第4話 どうしてこうなった
ダイエットを始めてから半年がたった。
半年の間に停滞期が来たりしたが、何とか乗り越え現在の体重は52㎏になっていた。
この半年で体重が22㎏も落ちたせいか、無かった首が出現し、頬の肉で埋もれていた鼻が発掘された。ぽっちゃりソフィの誕生だ。
目も瞼についていた脂肪が減ったのか、あの開いているかどうか分からなかった状態から目が開いていると周りに認識されるくらいには開くようになっていたので、マッサージはこれからも継続していこうと思う。
運動の方は最近、体力がついてきたため、一時間のウォーキングから一時間の早歩きに進化していた。
また、筋トレはお腹のお肉が大分引っ込んだので上体起こしができるようになっていた。
おやつは、相変わらずきゅうりのままだが、おからクッキーがおからマフィンに変更になった。週に食べる数は2個までにしている。
さて、今日は朝からバタバタとしている。
何故かというとレヴィ伯爵家長男の誕生パーティーに招待されたからだ。
正直、行きたくない。
このレヴィ伯爵家の長男は何を隠そう『ドキプリ』の攻略対象だ。
私が登場しない攻略対象者とも万が一を考えて出来るだけ関わらずに生きていきたい。
だが、レヴィ伯爵の領地は小さいが、良質な絹が取れることで有名であり、海にも面しているため漁業も盛んなのだ。
マクリーン家の治める領地はサムナー伯爵の領地と隣接しており、現在取引を最も多くしているため、どうしても仲良くしておかなくてはならない。
なので、今回私がこのパーティーに不参加というわけにはいかないのだ。
今回のパーティーを乗り越えるため、特徴を思い出そうと思う。
攻略対象者の名前はサムナー・レヴィ。
性格は道行く女性を赤子からご老人まで口説くという女好き。
金髪碧眼の甘いマスクのイケメンで、口説かれた女性は皆彼のファンになってしまう。
だが、そんな彼にヒロインは何の反応も示さなかった。
今まで彼に口説かれて落ちなかった女性がいなかったため、サムナーはヒロインに興味を示す。
私は紙に書いた彼の特徴を見て、打ち出した対策は
『とりあえず口説かれて喜んどけば何とかなる。』
よし、対策は立てたし、お茶会に出席するための準備はアビーが済ませてくれていたので、私はメイクに取り掛かる。
先ずは基本の下地を顔全体に塗る。ファンデーションは肌の色に合ったものを塗る。
眉は柔らかい印象になるようにアーチ型に。
目じりには茶色でラインを少し長めに引き、その上からブラウンのアイシャドーで少しぼかしてなじませていく。オレンジのアイシャドーを入れてスッキリとナチュラルな目元に。
下瞼にはハイライトを入れて涙袋を作り、まつげはしっかりとカールさせる。
そのままだと唇の主張が強すぎるので、抑えるために周りにファンデーションを塗り、少し薄めにする。唇には下地としてリップクリームを塗ってある。その上から口紅を外側にかけて薄くなるようにグラデーションにしていく。
頬には笑った時、一番高くなる位置にフワッとチークを入れる。
髪型はハーフアップで、顔近くの髪を多めに残して小顔効果を狙ってみた。
ドレスは袖がふんわりして二の腕をカバーしてくれるものにし、色は体が少しでも細く見えるように暗めの物を選んだ。
準備が整った私は馬車に乗り込み、レヴィ伯爵家に向かった。
今回は成人前の誕生パーティーということで一人でも参加可能らしいので一人で参加することにした。
―伯爵家に着くと執事の人に案内されたのは庭だった。
伯爵家自慢のバラ園にてパーティーを行うようだ。会場の周りには様々な種類のバラが咲き誇っている。
会場にはもうすでにたくさんの人が集まっていた。
パッと見る限り一人で参加している人は多そうだ。
私はその中に静かに極力目立たないように入っていきその後ろをアビーが静かについてくる。会場の端の方でグラスを片手に立っていると声をかけられた。
「失礼ですが、マクリーン公爵家のソフィ様ですか?」
私がそちらを見ると金髪碧眼で髪が腰ぐらいの長さまであり、流行りのピンクのドレスが良く似合っている可愛い女の子が立っていた。
私はこの半年で毎日鏡と向き合い鍛えた笑顔を作り
「えぇ、ソフィ・マクリーンと申します。失礼ですが、お名前を伺ってもよろしいですか?」
「失礼いたしました。私はセリーナ・レヴィと申します。本日は兄の誕生パーティーにお越しくださりありがとうございます。」
そういうとセリーナは令嬢らしい優雅なお辞儀をした。
セリーナはサムナーの妹だが、ゲームにはチラッとしか登場してこない。
サムナーのライバルキャラは主にサムナーが今まで落としてきたご令嬢たちの中で過激派の5人だ。
そう、このサムナーのライバルは集団で邪魔しに来る。
ヒロインは人が少ないところに連れていかれ、口々に罵られたり、髪を切られるなど、
悪質な嫌がらせを繰り返しされる。
最後には嫌がらせがバレ、全員修道院送りにされる。
前世を思い出していると、セリーナが心配そうに話しかけてくれる
「ソフィ様?大丈夫ですか?どこかお体の具合でも・・・」
「大丈夫よ。心配なさらないで。貴方が可愛らしいから少し見惚れてしまったのよ」
そういうと、セリーナは顔を赤くして嬉しそうに微笑み
「あ、ありがとうございます。その、今日はどうか楽しんで行ってくださいね。」
と、セリーナが言ったのとほぼ同時に騒がしかった会場が静かになった。
見ると会場の中央にサムナーが立っている。これから挨拶をするようだ。
「会場にお集まりの皆さん。今日は私の誕生パーティーにお越しいただきありがとうございます。今日を無事に迎えることができたのは皆さんのおかげだと思っております。これからもどうかお力をお貸し頂きたいと思っておりますのでよろしくお願いいたします。」
そう言って頭を下げたサムナーに拍手が送られる。
挨拶が終わると音楽が流れだし、会場の中央ではダンスが始まった。
私はその光景を遠目に見つめていると、会場の中央でサムナーがダンスを申し込んでいるのが見える。
しばらく見ていたが、様子が変だ。
特に問題が起こったわけではないのだが、
・・・女子の歓声が聞こえない。
ゲームの中ではサムナーが近くに来るだけでご令嬢たちの黄色い声が聞こえているような状態だったのにそれがない。
不思議に思い近づいていくとご令嬢にダンスの申し込みをしているサムナーの姿があった。
ご令嬢1
「やぁ、コラン家のお嬢さん。美しいね。僕とダンスを踊っていただけないか」
ご令嬢2
「モラノリン家の嬢さん、なんか美しいね。僕とダンスを踊っていただけないか」
ご令嬢3
「ナスマチーノ家のお嬢さん、なんとなく美しいね。僕とダンスを(以下略)」
・・・・同じことしか喋ってない。
そりゃ美しいねと言われて嬉しくないわけではないが、美しいの前に『なんか』とか『なんとなく』とかは要らない。
褒める部分がないなら普通にダンスに誘えば良いのに頑張ってほめようとして墓穴を掘っている感じだ。これじゃあ歓声なんて上がらない。
確か私の記憶が正しければサムナーはこんな下手な口説き方ではなく、きちんと相手を口説いていたはずだ。
例えば、「お嬢さん、君の瞳は澄んだ青色をしているね。まるで海の色を写し取ったかのようなその瞳に僕は引き込まれてしまいそうだよ。」
と言っていたはずだ。
だが、現状を見るにそんな口説きはされていない。
私がゲームの中とは違い口説くのが下手なサムナーについて考えているとサムナーがこちらに近づいてきて
「マクリーン家のソフィ様。そこはかとなく美しいですね。僕とダンスを踊っていただけないでしょうか」
と私の方が家が上のため他のご令嬢より丁寧な誘い方をされたが言っていることはあまり変わらない。
満面の笑みで手を差し出すサムナーを穏便にやり過ごすには誘い方に文句を言わず、
ただ一曲踊って帰ってくれば良いだろう。
ならば私が言うセリフは一つだ。
「嫌です。無理に褒めないで普通に誘ったらいかが?」
(えぇ、もちろん。喜んでお受けいたしますわ。)
私が発言した瞬間辺りがシンと静まり返った。
?
私がその空気に?を浮かべているとアビーが私だけに聞こえる小さな声で
「お嬢様。おそらく思っていることと、発言したことが逆になっております。」
!?
アビーの言葉に顔面蒼白になる。
どうしよう。穏便に済ませるはずだったのに。
このままだと家に迷惑が掛かってしまう。
どうやってこの場を切り抜けようかと考えていると
驚きで固まっていたサムナーが私の手を取り
「少しこちらでお話をさせていただきたい。」
そういって屋敷の方へ引っ張って行かれる。
会場の人たちに声が届かないところまで来るとクルリと振り向いたサムナーが私の手を両手で掴み、
「どうしたら女性を上手に口説けるのか教えていただきたい!!」
そう言ってきたのだった。
私はこの状況に混乱していた。
先ほど言ってはいけないことを言ったと思い焦ったが目の前には私の手を両手で握り、瞳をキラキラとさせたサムナーがいる。
「えっと、わたくしがあなたに口説き方を?他の貴族の男性に聞いた方がよろしいのではなくて?」
「いえ、今まで僕が口説いても皆何も言いませんでした。初めてあなたが意見を言ってくれたのです。なのでどうか貴方に口説き方を教えていただきたいのです。」
キラキラと期待に満ちた瞳で見つめられてはその願いを無下にすることはできない。
それに上手くいけばサムナーがヒロインを口説き落としてくれるのでは?
そうすればカルロスや、アレク王子のルートに入らず私が処刑される危険が減るのでは?
と考えサムナーに了承の返事をすると
私の後ろにいたアビーがサムナーに向かって
「サムナー様、お嬢様は変な本で口説き方を勉強しただけであまり役に立たない知識ばかりかと・・・」
「アビーったら、いつまであの本の事を言っているのよ。今回の本はきちんと評判を調べてから選んだものよ!」
そう胸を張っていう私に
「でしたら、題名と、その評判をお聞きしてもよろしいですか?」
「えぇ、もちろんよ。題名は『ブスでも落とせる最強の口説き方~これであの子もあなたのと・り・こ♡※時の運が必要になります』で、評判は、「この本を読んで口説きに行ったら一発で落ちました。Hさん30歳/男性」「この本を読んで自信が付きました。今から口説きに行ってきます!Jさん56歳/男性」「この本で勉強したおかげで夢の中で好きな女性が一緒にダンスを踊ってくれたんです。48歳/男性」というばっちりと効果が保証された本だったわ!!」
そういうとアビーは片手で頭を押さえて
「お嬢様、その本の内容はくれぐれもお嬢様の胸にしまっておいてください。間違ってもサムナー様に教えてはいけません。絶対に教えないでください。教えたらこれから毎日お嬢様の嫌いなゴーヤをきゅうりの代わりにおやつとして出します。生で。」
そうアビーに言われてしまった。
ゴーヤが生で出てくるのは避けたい。どうしても嫌だ。
「・・・・分かったわよ。じゃあ本の知識ではないのを言えばいいのね?」
「まともな物でしたら」
「その点は自信があるから大丈夫よ。」
なんせゲームの中のサイラスの口説き文句をそのままいえばいいのだ完璧だろう。
アビーと私の会話に置き去りにされていたサムナーを見て、
「いいですか。今からお手本を言いますのでそれを真似してみてくださいね」
サムナーが頷くのを確認した後、会場を見回して一人のご令嬢を指さし
「例えば、あの花壇の傍でグラスを持っているご令嬢を口説くには『君は綺麗な髪をしているね。日の光を浴びてまるで輝いているように美しい。そんな美しい君とダンスを踊りたいのだが、よろしければ僕と踊っていただけないだろうか?』そんな所かしら」
「なるほど、具体的に褒めるといいのですね。勉強になります。」
そういってメモを取るサムナー。
・・・・この人ナンパ男向いてないのでは?と思うがすべては私の処刑を避けるためであり、今回のパーティーでの発言をサムナーの変化で皆の記憶を上書きして欲しいとかちょっとしか考えてない。
そうして、一通りサムナーがゲームの中で口説くときに使っていたセリフを言い終わると、私はサムナーの背中を押し、
「さぁ、私が教えられることはすべて教えたので、後は実践あるのみですわ」
サムナーはこちらを振り向き笑顔で
「はい。行ってきます!師匠!」
と、走って会場にいるご令嬢を口説きに行った。
「・・・今、師匠とか言っていたのは空耳よね」
「残念ながら、私もサムナー様がお嬢様を見て師匠と言っていたのを聞いてしまいましたので現実かと思われます。」
そうアビーが冷静に返してくれた。
私は思わずその場で頭を抱えてしまったのだった。
それからのパーティーでは容姿も相まって口説くのがうまくなったサムナーがご令嬢の歓声を浴びているのを、私は会場の隅で適当に食べ物をつまみながら見ていた。
もちろんヘルシーな料理ばかりにした。
屋敷に帰るために馬車に乗り込んでいると、サムナーと妹のセリーナが見送りに来てくれた。
「ソフィ様、本日はありがとうございました。よろしければ今度は何もない日にお会いしたいですわ」
「師匠!今日は本当にありがとうございました。また相談に乗ってください!」
と笑顔で話す二人に
「えぇ、セリーナさん。今度はわたくしの屋敷に遊びにいらして。歓迎するわ。
サムナー様、わたくしはあなたの師匠ではありません。今度からはそう呼ばないでいただきたいわ。あと、相談にも乗りませんわ。」
そういうとセリーナは嬉しそうに頷き、サムナーは「はい。」と小さく返事をした。
その様子を見てこれで師匠になることは回避できたと満足し、馬車を出し屋敷に帰った。
数日後、サムナーがマクリーン家にやってきて、
「先生!ごそうだ・・・教えていただきたいことがあります!」
と元気よく我が家の玄関で手を振っている姿がみられてから、
一ヶ月に一度はこうしてサムナーが家を訪ねてくるようになりました。
妹のセリーナもその時一緒に付いてきていたので、セリーナとはお友達になりました。
★現在のデータ★
名前 ソフィ・マクリーン(13)
身長 154㎝
体重 52㎏
現在の評価:大分肌が白くなってきましたね。ダイエットも順調そうで何よりです。お友達も出来て良かったわ。後、あなたの部屋からまた変な本が出てきたのだけれど、この本の内容をくれぐれも外で使わないようにしてください。絶対に。
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