第3話

*


魔法使いウィッカが考える、


盗賊団【ティン・パン・アレイ】のメンバーの印象は以下のとおりである。


まずはボス。長い赤髪と眼帯がワイルドな印象を与えるが、


けして粗野ではない。


一つの団の団長らしく、クールで先が見えている。


そしてティング。


ボスからは【突担当】と言われる、一味の切り込み隊長。


バトルになると熱いが、性格は温厚だ。


スマシュ。


【打担当】と言われ、ボスを除けば一番肉弾戦に強い。


無類の酒好きで、でも酒に弱い。


フィーラ。


一味のヒーラーだが、怒らせると一番怖いと言われる。


だが誰も怒ったところを見たことがないので、単なる噂かもしれない。


そしてウィッカ(自分)。


一味の【魔法担当】。自分で言うのもなんだが、しっかりした性格だ。


組織はこういう人間に支えられている。


そしてそして、


一味の最年少、ボスがどこからか拾ってきた、お情けで【斬担当】の職務をもらっている、


戦闘ではいまいち役立たずのラシュが、


哨戒中に謎の少女(シオリ)を発見、一味に引っ張り込んだ。


そして。


「ちょっとティング、もう少しゆっくり歩かないと、シオリの傷に障るよ」


「フィーラ、シオリに回復魔法が効かないとしても、薬草とかは効くんじゃない」


「スマシュ、今日の糧食だけど、シオリの傷のことを考えたら……」


「シオリが……」


「シオ……」


ラシュうざい。


*


相変わらず霧の深いところを歩いている。


昨日までと違うのは、少し地面に起伏が出てきたところだ。


ウィッカはシオリのそばにより、声をかけた。


「ねえあんた、アメ舐めない?


 段差を歩いたら、頭の傷に響くっしょ。


 このアメ、鎮痛の効果があるからさ」


「ありがとうございます」


シオリは律儀にお辞儀をして、アメを受け取った。


「あとさあ、ラシュのことは勘弁してやってね。


 あいつ、同年代の女の子に免疫ないから。


 今はすごく舞い上がってるけど、いずれ冷めるから」


シオリは声を殺して笑った。


「でも、ウィッカさんも同年代なんじゃ……?」


「いや、わたしこう見えて154だから」


「154? 身長?」


「いやいや、年齢」


シオリは目を丸くした。


当初は相当塞いでいたらしいが、だいぶ表情が戻ってきた気がする。


ラシュがシオリを見つけてから、1週間が経とうとしていた。


「154歳? ええと、こちらの世界では、普通ですか?」


「どう説明しようかな〜。


 ええと、いわゆる人間と、人間によく似たエルフとがあるわけよ。


 エルフは少数民族だけど、人間より長寿。


 あとはドワーフとか、ホルピットなんかもいるね」


シオリは感心しきったように口を開けている。


「あんたの格好」


シオリはここに最初に来たときと同じ、Tシャツとジーンズ姿だ。


「変わってるっちゃ変わってるけど、


 人間も地方によってはかなり変わった服装をするし、

 

 ドワーフなんかフンドシだし、


 それなりに受け入れられると思う」


「ありがとうございます」


「だからさ、あんたの行方不明の友達が見つかったらさ、


 その、一緒に楽しく、やっていっても、いいんじゃないかな?」


シオリの目が(ラシュが何かの折に言っていたように、きれいな目をしている)、かすかに曇った。


「ありがとうございます。


 でもわたしはたぶん、お母さんを捨てられない」


*


夜。


斧を携えたスマシュが戻ってきて、代わりに弓を持ったティングが夜警についた。


よいこのラシュとシオリは、もう寝ている。


フィーラは何やら内職をしている。


ウィッカはボスのグラスに酒をついだ。


「【お母さんを捨てられない】、か……」


ボスはグラスを回しながら、遠くを見るような目をした。


「おっ、酒か」


スマシュが入ってきた。


会話の邪魔をしてほしくないウィッカは、あえて強めの酒をスマシュについだ。


「どこの世界も、事情は違えど、変わらないねえ」


ウィッカがしみじみと言った。


「酒の美味しさも変わらな」


スマシュが割ってこようとしたので、もう1杯注いだ。


スマシュはそれを呑むと、むにゃむにゃと独り言を言い始めた。この人は酒に弱い。


「変わらないな。弱い者に責任が押し付けられていくんだ」


ボスは寝袋のほうを見やった。


「ラシュを拾ってきたときの話はしたかな?」


「したっけ? まあ、語っていいよ」


「ラシュには姉がいたんだ。だがある時盛り場に売られていった。


 幼いラシュは姉を探しにいくつもりが、さる貴族のお屋敷に入り込んでしまった。


 番犬に殺されかけたところを、たまたま盗みに入っていたわたしが拾ったんだ」


「ボスがラシュを拾い、


 ラシュがシオリを拾ったわけだね。


 次はシオリが誰かを助けるさ」


「そうなればいいな。


 まあ、どうせ盗賊風情にできることは少ない」


「そうそう、気楽にやればいいよ」


「できました〜」


突然フィーラが声を上げた。


「びっくりした。何ができたんだ」


「これはですねぇ、シオリちゃんの、新しい衣装!


 あの服は血がこびりついてるし、捨てちゃおうかな〜と〜」

 

「や、あの服装は【タカコ】を探す材料になるから」


「ああ〜そうか〜じゃあ普段使いにしてもらおう」


ボスは笑いながら、グラスを傾けた。


彼女にとって、この盗賊団は一時的な 宿場やどりばかもしれない。


だがその宿場が、快い場所であればいい。

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異世界再会譚 見切り発車P @mi_ki_ri

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