第31話 光の男
ゴールデンウイークが終わった。学生服を着た学生や、スーツ姿のサラリーマンは皆、気だるそうな顔で道を歩いていた。そんな中、三刃は大きな欠伸をしながら歩いていた。三刃達はゴールデンウイーク中でも、モンスター退治や魔法犯罪者と戦っていたのだ。昨日の夜も、モンスターと戦ったせいで寝るのが遅かったのだ。
「あー……だるい」
もう一度大きな欠伸をしようとしたその時、後ろから肩を叩かれた。
「よー‼三刃‼ダルそうな顔してんなー‼」
「何だ、宇野沢か」
肩を叩いたのは宇野沢だった。宇野沢は他の人とは違い、ダルそうな顔をしていなかった。
「ゴールデンウイークで何かあったのか?嬉しい事でもあったのか?」
「んだよ、お前知らねーのか?今週中に転校生が来るんだよ!」
「転校生?そんな情報どっから持ってきたんだよ?」
「実は学校の裏事情について詳しい奴と仲良くなってさ、この前そいつと話してたらその話題が出てきたんだよ」
「へー。転校生って男?女?」
「それは分からんって。あー、童顔で巨乳で可愛い子が転校してこないかなー」
「美少女ゲームのようなキャラが都合よく来るわけないだろ。夢見るな」
「どうしてそんなこと言うの!?夢見るぐらい別にいいじゃん!俺知ってるんだからな、お前と姫乃さんが仲いいことを!」
この話を聞き、三刃の目が大きく開いた。
「誰から聞いた?」
「学校の裏事情に詳しい奴。さっき俺が言った奴と同一人物だよ。お前、一体いつから仲良くなったんだよ?つーか仲がいいのか!?」
「それは……その……遅刻するから行くな」
「あ‼こら待て‼」
宇野沢は走り出した三刃を追いかけるため、自らも走り出した。
学校へ着き、三刃は教室へ向かった。溜息を吐き、席に座り、バックから筆記用具や教科書を取り出し、机の中に入れていた。その数分後、荒く息を吐きながら宇野沢が入って来た。
「ぜぇ……ぜぇ……はぁ……はぁ……」
「大丈夫か宇野沢?息が荒いぞ」
「や……休まして」
宇野沢は席へ座り、呼吸を整えた。
「ふぅ……お前、最近鍛えてるのか?」
「ん……まぁ」
「そうだよなぁ……以前に比べればちょっとたくましくなってるし、筋肉も付き始めてるしなー」
宇野沢が三刃の腕や顔を見て、こう言った。そんな中、三刃の頬を見て宇野沢が驚いた。
「おい、何だこれ?」
「何かついてるのか?」
「傷だよ傷。何かで切ったような傷があるんだよ」
「本当か?」
「本当だよ。ほれ」
宇野沢は携帯のカメラを起動し、それを鏡代わりにして、三刃に顔を映した。
「本当だ」
「何かあったのかよ」
「転んだ。その時にできたかもな」
三刃はそう言った。その言葉に宇野沢も納得したのか、そうなのかと呟いた。
本当は、服部の故郷で血狐と戦った際にできた傷なのだが、そのことを言っても信じないだろうと思い、転んだと言った。
「話は変わるが……お前!姫乃さんと仲がいいのか!?さっきはは逃げられたが、今回は逃げれないぜ」
宇野沢の叫びを聞き、クラス中の男子の視線が三刃に集まった。三刃は視線の中に、殺意が混じっているのを察した。
「あーいや……そのなぁ……」
「どうなんだ?」
「答えろ」
クラスの男子の一人が、宇野沢の横にやって来て脅すようにこう言った。それから次々とクラスの男子が現れ、三刃を取り囲んだ。
「あいつ、どんだけ人気あるんだよ」
「あいつ!?お前、姫乃さんのことをあいつ呼ばわりしたな!?」
「許さん‼殺してやる‼」
「姫乃さん侮辱罪でちまきの刑だ‼」
「何だよちまきの刑って!?」
「教えねーよ‼誰か、荒縄持ってこい‼」
「教室にそんなもんあるかよ‼」
「あったよ‼荒縄が‼」
「でかした!」
「何であるんだ!?」
「三刃を縛り上げろー‼」
三刃がクラスの男子に縛られそうな中、姫乃が男子の頭を叩き始めた。
「くだらない事やってないで、おとなしくしなさい」
「は~い、分かりました~」
男子たちは鼻の下を伸ばし、姫乃の言われた通りに席に座った。
「いてててて……お前、どさくさに紛れて僕の頭を叩くなよ……」
「一応ね」
「一応じゃないだろ、僕は一応被害者なんだし」
「騒ぎの元でもあるんじゃない?」
と言って、姫乃は席に着いた。三刃は小言でブツブツ言いながら、席に戻った。数分後、担任の先生が教室に入り、朝のHRが始まった。
「皆さん、おはようございます。ゴールデンウイークが終わり、再び授業が始まります。皆さんが無事に、学校に来れ……」
先生は、窓際の空席を見て、口を濁らせた。
「まぁ、休んでいる人はいますが、皆さん怪我はなかったようですね。では朝の報告をします。明日、転校生が我がクラスへ編入します」
この言葉を聞き、生徒たちは騒ぎ始めた。三刃は今朝、宇野沢から聞いていたため、あまり騒がなかった。
「先生、その転校生は女ですか?」
宇野沢が花の下を伸ばしながらこう聞いた。先生はフッと笑い、こう答えた。
「残念だったな。男だ。皆、明日はよろしく頼むぞ。では、朝のHRは以上。一時間目の授業の支度をしておけよ」
と言って、先生は出て行った。
昼休み。三刃は宇野沢の席へ行き、声をかけた。
「おい、飯食いに行くか」
「……一人で行ってちょ……」
転校生が男と知り、クラスの男子たちのテンションはかなり低くなっていた。三刃は溜息を吐き、一人で購買へ向かった。
「一人で買い物か?」
後ろから服部の声がした。三刃は後ろを見たが、服部の姿は見えなかった。
「横だ」
三刃は急いで横を向くと、服部が隣にいた。
「さすが忍者。でも普通に姿を出せないのかよ」
「忍者らしく行動しろ。それが私のモットーだ」
「せめて学校にいる時は普通にしてくれ」
「しかし、男子というのは分からんな。仲間が増えるというのに、皆テンションが低いではないか」
転校生が男と知った男子のテンションは下がってしまったが、逆にクラスの女子のテンションはかなり上がっていた。その為、休み時間の間、女子たちは転校生の話で盛り上がっていた。
「お前は男の心理を学んだ方がいいぞ」
「そうか?」
「そんなの学ばなくていいわよ」
後ろから走って来た姫乃がこう言った。
「男のスケベ心なんて知っても得にならないわよ。それじゃ、お先に!」
と言って、姫乃は走って去って行った。
「僕達も急がないと、パンが売り切れる」
「そうだな」
会話を終え、三刃達も走って行った。
その日の夜、三刃と翡翠はモンスターがいないか見回りを始めた。
「今日はあまりいないなー」
三刃は周囲を見回し、こう言った。その時、姫乃の声が聞こえた。
「三刃君」
「よう。そっちも異常はないようだな」
「珍しいわね。一匹もいないわ」
「他の人がやったんじゃないのか?」
「他の人がやったとしても、他に誰が来たか連絡が来るはずよ」
「僕達や結社の魔法使い以外の人がやったのかな」
「可能性はあるわ。だとしても、何のためにやったのかしら?」
「深く考えると訳が分からなくなるな。ま、こっちの仕事が減ったんだし、運がいいってことでいいんじゃないか?」
「そーね。じゃ、今日はかえって早く寝ましょ」
「僕達もそうするか。明日も学校だし」
「うん。じゃ、またね姫乃さん」
三刃達は武器をしまい、家に帰って行った。
翌朝。三刃は歩いて学校へ向かっていた。横で歩いている宇野沢は、何故かしょんぼりしていた。
「おい。いい加減元に戻れ」
「はぁ……女が欲しい……」
「欲望をダイレクトに言うな」
くだらない理由で落ち込んでいる宇野沢を励まそうとしている三刃だった。そんな時、轟音が響き渡った。
「うわ!なんだなんだ!?」
「うるせー‼」
三刃は周囲を見まわたし、音の元を探った。音の元は上にあると察し、上を見た。空には、巨大なヘリコプターが飛んでいた。
「うっわ、でけーヘリだな」
「あれ、俺らの学校の方へ飛んでないか?」
「誰か来るのか?」
「噂の転校生だったりして」
「……かもな」
その後、二人は急いで学校へ向かった。
数分後、朝のHRが始まった。担任の先生が教卓の前へ立ち、話を始めた。
「では、転校生を紹介する。入ってこい」
先生の声の後、勢いよく扉が開いた。それと同時に、女子たちの視線が廊下の外に集まった。そして、転校生が教室に入って来た。転校生は金髪で、背は三刃より少し大きく、がっちりしていた。転校生はチョークを手にすると、黒板に名前を書き始めた。
「えー、彼は……」
「先生、自己紹介は自分でやります」
名前を書き終え、転校生は自己紹介を始めた。
「俺の名前は陽よう城じょう光賀こうが!家庭の事情でこっちに引っ越してきた!よろしく頼む!」
光賀の自己紹介が終わるとともに、女子たちの歓声が上がった。この様子を見て、宇野沢は呟いた。
「自己紹介だけで歓声上がるってなんかおかしくね?」
今日一日はクラス中光賀の話題で賑わっていた。光賀自身もこの状況を察していたのか、楽しそうに話していた。放課後、三刃は修行するため、湯出宝石店へ向かっていた。
「こんにちわー。湯出さんいます?」
店の入り口に入り、三刃が声をかけたが、湯出は出てこなかった。もう一度声をかけたが、やはり同じだった。
「何かあったのかな……」
三刃は結社へ行こうと店の奥に行こうとした。その時、湯出が現れた。
「よー三刃君。悪いね、出られなくて。今結社から戻って来たんだよ」
「いえいえ。大丈夫です。それより、結社で何かあったんですか?」
「ああ。珍しい魔法使いがこっちに来たから、その挨拶にね」
「珍しい魔法使い?」
「光魔法の使い手だ」
「光?珍しいんですか?」
「ああ。幻の魔法属性って言われてるんだ。そうだ、詳しく教えてないよね。ここじゃあ何だから、居間で話すか」
三刃は湯出に連れられ、居間に来た。湯出から出されたお茶を飲みながら、三刃は湯出の話を聞いた。
魔法属性には火、水、風、雷がある。それが基本的な属性なのだが、それとは別に幻とされている属性が3つある。闇、地、そして光である。3つともあまりにも強力なため、使用者に大きい負担がかかる。その為、魔力を失うか、命を失う魔法使いが多発した。使いこなせるのは、ごく一部の魔法使いだけだという。
「そんなおっかない属性があるんですか……」
話を聞き終えた三刃はこう呟いた。
「で、今来てる魔法使いって光の魔法を使いこなせてるんですか?」
「ああ。子供の頃から魔法の事を知っているためか、結構修行したらしいよ」
「僕や姫乃よりも強そうですね。で、どんな人なんですか?」
「歳は三刃君と同じ。で、男だったね。そうだそうだ、金髪だったな」
「金髪……今日転校してきた光賀って奴も金髪だったな」
三刃の一言を聞き、湯出は飲んでいたお茶を吹き出した。
「ゲホッ、ゲホッ、そうだよ、光賀って子だよ‼」
「こんな所で俺の噂か?」
奥の方から、光賀がやって来た。
「結社から話は聞いた。まさかお前も魔法使いだったとはな」
「驚いたのはこっちもそうだよ」
「ハッハッハ‼そうだな。ま、これから仲良くやって行こう!」
光賀は三刃に近付こうとしたのだが、歩いてる時に足を踏み外し、派手に転んでしまった。
「あだー‼」
「おいおい!大丈夫か!?」
「はっはっは、俺はしょっちゅう転ぶから大丈夫だ!」
「大丈夫じゃないだろそれ……」
大笑いする光賀を見て、湯出は小さく呟いた。
「厄介なのが来たな」
数時間後、三刃は光賀の事を姫乃達に伝えた。それからしばらくし、姫乃達が湯出宝石店に集まった。
「姫乃さんと茉奈さんが魔法使いだったとはな」
「驚いたのはこっちの方よ」
「私はあくまでも忍者だ。あと私の事は服部と呼べ!」
「そうかそうか。二人とも、今後もよろしく。それと、後ろのお嬢さんと坊ちゃんは誰?」
光賀は後ろにいる翡翠達を見て、こう聞いた。
「ああ。僕の妹と姫乃の妹、それと服部の幼馴染だ」
「お前妹いたのか。俺一人っ子だから羨ましいな」
「別にそうでもないぞ。あいつ、風龍の巫女だから僕より強いかも」
「本当か?」
「ああ。あと姫乃も火龍の巫女だぞ」
「巫女が二人いるのか……恐ろしいな」
「だろ。決して怒らすなよ。死ぬかもしれないからな。モンスターよりも恐ろしいし」
「確かに」
二人の会話を耳にしていた姫乃と翡翠が、二人の背後に忍び寄り、武器を首に近付けた。
「変なことを言ったら」
「分かるわよね~?」
「「了解しました」」
二人は冷や汗をかきながら、こう言った。その時、大きな声が響き渡った。
「嘘、モンスター!?」
「もうこんな時間か!」
三刃は武器を出し、周囲を見回した。すると、近くの民家の屋根の上に、狼型のモンスターが雄たけびを上げているのを発見した。
「来たかモンスター‼昨日のように退治してくれるわ‼」
光賀はこう言うと、西洋剣を装備し、飛び上がった。翡翠はこの言葉を聞き、あることを察した。
「昨日のモンスターって、光賀さんがやったんだ」
三刃は光賀の後を追い、こう言った。
「ここからまっすぐ行ったところは森になる。そこであいつと戦おう」
「了解!森なら人も来なそうだし、思う存分戦える!」
三刃と光賀はモンスターを森までおびき寄せ、戦いを始めた。
「三刃、ここは俺に任せろ。昨日モンスターと戦ったが、あれじゃあウォーミングアップにもならなかった」
「あ、昨日モンスターの数が少なかったのってお前がやったんだからか」
「そうだ。見せてやろう、光魔法って奴を‼」
光賀の持つ剣の刃が光を発した。モンスターはそれに怯まず、光賀に向かって突進してきた。
「甘い!」
光賀は剣を勢いよく突き出した。すると、光が伸び、モンスターを貫いた。モンスターは声を発しようとしたが、それより先に体が朽ちて行った。
「すごい……」
「ふっ、どんなもんよ」
光賀は三刃の方を振り向き、ピースサインを作った。その時、服部と海人の声がした。
「見事な手先だ」
「ちょっと驚いた」
「へ?おわああああああああああ‼」
突如現れた二人に驚き、光賀は腰を抜かした。
「驚いた、お前らいつの間に来たんだよ!」
「ついさっきだ」
「ひぇ~もう、いきなり声出すのやめてくれよ~」
光賀はズボンの尻に着いた落ち葉を払いながら、立ち上がった。
光賀が転校し数日が経過した。三刃達のクラスにもなじみ、放課後のモンスター退治も三刃達と連携が取れてきた。
六月初日、宇野沢と光賀はカレンダーを見て、震えていた。
「あと二週間だな」
「ああ。この日を待っていた……」
「宿泊訓練‼」
三刃達の学校は、六月の中頃に一年生の二泊三日宿泊訓練がある。何故、男子が騒ぐのかというと、宇野沢曰く「部活で仲がいい先輩が言ってた。この学校の宿泊訓練は必ず一組のカップルが生まれると!あと女湯を覗ける場所がある」とのこと。この噂を信じている男子生徒が、皆興奮しているのだ。だが、三刃と姫乃は別の事で頭がいっぱいだった。
昼休みの屋上。三刃と姫乃、服部、光賀は話をしていた。
「僕達がいない間、モンスター退治は翡翠達に任せるしかないかな」
「それしかないわね。でも、私達がいない二日間、大丈夫かしら?」
「結社から魔法使いは来ないのか?」
「そういう話は聞いていないな」
「う~ん……輝海さんや湯出さんが毎日戦いに出れるってわけじゃないしな」
「そういえば、イギリスから魔法使いが二人来日するって輝海さんが言ってたぞ」
服部の言葉を聞き、三刃達は目を丸くして驚いた。
「なんだその話?」
「どこで聞いたんだ?」
「結社の中で隠密行動の訓練してた時だ。休憩室でコーヒー飲みながら談笑してた」
「イギリスからか……世界中にいるんだな、魔法使いって」
「魔法使いは世界中にいるわ。もちろん、結社も各国に存在する」
「それじゃあ人手不足は問題ないか。あとは現地にモンスターが出るかどうかだ」
三刃の言葉を聞き、姫乃は三刃に近付いた。
「考えてあるわ。訓練当日に結社が作った超小型トランシーバーを皆に渡すわ。小型だけど、音漏れはせず、周りにも気付かれない。便利でしょ」
「すごいな。これさえあればどこでも連絡できる」
「使い方は後で話すわ。もし、モンスターが出たら適当な理由を付けて部屋から出てきてね」
「分かった」
姫乃は時計を見て、皆にこう言った。
「そろそろ次の授業が始まるわ。早く行きましょ」
その後、三刃達は急いで教室へ向かった。
放課後、光賀は魔法結社へ向かい、輝海と話をしていた。
「輝海さん、例の話はどうですか?」
「うーん……まだ分からないんだ」
「そうですか」
輝海は光賀をパソコンがある机の方に来るように、手招きをした。
「まだ分からないが、反応は確かにこの町にある。魔力が弱いせいか、反応は薄いけど」
「そうですか。やはり、ここに闇魔法の使い手がいるんですね」
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