第33話 宿泊訓練開始!
三刃達を乗せたバスは、東名高速道路を走っていた。生徒たちは雑談をしたり、持ってきたお菓子を食べたりしていた。そんな中、夕はずっと窓から景色を見ていた。
「調子はどうだ?」
夕の横に座っている光賀が、話をしてきた。
「少し……緊張してる」
「そうか。ま、こういうのって始まる前は緊張するけど、いざ始まると緊張がほぐれるんだよ」
「そう……かな……」
「そうだよ。気を楽にしろ」
光賀は笑いながら話しているが、近くで座っている三刃は冷や汗をかいていた。
「汗すごいけど大丈夫?」
「ああ。問題ない」
三刃の汗の理由は、男子たちの殺意がこもった視線を感じているから。三刃の横にはクラスのアイドル的な存在である姫乃が座っている。クラスの男子なら、誰もが姫乃の横に座りたいと思っていたからだ。
「三刃君大変ね。男子たちの視線を集めるなんて」
「ほぼお前が原因だろ。クラスじゃあ猫かぶりやがって」
「何が猫かぶりよ」
姫乃は持っていたチョコ棒を、無理やり三刃の口の中に入れた。
「おい見たか今の?」
「護天の野郎、姫乃さんにチョコ棒をアーンしてもらいやがって」
「しかも、あいつされた時嫌そうな顔をしてたぞ」
「あれ、無理やりされたんじゃね?」
「無理やりされたとはいえ、あいつら仲良すぎないか?」
「護天……許すまじ!」
今の光景を見た男子たちの殺意の視線は、更に増幅し、三刃に襲い掛かった。
「ああ……着いてくんないかな……」
溜息とともに、三刃はこう呟いた。
数時間後、三刃達を乗せたバスは無事に宿泊訓練の舞台となる富士のふもとの森に着いた。ここでは、宿泊訓練や林間学校のための施設がそろっていて、他の学校からも宿泊訓練や林間学校などのイベントの為に、よく使われている。
「やーっと着いたか……」
三刃は背伸びをし、集合場所へ向かった。その後は、各班ごとに分かれ、それぞれのコテージへ向かい、荷物を下ろすことになっている。三刃達の班のコテージは、森の入り口近くのコテージだった。
「ほう……なかなか広いではないか」
コテージに入った服部が、目を輝かせながらこう言った。コテージの一階はリビングやキッチン、トイレがあり、寝室は二階の部屋になっていた。三刃は荷物を置くため、寝室へ向かった。
「あ……三刃君」
寝室には夕がいた。
「夕。光賀と話したから、少しは気は楽になったか?」
「うん……だけど……」
夕は窓に目をやった。そこには、苦しそうに声を出している光賀の姿があった。
「光賀君が車酔いしたようで……」
「あいつ……大丈夫かな?」
「はしゃぎすぎたって言ってた」
「あっそ……」
そんな中、宇野沢が部屋に入って来た。
「おーい三刃‼それと光賀、夜月‼今夜にどうやって女子部屋に侵入するか作戦会議開かねーか?」
「お、いいなそれ‼」
車酔いしてた光賀は、宇野沢の言葉に反応し、部屋に入って来た。
「光賀は参加するか。三刃はどうする?姫乃さんの寝顔が見れるかもしれんぞ~」
「死ぬかもしれないからヤダ。夕も無理だって言っとけ。ひどい目にあうぞ」
「う……うん」
「姫乃さんの寝顔……もしくは乱れた姿見れなかったって文句言うなよ‼光賀、二人っきりで会議始めようぜ」
「ラジャー!その前に、どうやって女湯を覗くかの会議も行うか?」
「文句なし‼」
馬鹿二人は、雄たけびを上げながらリビングへ向かった。
「はぁ……あの二人はしょうがないな……」
「姫乃さんって……あの綺麗な人?」
夕が姫乃について聞いてきたため、三刃は簡単にこう答えた。
「ああ。だけど中身は凶暴なゴリラだ」
「聞こえたわよ。誰が凶暴なゴリラよ」
日本刀を構えた姫乃が、部屋に入って来た。
「おわっ!?おまっ、宇野沢もいるんだから魔武器を出すんじゃねーよ‼」
「三刃君を斬ったらしまうから、大丈夫よ」
「どこがだ‼」
この光景を見た夕は、震えあがった。
「ごめんね夕君。あなたを脅かすつもりで来たんじゃないわ。三刃君を斬りに来たのよ」
「どさくさに紛れて恐ろしい事を言うんじゃねー‼」
「冗談よ」
「冗談に見えない」
「それより、二人にこれを渡しておくわ」
そう言って、姫乃は二人に小型のトランシーバーを渡した。
「魔法結社特性、小型トランシーバー。どんな衝撃にも耐えられ、しかも耐水性もある。ポケットに入るぐらい小さいから先生にも他の生徒にもばれない。さらに、動力は魔力のため、充電の必要はなし‼」
「魔力が動力なんだろ」
「フルに入れても、一週間は持つわ。宿泊訓練が終わるまでは充電、もとい魔力の補給の必要なし」
「結社……すごい組織があるんだな……」
夕はトランシーバーを見ながら、呟いた。姫乃は夕は結社も何も分からないことを思い出し、夕にこう言った。
「宿泊訓練が終わって、ひと段落したら結社や他の事を教えるわ」
「え……いいんですか?」
「いいわよ。同じ魔法使いなんだし」
「同じ……」
同じと言われ、夕は少しうれしそうな表情を作った。その時、体を縛られた宇野沢と光賀が部屋に放り込まれた。
「三刃、このスケベコンビを何とかしろ」
服部が怒りの形相で、こう言った。
三刃達のコテージから、少し離れた林にて、一人の男が様子を見ていた。
「チッ、余計なもんが増えやがった。結社から逃げるだけで苦しいのによ~」
この男、宮崎正雄はモンスターを生み出したため、結社から追われている犯罪者なのである。正雄は万引きで盗んだ菓子パンを食べながら、今後の事を考えた。
「仕方ねー。モンスター作ってガキどもを追い払うか。その後は、モンスターを使って町を襲い、食料や金を調達。うん。それがいい」
菓子パンを食べきり、正雄はモンスターの元になる動物を探しに森の中へ向かった。
数分後、三刃達班はハイキングをしていた。
「夕、皆についていけるか?」
「うん、何とか」
光賀は苦しそうな夕に、声をかけて気をかけていた。そんな中、服部は先陣を切って先頭を歩いていた。皆より早く。
「どうした?皆遅いぞ」
「お前が早すぎるんだよ……」
速足で歩いたせいか、三刃の呼吸は少し荒くなっていた。
「服部さんはしゃぎすぎだなー。少しはゆっくり歩こうぜ~」
笑いながら宇野沢がこう言った。姫乃は周囲を見ながら、ゆっくり歩いていた。宇野沢はこれを見て、三刃に近付きこう言った。
「絵になるよな」
「何が?」
「森の中にたたずむ美少女。なーんかいいよなー。神秘的でさー」
三刃はいろいろ話してくる宇野沢を無視し、歩き続けた。数分後、ハイキングコースから外れた所から、獣のような声が聞こえた。
「なんか聞こえなかったか?」
宇野沢がこう言った。その声を聞き、三刃は周囲を見回した。
「何も見えないけど」
「いや、マジでなんか聞こえたって。狼の声みたいなのがさー」
「空耳じゃないのか?」
「マジだって!」
「僕にも聞こえた」
後ろにいる夕がこう言った。この時、三刃は湯出から聞いた魔法犯罪者の話を思い出した。探しに行こうとしても、今は宇野沢がいる。もし姫乃と一緒に森の中に入ったら変なことを言われるだろうと、三刃は思った。
「とりあえず先生には報告しておくよ」
「ああ、頼むぜ」
その後、三刃は光賀に近付き、小声でこう言った。
「今日の夜、探しに行くか?」
「その方がいいな。姫乃と茉奈にも声をかけておこう」
それから、三刃と光賀は周囲を気にしながら、ハイキングを続けた。
数分後、ハイキングから帰って来た三刃達は、夕食の準備をすることになった。
「メニューはカレーのようね。材料はにんじん、ジャガイモ、玉ねぎ、豚肉。基本的ね」
エプロン姿の姫乃がこう言った。宇野沢は、その姿を見てこう言った。
「結婚したら毎日エプロン姿の姫乃さんを見れるんだな~」
「毎日ってわけじゃないと思うけど」
「ねぇ、誰か料理できる人いる?」
姫乃がこう聞くと、全員うつむいた。
「僕、スクランブルエッグしか作れない」
「三刃と同じく……」
「忍者食なら得意だ」
「おっちょこちょいだから料理すら出来ん‼」
「簡単なのならできるけど……カレーは無理」
三刃達の話を聞き、姫乃は溜息を吐いた。
「しょうがない。煮込むのは私がやるわ。三刃君、野菜を切ってて」
「は?僕が?」
「そのぐらいならやれるでしょ。任せたわよ」
「宇野沢、サポート頼む」
「任せろ‼姫乃さん、俺に頼れよ‼何でもするから‼」
「え?何でもする?じゃあ……」
その後、宇野沢は一人、米洗いをしていた。
「あんなこと言うんじゃなかった」
「物事を言うのはちゃんと考えてからにしろよって言われてるからな~」
米を炊く支度をしながら、光賀はこう言った。三刃は皮切りを持ち、ジャガイモの川を切っていた。
「あ~くそ……なかなかうまくいかない……」
でこぼこしたジャガイモに苦戦しながら、三刃は川を切っていた。その横で同じく皮を切っている夕は、上手にやっていた。
「夕すごいな。簡単なのならできるって言ってたけど、そこまでやれるんだ」
「よく手伝いしてたから」
「そうなんだ。僕なんて、皿とか洗うことしかできないのに」
笑いながら三刃はこう言った。
「ねぇ、三刃君ちってどうなってるの?」
「夕と同じアパート暮らし。妹と住んでる」
「妹と……じゃあ……」
父母がいないことを察した夕は、言葉を詰まらせたが、それに気付いた三刃はこう言った。
「父さんと母さんは僕が子供の頃に殺されたよ」
「こ……殺された?犯人は……」
「ジズァーっていう悪い魔法使い。だいぶ前に仇はとった」
「そうなんだ……」
「あんま気にすんなよ」
三刃はこう言いながら、ジャガイモを切っていた。
数分後、三刃と夕は野菜を切り終えた。野菜を見て、姫乃はこう聞いた。
「綺麗に切られてるのが夕君ので、まだらな形なのが三刃君ね」
「ほっとけ」
三刃は恥ずかしそうにこう言った。姫乃は切り終えた野菜を鍋に入れ、炒めた豚肉と一緒に煮込み始めた。
「これでひと段落着いたわね。煮込み終えるまで待ちましょう」
「そうだな」
三刃は光賀と宇野沢の様子を見に、外に出た。
「こっちは終わったぞー」
「おお三刃‼こっちもあと少しで終わるぞ‼」
米が入っている鍋からは泡が立ち、あと少しで炊き終えるように見えていた。
「どうだ、うまそうだろ‼」
うちわで風を仰いでいる光賀が、こう言った。その横では、宇野沢がにやにやしながら呟いた。
「姫乃さんが作ったカレー、楽しみだな~」
「僕と夕も手伝ったんだけどな」
「お前らは野菜切っただけだろ」
その後、三刃達は夕食を食べ始めた。
「この後の予定ってなんだっけ?」
宇野沢が三刃にこう聞いた。三刃は思い出しながら、返事をした。
「確かもう風呂だろ。僕達のコテージから少し離れた所にあったぞ」
風呂。この言葉に反応した宇野沢と光賀は、すぐに立ち上がり、コテージから去って行った。
「スケベな奴だな」
呆れた服部が、呟いた。
夕食から数分後、三刃達も風呂へ向かった。更衣室では、すでに何人かの生徒が着替えをしていた。三刃と夕も服を脱ぎ、風呂へ入った。
「でかい風呂って久しぶりだな」
「そうだな。中学の修学旅行以来だ」
三刃と夕はでかい風呂を見て、言葉を漏らした。だが、風呂に浸かっているのはたった数人で、後の連中は壁の所にいた。その中には、宇野沢と光賀がいた。
「そこから女湯が見えるのか?」
大声で三刃がこう言った。声に反応した宇野沢たちが、三刃に近付いた。
「バッカ!大声出すな!」
「覗いてるのがばれるだろ‼」
「ていうか、そこから見えるの?」
夕の言葉を聞き、覗き男子共の動きは硬直した。
「……心の目で見る‼」
光賀がどや顔でこう言ったが、その場は白けた。
一方、女子風呂では、女の子たちがキャッキャウフフで盛り上がっていた。
「うわ~、服部さん結構胸おっきいね~」
「ほ~んと。ロリ巨乳とは羨ましい‼」
「う……うわっ!あまり胸を触るな!揉むな!」
服部は慌てながら湯船の中を逃げ回った。そんな中、湯に浸かっていた姫乃はこんな話を耳にしていた。
「嘘?森に誰かいたの?」
「人影を見ただけ」
「他のクラスの人じゃないの?」
「うちの学校のジャージじゃなかったわよ」
「そういえば、変な鳴き声も聞こえたわ」
「うげぇ……不審者に変な鳴き声って、何が起こってるのよ」
「あとで先生に伝えましょ」
この話を聞き、姫乃は正雄の事を思い出した。正雄はモンスターを作り、何かをするだろうと姫乃は推測した。
「私、先に出るね」
姫乃はそう言って、足早に風呂から去って行った。そんな中、男子風呂から声が聞こえた。
「やったぜ!見えた!」
「マジで?姫乃さんはいる?」
服部は声がした所へ近づき、調べた。そこには、中指ほどの大きさの穴が開いていた。服部は溜息を吐き、こう言った。
「姫乃はさっき出て言ったぞ」
と言った後、自分の中指を穴に入れた。その後、宇野沢の悲鳴が響き渡った。
三刃達は風呂から上がり、コテージへ戻った。入口には、姫乃が立っていた。
「重要な話があるわ」
「魔法関係か?」
三刃の質問を聞き、姫乃はうなずいた。
「宇野沢は今女子たちにボッコボコにされているからいないよ」
「丁度いいわね。三刃君、宮崎正雄の話は覚えている?」
「あの魔法犯罪者だろ。まさか……」
「女子たちが言ってたわ。怪しい人影を見たって」
「目撃者がいるか……今から調べるか?」
「ええ。光賀君と服部さんにこの事を伝えて」
「夕はどうする?」
三刃がこう聞いたが、姫乃は返事に困った。その時、夕の声がした。
「僕も……行った方がいいんだよね……」
「夕!」
三刃はどう言葉を出そうか考えた。夕は人を傷つけ、それがトラウマで魔法を出したくないのだ。三刃は意を決し、こう言った。
「今から人を傷つけるかもしれない。もしかしたら、自分が傷を負うかもしれない。夕、お前にできるか?」
「人を……」
夕は考えた。自分の闇の力で人を傷つけた。そのせいで、人と関わったらその力で傷つけてしまうかもしれないと。夕は悩み始めた。だが、光賀がこう言った。
「夕‼今から俺達が戦うのは悪人だ‼普通の犯罪者ではなく、魔法を使う奴だ‼そいつらと戦うのは、俺らしかできない」
「でも……」
「大丈夫だ‼俺が夕と一緒に行動する、俺がサポートしてやる!安心しろ」
光賀の言葉を聞き、夕は決心した。
「三刃君、姫乃さん、僕も戦う‼」
「準備は出来たか」
後ろから服部が現れた。
「皆、武器とかの準備をしてきて」
「おう」
その後、三刃達は魔武器を装備し、外に出て行った。
「夜の森は危険だから、何人かで分けて行動しましょう」
「班決めだな。光賀は夕と行動するから、後は僕と姫乃、服部か……」
「私は一人で大丈夫だ。それと、皆が迷わないように印を作っておく」
「じゃあ、姫乃と僕がペアか」
「決まったわね。じゃあ、行くわよ」
姫乃の声と共に、三刃達は別々に分かれて行動を始めた。
その頃、正雄は動物の死体を組み合わせつつ、モンスターを作っていた。
「これだけあれば、3体は出来るな。その位あれば上等だな」
正雄はモンスターに魔力を注入し終え、モンスターに声をかけた。
「動け、我がモンスターよ‼」
その声に反応し、モンスター達が動き出した。
「クックック……成功だ!大成功だ‼午前中は失敗続きだったが……今回は運がよかった!」
動き出したモンスターを見て、正雄は大声で笑いだした。
「さぁ……動くとするか……」
正雄は獣のモンスターにまたがり、掛け声を出した。掛け声と同時に、モンスター達は走り出した。
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