない。
(説教、早く終わるといいな・・・。)
さっきの事をアビーに話しながら歩いていると、後ろから誰かに話しかけられた。
そう、あの泣き黒子さんである。
「あの、先ほどはありがとうございました。すぐにお礼を言いたかったのですが、見失ってしまって・・・」
シュンとしてしまう泣き黒子さんに私は慌てて
「大丈夫ですよ!それより、今度からは絡まれないように気を付けてくださいね」
というと泣き黒子さんは顔を上げ、
「本当にありがとうございました。お礼に何か・・・」
「お嬢様ーーーーー。」
泣き黒子さんが喋っている途中で家の使用人が探している声が聞こえてきた。
時計を見ると帰る予定の時間を大幅に過ぎていた。
きっと心配して探しに来たのだろう。
私は泣き黒子さんに一つ頭を下げ
「では、ここで失礼させていただきますね。お気を付けてお帰り下さい。」
と挨拶をすると
泣き黒子さんは何か言いたそうにしていたが、一度口を結ぶと
「えぇ、そうですね。またお会いで切る日を楽しみにしています。」
そう、笑顔で挨拶を返してくれた。
後日その話を聞いたお父様とお母様から2時間ほど説教をもらい、丸1日使って反省文を書かせられました。
★現在のデータ★
名前 ソフィ・マクリーン(13)
身長 153㎝
体重 70㎏
現在の評価:人助けをしたことは素晴らしいですが、自分の心配をしてください。あと、変な本を参考にしないようにしましょう。
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