第34話 森の中の激闘

 光賀と夕は慎重に森の中を移動していた。光賀は耳を澄まし、相手の位置を探ろうとしていた。


「この辺にはいないな……」


「も……モンスターってどういうのかな……」


「んー、簡単に言えばゾンビみたいなものかな。生き物の死骸に魔力が溜まり、それがきっかけで動き出すんだ」


「結構でかいの?」


「でかい奴もいれば、小型な奴もいる」


「じゃあ……あれも?」


「あれ?」


 夕が指さす方向には、狼型のモンスターに乗る正雄の姿がいた。


「いた。多分あいつが今戦う奴だろう」


「ど……どうしよう」


「あいつは俺達の方に気付いてないようだな。まず、三刃達に連絡しよう。そんでもって、あいつの後を追いかける」


「うん」


 夕はトランシーバーで三刃達に連絡を取り、光賀は正雄の後を追って行った。


「連絡終わったよ」


「オーケー。あいつの動きが止まったら、奇襲だ。夕、戦えるか?」


「……うん。覚悟はできた」


「それでいい。行くぞ」


 その後、二人は正雄の動きが止まるまで、後を追って行った。数分後、正雄の動きが止まった。


「止まった」


「よし。じゃあ早速……」


「どこの誰だ?俺の後を追ってるのはよー‼」


 激しい水流が二人を襲った。光賀は夕を抱え、横に飛んで攻撃をかわした。


「何だ、ガキじゃねーか」


「ただのガキじゃない」


「じゃあ何だよ?」


「教えるかよ‼」


 光賀は右手に光の塊を生み出し、正雄が乗るモンスターに向けて発射した。塊はモンスターに命中したが、びくともしなかった。


「あ……あれ?」


「光の魔法使いか……珍しいが、俺の敵ではない‼出てこい、フォルターバード‼あいつらを始末しろ‼」


 正雄の叫びと共に、大きな鳥型のモンスターが現れた。


「で……でかい!」


「夕!闇を出すんだ!」


 光賀に言われ、夕は急いで手に魔力を込め始めた。


「あの時のように、あの時のように!」


 闇を出した時の事を思い出しながら、夕は手に力を込めたが、闇は発生しなかった。


「……駄目だ……どうしてもトラウマが……」


「夕‼」


 夕の目の前に、フォルターバードが姿を現した。大きな爪で、夕を引き裂こうとしているのだ。


「あ……」


「どりゃあああああああああああああ‼」


 光賀の飛び蹴りが、フォルターバートに命中した。


「これでも、喰らってろ‼」


 光賀は光の槍を作り、フォルターバードに突き刺した。フォルターバードの甲高い悲鳴を聞き、光賀はひるんでしまった。


「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇ‼」


 その時、フォルターバードは光賀に向けて詰めを突き出し、突進してきた。


(僕が、何とかしなくちゃ……光賀君が危ない‼)


 夕は無意識のうちに闇を作り出し、フォルターバードに向けて投げた。闇はフォルターバードのくちばしに命中し、弾けた。


「ありがとう、助かった」


 光賀は夕に近付き、こう言った。その時、攻撃を受けたフォルターバードが立ち上がった。


「さっきの攻撃でくちばしは壊したが……」


「あの爪が厄介だね」


 夕が目に付けたのは、フォルターバードの大きな爪。先端がかなり尖っており、あれで突き刺されたら、確実に致命傷は受けるだろうと思っていた。


「よし、俺があの爪を壊す‼」


 光賀は剣を装備し、フォルターバードに接近し、爪に攻撃をした。だが。


「か……硬い……」


 爪は予想以上に硬かったのだ。フォルターバードは光賀に攻撃をしようとしたが、それを阻止するため、夕は速攻で闇を作り、フォルターバードに向けて投げた。闇はフォルターバードの右の翼に命中した。


「また助けてもらったな……すまん‼」


 光賀は後ろに下がり、夕と相談し始めた。


「でかい図体だから、攻撃が当たるな」


「あいてに攻撃が通じてるかな……」


「通じてるさ。見ろ、翼に攻撃を受けたから、血が流れてるぞ」


 光賀の言うとおり、フォルターバードの右の翼からは、血が流れている。ダメージが通っている証拠だと、二人は確信した。


「よし、このまま攻め続けよう。夕、左の翼にも攻撃をしてくれ」


「分かった」


「俺はあいつを叩き切る‼」


 光賀は剣を握り、フォルターバードに向けて走って行った。夕は闇を作り、フォルターバードの動きを見ていた。


「おおおおおおおおおおおりゃあああああああああああ‼」


 光賀は剣を振り回しながら、フォルターバードに攻撃をしていた。何度も大きい爪が光賀を襲ったが、何とか防御をし、攻撃をしのいだ。しばらくし、フォルターバードが大きく翼を広げた。


(今だ‼)


 夕はチャンスだと思い、闇を左の翼に向けて投げた。闇は左の翼に命中し、大きく弾けた。


「おお……」


 闇が消えた時、左の翼は半分ほど欠けていた。


「ナイスだ夕‼あとは俺に任せろ‼」


 光賀は剣を高く掲げ、剣に魔力を込めた。刃から強い光が発し、巨大な光の刃となった。


「これで決めてやる‼」


 剣を振り下ろし、フォルターバードを真っ二つにした。真っ二つになったフォルターバードの体はその場に崩れ落ち、塵となって消えた。


「ふぃ~……こっちは終わった……」


「う……あ……」


 光賀の耳に、夕のうめき声が聞こえた。


「夕!?どうした!?」


 夕の所に近付くと、夕は倒れていた。


「お前……まさか……」


「お……お腹が空いて力が……」


「あー……魔力を使うと腹が減るんだっけな……伝えるの忘れてた」


「疲れがたまったのか?」


 後ろから服部の声が聞こえた。


「茉奈か。なんか食い物持ってないか?」


「茉奈っていうな。食い物か……兵糧丸しかないが大丈夫か?」


「腹の足しになるんならいいと思うけど」


 その後、夕は兵糧丸を食べ始めた。


「なんか苦い……」


「当たり前だ。薬草をふんだんに使っている特性兵糧丸だからな」


 夕は咳をしながら、立ち上がった。


「何とかよくなったよ」


「よし、あいつらの跡を追うぞ。夕、動けるか?」


「大丈夫だよ」


「フッ、ならいい。行くぞ」


 その後、三人は正雄の跡を追い始めた。




 同時刻、夕からの連絡を受けた三刃と姫乃は武器を持ち、周囲を見回していた。


「すごい音がしたわね……」


「向こうが何かと戦ってたんだろ。光賀たちが大丈夫だといいんだけど」


 その時、狼のような声が聞こえた。とっさに三刃と姫乃は身構え、敵の奇襲に対処した。


「正雄のモンスターかもな」


「ええ。多分狼型ね。素早いと思うし、気を付けて」


 しばらくし、再び鳴き声が聞こえた。


「近くにいるわ‼」


 姫乃がこう言ったが、その後ろに狼が姿を現し、姫乃に襲い掛かった。


「姫乃‼」


 三刃は姫乃の後ろに立ち、狼の攻撃を受けた。


「さ……三刃君‼」


 攻撃を受けた三刃は、その場に倒れてしまった。


「どうした!?」


 後ろから服部達が現れた。倒れている三刃を見て、服部は近付き、様子を調べた。


「毒を受けたのか?顔が真っ青だぞ」


 傷を見ると、三刃の血の他に、緑色の液体が混じっていた。


「こいつが毒か。待ってろ、解毒剤を飲ませてやる」


 その時、服部を狙って狼が襲い掛かった。だが、光賀の飛び蹴りが狼を蹴り飛ばした。


「かかって来い、相手になってやるぞ狼野郎‼」


「止めておけ。お前はさっきの戦いで疲れてるだろ。私がやる」


 服部が立ち上がり、忍具を取り出した。


「光賀と夕は三刃を看病しててくれ」


「じゃあ、私は正雄の後を追うわ」


「……一人で大丈夫か?」


 服部の問いに対し、姫乃はこう答えた。


「危なくなったら、炎を上に向けて放つわ」


「炎が合図か。分かった」


「じゃ、三刃君の事は任せたわ‼」


 そう言って、姫乃は正雄を探し始めた。姫乃を襲おうとした狼だったが、服部が投げた手裏剣が邪魔をした。


「お前の相手はこの私だ」


 狼は服部の方を向き、低いうなり声をあげた。そして、服部に襲い掛かった。突進攻撃に対し、服部は上に飛んで攻撃をかわし、クナイを投げつけた。だが、狼は高く飛び上がり、攻撃をかわした。その時の速さは、服部にも追えなかった。


「早い‼」


「服部さん‼後ろ‼」


 夕の声が聞こえた。服部の背後には狼がいた。服部は何とか忍び刀を装備し、後ろから襲おうとしている狼を追い払った。服部は地面に着地したが、それより前に着地していた狼は服部の着地の隙を狙い、襲い掛かった。


「クソッ‼」


 服部は突進を喰らい、後ろに倒れた。両手で狼のあごを抑えているが、狼の前足の爪が、服部の皮膚に食い込んでいる。


「この獣がッ‼」


 服部は右足を使い、狼を後ろに蹴り飛ばした。何とか狼から離れたが、狼の爪が皮膚に食い込んだままだった。


「いつつ……」


 食い込んだ爪を取りつつ、服部は狼の動きを見ていた。狼は再び素早い動きで服部に向かって突進してきた。服部は考えた。こうなったら、相手の動きを封じて倒すしかあるまいと。


「服部さん……狼が来てるよ‼逃げて‼」


 服部はその場に立ったまま、狼が来るのを待った。夕は服部が何も考えずに立っていると心配しているが、服部には考えがあった。狼は立ったままの服部に襲い掛かったが、服部は狼の動きを見切り、前の両足を切り落とした。


「な……何も見えなかった」


 光賀と夕はこの動きが見えなかった。服部は前足を失い、悲鳴を上げている狼に近付き、止めを刺した。狼の死体はフォルターバードと同じように崩れ落ち、塵となった。


「厄介な奴だった……」


 服部はこう呟くと、三刃に近付いた。


「どうだ様子は?」


「何とかな……まだくらくらするけど」


「解毒剤の副作用だ。ちょっと強いから頭痛がする。だが、すぐに治るから安心しろ」


 服部がこう言うと、三刃は立ち上がった。


「おい、急に立ち上がるなよ」


「そうだよ、まだ休まないと」


 心配した光賀と夕がこう言ったが、三刃は歩き始めた。


「行かないと、姫乃が心配だ」


「だけど……」


「大丈夫だ。もう動けるし、無茶はいつもしてる」


「……そうか。だけど、後で俺達も付いていくからな」


 光賀の言葉を聞き、三刃はこう言った。


「ああ、頼むよ」




 正雄の後を追った姫乃は、森の奥深くに来ていた。かすかだが、姫乃の耳にモンスターの声が聞こえている。目には見えないが、この辺りにいるのは確かだと、姫乃は察していた。


「奇襲でもするつもり?モンスターの声が漏れてるわよ」


「クソッ!」


 正雄の声が聞こえた。これで、互いがこの場にいるということが分かった。姫乃はそう思い、武器を装備し、正雄の奇襲に備えた。しばらくし、モンスターに乗った正雄が現れた。


「死ねぇ、クソガキ‼」


「簡単にはやられないわよ‼」


 姫乃はモンスターの爪に攻撃を仕掛けたが、攻撃は弾かれてしまった。


「硬い……」


「ハーッハッハァッ‼俺が作った史上最強のモンスター、トーチャーキマイラに敵はいない‼フォルターバードとファイミューウルフはやられたが、こいつを倒すのは絶対に無理だぜぇ‼」


 トーチャーキメラは大きな翼を広げ、姫乃に向かって突進してきた。


(こいつ、でかい体の割に、動きが早い‼)


 姫乃は攻撃をかわそうとしたが、かわし切れず、モンスターと激突してしまった。その衝撃で、近くの木にぶつかった。


「ガハッ‼」


「トーチャーキマイラ‼Uターンしてあのガキを始末しろ‼」


 トーチャーキマイラは言うとおりにUターンし、木の近くで横たわっている姫乃に急接近した。


「楽にしてやるよ‼」


「そうはいかない」


 強い風が急に吹いた。トーチャーキマイラは吹き飛ばされ、上に載っていた正雄は下に落ちた。


「さ……三刃君?」


 姫乃の横には、武器を持った三刃が立っていた。


「騒がしいと思ってきたら、もう戦ってたんだ」


「毒は……大丈夫なの?」


「治ったと思う」


 その時、トーチャーキマイラは三刃に向かって飛びかかって来た。三刃は攻撃を防御したが、攻撃の反動で吹き飛ばされた。


「三刃君‼」


「飛ばされただけだ。傷はないよ」


 三刃は立ち上がり、武器を構えて走って行った。


「無駄だ‼トーチャーキマイラは最強のモンスターだ‼お前たちの攻撃は一切通用しないぞ‼」


 正雄は叫んだが、三刃は無視して、トーチャーキマイラの足に斬りかかった。刃は足に深い傷を与えたが、トーチャーキマイラの動きは変わらなかった。トーチャーキマイラの近くにいた三刃は蹴り飛ばされ、近くへ吹き飛んだ。


「ハッハッハ‼無駄だ無駄だ‼」


「三刃君‼」


 姫乃は魔力を使い、武器に炎を纏わせた。


「炎の魔法使いか……が、所詮俺の敵ではない」


「ただの炎の魔法使いじゃないわよ」


 武器にまとった炎は、次第に強くなっていく。それと同じく、姫乃が発する魔力の渦も、段々と色付き、濃くなっていった。


「な……何だ……」


「私は火竜の巫女よ。あまり使いたくなったけど、本気で行くわよ‼」


 姫乃の周りから、激しい炎が生まれた。それを見た正雄は悲鳴を上げ、トーチャーキマイラにこう言った。


「おい!俺を下ろせ‼俺は逃げるから、お前はあいつらを殺せ‼」


 正雄はこう言うと、トーチャーキマイラから降り、森の中へ逃げて行った。


「あ、逃げやがった‼」


 三刃は後を追うとしたが、トーチャーキマイラが邪魔をした。


「こいつを倒さないといけないってか……」


「行くわよ、三刃君‼さっさとこいつを倒して、後を追いましょう‼」


 その後、三刃はトーチャーキマイラに向けて風の刃を放ち、ダメージを与えようとした。風の刃はトーチャーキマイラの体に傷を付けたが、それでもトーチャーキマイラは早い動きで三刃達の周りを飛んでいた。


「こいつ、ダメージ受けてるのか?」


「受けてると思うわ。見て、血を流してるわ」


 姫乃の言うとおり、トーチャーキマイラの体からは血が流れている。


「大体理解した。ダメージは通じてる、無敵じゃない」


「そういう事」


 三刃は姫乃の所に移動し、肩を合わせた。


「二人で一気にあいつを倒そう」


「ええ」




 その頃、逃げ出した正雄はまだ走っていた。


「はっ……はっ……早く逃げないと……」


「あ!あいつ正雄じゃねーか‼」


 前から、光賀の声が聞こえた。


「仲間か……クソ‼」


 慌てた正雄は手から水を出し、光賀の横にいた夕を水を使って捕まえ、手から出した水を凍らせ、氷の刃を作った。


「貴様‼」


「動くな‼動いたらこいつを殺すぞ……」


「光賀君……大丈夫だよ、もう……過去の事は忘れる。僕は魔法使いとして、戦う‼」


 夕は闇を作り、正雄の右腕に当てた。闇が弾け飛び、正雄は悲鳴を上げた。その時、拘束していた夕を離した。


「腕が……俺の右腕がぁぁぁぁぁぁ……」


 真っ黒になった右腕を触りながら、正雄は悲鳴を上げた。


「クソガキが‼」


「お前は……僕が倒す‼悪い奴は許さない‼」


 光賀は心の中でこう呟いた。やっと殻を破ったなと。


「夕、援護は任せろ‼」


「お願い、光賀君」


 その後、夕と正雄のにらみ合いが続いた。

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