第35話 決着とその後
トーチャーキマイラと戦っている三刃と姫乃。二人は力を合わせ、トーチャーキマイラにダメージを与えていた。
「姫乃‼僕があいつの隙を作るから、でかい炎であいつに攻撃できるか!?」
「準備するわ、気を付けてね‼」
三刃は風を使い、トーチャーキマイラに近付いた。そして、周囲に風の刃を発し、トーチャーキマイラに攻撃した。風の刃はトーチャーキマイラを切り裂いたが、動きは変わらなかった。だが、三刃はこうなることが分かっていた。
「姫乃、今だ‼」
「離れてて三刃君‼」
姫乃は武器から炎を発し、トーチャーキマイラを激しい炎で包み込んだ。炎の中からは、トーチャーキマイラの悲鳴が響いた。炎が消え、そこには燃えカスとなったトーチャーキマイラの姿があった。
「きつい戦いだったな……」
三刃はそう言うと、風を発生させ、トーチャーキマイラの灰を飛ばした。
「にしても、お前、あれはやりすぎじゃないのか?騒動になるぞ」
「だけど、あーでもしないと倒せなかったわよ。大丈夫よ、話題になったら売れないマジシャンが手品でもやったって言っておけば」
「そんな下手な嘘が皆に通じるか?」
「私が言えば何とかなると思うわよ。それより、正雄を追いましょう」
「そうだった。光賀たちが戦ってるかもしれないしな」
「ええ。早く行きましょう」
会話を終え、二人は正雄の後を追って行った。
夕は闇を投げながら、正雄の動きを封じていた。先ほどの攻撃で、正雄の右腕に大ダメージを与えた。それだけで、相手の手の内はいくつか封じた。
「クソガキが……お前だけはぶっ殺してやる‼」
光賀は光の槍を飛ばし、正雄を攻撃した。
「俺の友には傷つけるな‼」
2対1じゃ勝ち目がない。逃げるしかない。そう思った正雄は水を発し、夕と光賀の動きを封じようとした。
「水で動きを封じるつもりだ‼」
「まずい、逃げられる‼」
何とか水から逃げようとする二人だが、正雄は先に行ってしまった。その時、夕はあることを思いついた。
「やるしかない……」
夕は闇を作り、正雄に向けて投げた。
「そんなのが届くかよ」
正雄は後ろを振り向き、こう言った。だが。
「尖れ‼」
闇の一部が尖り、正雄の左足を貫いた。
「な……何……」
「よくやった、夕‼」
正雄の上から服部が現れ、正雄を拘束した。
「しまった……」
「ここまでね」
後ろから、三刃と姫乃が現れた。二人とも、武器を持っていた。
「今輝海さんに連絡した。すぐ来るって」
「そうか。それより、お前たちが無事でよかった」
光賀は三刃に近付き、肩を叩いた。
「そっちも無事で何よりだ。夕、大丈夫だったか?」
「うん。僕も、戦うって決めたから」
「そうだそうだ!聞けよ三刃、こいつ正雄と戦ってる時、大活躍したんだぜ~!」
「は……恥ずかしいよ……」
「恥ずかしくなんかねーよ。誇れることだ‼」
光賀は笑いながらこう言った。数分後、急いで駆け付けた輝海が現れた。
「三刃君たちの宿泊訓練場にいるのが、運の尽きだったんだろう。とりあえずお疲れさま。後の処理は結社の方でやっておくから、三刃君たちはすぐに戻ってくれ」
「そうね。宇野沢君が不審に思うわ」
「あいつにばれるとまずい。早く戻ろう」
戻ろうとした三刃達だったが、輝海が夕を呼んだ。
「あー、君が闇の魔法使いの夕君だね」
「あ……はい」
「宿泊訓練が終わったら、結社に来てくれ。君に話があるんだ」
「え……」
「悪い話じゃないよ。結社についての話だよ」
「分かりました。では、また後日」
「おう」
返事をした後、夕は去って行った。輝海は拘束した正雄を連れ、去って行った。
翌日。
「三刃‼お前どこ行ってたんだよ!?女子部屋覗こうって話してたじゃないか!姫乃さんもいなかったし……」
「女子部屋覗き?そんな話してたっけ?」
歯磨きする三刃に、宇野沢はこう話していた。
「覗いてるのがばれたら、女子たちになんて言われるか分からねーぞ。それに、女子の評判上げたかったら、スケベなことを考えるのは止めておけよ」
「うるせー、前言ったエロビデオ貸してやらねーぞ」
「ああ!待ってくれよ!あれはずっと前から探してた奴なんだ‼」
「ふふん。謝るなら貸してやろう」
「ごめん」
「許す」
「朝っぱらから何話してんのよ二人とも!」
姫乃の拳骨が、二人を襲った。
「ご……ごめん姫乃さん。三刃の奴がエッチなビデオを貸してほしいって……」
「全く……男ってのはどうして……夕君みたいにおとなしくできないのかしら?」
呆れた姫乃は去って行った。
「あああ……俺、嫌われたかな~」
「多分な」
「他人事のように言うなよ‼」
数分後、三刃達は広場に集まった。生徒たちの話をこっそり聞いたが、昨日の事は誰も話してなかった。三刃は噂にならなくてよかったと思い、ホッとした。その後、宇野沢が三刃に話しかけてきた。
「今日のキャンプファイアー、楽しみだな~」
「火の回りを踊るあれか。僕は踊れないから興味ないな……」
「お前、忘れたのか?キャンプファイアーで男女ペアになったら、そのペアは結ばれるって話」
「そんな話女子がしてたっけな……」
「あ~、早く姫乃さんと踊りたいぜ‼」
その言葉を聞いた他の男子が、一斉に宇野沢の周りに集まった。
「俺が姫乃さんと踊るんだよ」
「あぁ~?何言ってんだ?俺だよ俺俺」
「ふざけるな‼姫乃さんと踊るのはこの俺だ‼」
「冗談言うなよ、俺が躍るんだよ」
「俺が躍る‼そして姫乃さんをゲットだぜ‼」
その後、醜い争いが始まった。あほな争いを見ている光賀と夕はこんな会話をしていた。
「光賀君は踊るの?」
「俺、致命的に踊りが下手だから踊らない。夕は?」
「昨日の戦いで全身筋肉痛。痛くて踊れない」
「だよな」
数分後、三刃はコテージの中で座っていた。あの時飲んだ解毒剤の副作用が、発生したのだ。
「うう……また頭が痛い……」
「大丈夫か三刃?酔ったのか?」
心配した宇野沢が、近くにやって来た。
「酔いじゃない。軽い頭痛」
「じゃあ薬持ってこねーと」
「大丈夫。軽い頭痛だから、すぐに収まると思う」
「そっか。無理するなよ、そこで休んどけ。何かあったら呼べよー」
と言って、宇野沢は去って行った。その後、三刃は座っていたが、頭痛は収まるどころか悪化し、気分が悪くなった三刃はそのまま気を失ってしまった。
もやもやした意識の中、三刃は目が覚めた。まだ視線がぼやけるため、手探りでメガネを探した。
「はい、メガネ」
姫乃の声が聞こえた。
「姫乃?」
渡されたメガネを付け、三刃は姫乃の顔を見た。
「気分はどう?」
「うん……さっきよりはよくなった」
「よかった。じゃ、膝枕の必要はないわね」
「は?」
三刃は気が付いた。枕だと思ってたものは、姫乃の太ももだった。
「……もう少しこのままで」
「すけべ。でも仕方ないか、もう少し横になっててね」
「あ……ああ」
三刃は姫乃の方を見て、こう言った。
「皆は?」
「出かけたわ。三刃君の様子は私が見るって言ったから大丈夫よ」
「そっか。宇野沢の奴、なんか言ってたか?」
「姫乃さんが診てくれるなんて羨ましい奴めって言ってた」
「はは。あいつらしいや」
その時、扉が開き、服部が入って来た。
「気が付いたようだな」
「服部」
「お前に何かあったら、翡翠に何と言われるか」
「だな。心配してくれてありがとう。大分良くなったよ」
三刃は立ち上がり、外に出た。もう、日が暮れていた。
「結構寝てたな……」
「宿泊訓練の思い出は、まだ作れるわよ」
姫乃が笑いながらこう言った。その後、夕食を取った後、三刃達は広場へ向かった。広場には数人の生徒がすでにおり、キャンプファイアーの準備もできていた。
「結構本格的だなー」
「こういうの見るとテンション上がるが……俺、踊り下手だからなー……」
光賀がぼやくようにこう言った。遠くにいる夕は、筋肉痛の痛みと戦っていた。
「あいつ、辛そうだな……」
「ほとんど動いてなかったしな」
数分後、先生が現れた。
「では今から、待ちに待ったキャンプファイアーを始めます‼皆さん、怪我ややけどに気を付けて楽しみましょう!」
その直後、無数の男子生徒が姫乃に向かって来た。
「姫乃さん!俺と踊ってください‼」
「俺と踊って」
「君には俺がふさわしい‼」
「シャルウィダンス?」
「踊らないか?」
「一緒にダンスしようよ‼」
「好きです踊って‼」
男子たちに囲まれる姫乃を見て、三刃は大変だなと思っていたが、何者かが三刃の手を握った。
「は?えっ?」
その手に引っ張られ、三刃は男子の輪の中に入ってしまった。
「誰だ引っ張るの?いてっ、足踏むな‼肘打ちするな‼メガネに触るな‼」
そうこうしているうちに、姫乃が声を上げた。
「あ、この手三刃君だったんだ‼」
「へ?」
「ねぇ三刃君、一緒に踊りましょ」
一斉に男子たちの視線が、三刃に向いた。断ろうとしたが、姫乃が小声でこう言った。
「これ以上もみくちゃにされたくないの。断らないで」
「……分かった」
三刃も小声でこう返事をし、姫乃の手を取った。
「それじゃあ踊るか……姫乃……さん」
「うん」
姫乃と踊るのを諦めた男子たちは、ブツブツ言いながら散って行った。
それから、三刃と姫乃はキャンプファイアーの前で踊り始めた。その様子を見ていた光賀は、持っていたカメラで二人を映していた。そんな中、傷だらけの宇野沢がやって来た。
「うわぁぁぁぁぁ!どうしたの宇野沢君‼」
「夕か……姫乃さんに近付こうとしたらずっこけて……男子たちに踏まれまくったよ」
「先生の所に行って手当てしてもらって来いよ」
「こんなのかすり傷だ。それより、あの二人なんか楽しそうだな」
宇野沢は踊っている三刃と姫乃を見て、こう言った。だが実際は。
「三刃君、次は右手を出して」
「右手を出して……で、えー」
「ちょっと、そうじゃないわよ。こうよこう」
姫乃は指示を出しながら、三刃と踊っていた。戸惑いながら三刃は踊っていたのだ。
「あいつ、踊れないのか……」
光賀は小さく呟いた。で、隅の方では服部が歌舞伎みたいな動きで踊っていた。
「あれ歌舞伎?」
「多分……そう」
苦笑いで、夕は宇野沢の質問にこう答えた。
翌日。三刃達は変える支度をしていた。
「あー、結局魔法犯罪者との戦いで丸一日つぶれたなー」
三刃はこう言いながら、バックの整理をしていた。
「お前、昨日寝てたもんな」
光賀はカメラをいじりながら、こう答えた。
「昨日は昨日で大変だったよ……光賀君、しょっちゅう転ぶから……」
「あー、だから昨日、足に絆創膏張りまくってたのか」
三刃は昨日の風呂の事を思い出しながら、こう言った。
「そうだ、夕。明日結社に行くか?案内してやるよ」
「うん、お願い三刃君」
「初見の時は驚くぞ。何でこんな所にあるんだーって思うぞ」
「何の話?」
宇野沢が部屋に入って来た。他の人に魔法関係の話はしてはいけないので、慌てて光賀がこう言った。
「うまい飯屋の事だよ‼」
「ふーん。まぁいいや。それより集合時間まであと少しだぞ」
「うん。分かった」
その後、荷物を整理した三刃達はコテージから出て行った。そして、バスに乗り、学校へ向かって行った。
翌日。三刃と光賀は夕を湯出宝石店の前に連れてきた。
「こ……ここが魔法の……」
「表向きは宝石店だけど、中に結社があるんだ」
三刃はこう言うと、店の中に入って行った。
「よー。三刃君、光賀君。で……誰?」
湯出がこう言うと、三刃は夕の事を湯出に話した。
「その子が闇の魔法使いか」
「初めまして……夕と言います」
「俺は湯出久太。湯出宝石店の店長、そんでもって魔武器製造者だ。よろしく」
湯出と夕が握手をし、挨拶をした。その後、湯出は結社への道を案内した。
「ここが魔法結社。俺の店から通じているんだ」
結社の中を見た夕は驚き、その場で止まってしまった。
「そりゃあびっくりするよな。ぼろい店の中に秘密基地みたいなのがあるなんてな」
「ぼろい店は余計だ」
湯出は光賀を睨み、こう言った。
「ん?やっと来たか」
夕に気付いた輝海がやって来た。挨拶をし、輝海はこう言った。
「今から結社の魔法使いの登録を始める。こっちへ来て、登録を始めよう」
「これで……僕も仲間なんですか?」
夕がこう聞くと、輝海は笑顔を作り、こう答えた。
「ああ。これでお前も俺達の仲間だ」
夕は笑顔になった。この笑顔を見て、光賀は小さく呟いた。
「やっと笑顔になったな」
夕の登録後、三刃達は帰った。輝海は次席へ戻り、パソコンを開いた。その時、緊急ニュース速報が入った。
『緊急速報です‼ただいま、T都の丸々町のビル街で、大規模な爆発があった模様‼怪我人、死者、共に多数出てる模様です‼状況が分かり次第、お伝えします‼』
このニュース映像を見て、輝海は察した。これは事故ではない。魔法で起きた大爆発だと。輝海は椅子に寄りかかり、ため息とともにこう言った。
「また動きが活発になって来やがったか……トランプカードめ」
魔法少年風の三刃 万福 刃剣 @nomatsu3
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