第28話 逃げているだけじゃあダメだ
逃げている海人は、一人で悩んでいた。
本当は海人も血狐、原戸と戦いたかった。嫌いだったとはいえ、原戸は海人にとって、唯一の家族であり、育ての親である。これ以上原戸の愚行を海人は見たくなかった。唯一の家族であり、孫である自分が原戸の愚行を止めたかった。
だが、白也や三郎は海人を逃がし、原戸と血狐と戦っている。確かに二人の言うことは分かる。が、二人の言葉に背いてもいいのかどうか、海人は悩んでいた。そんな時、服部の声が聞こえた。
「海人?何してるんだこんなところで」
海人の前から、服部と三刃、姫乃が走ってきた。
「茉奈。それに兄ちゃん達も」
「もう戦いは始まってるのか?」
「……うん。白也兄達が戦ってる」
「始まってるのか。急ごう」
「海人、お前はどうする?」
服部からこう言われ、海人は黙ってしまった。あることを察した。
「お前、白也兄から言われて逃げてるんだろ。だけど、本当は戦いたい」
「……うん。だけど、俺はまだ子供だし、戦いに言ったら白也兄達に迷惑をかけてしまう。絶対に戻ってきてくれるって約束したけど……」
「……じゃあお前も行くか?」
三刃の言葉を聞き、姫乃はこう言った。
「三刃君、大丈夫なの?」
「三人で守れば心配ないさ」
「う~ん……分かった。行きましょ」
三刃と姫乃の言葉を聞き、海人は思わずこう聞いた。
「本当に大丈夫なのか!?」
「多分ね。危なくなったら急いで逃げればいいと思うわ」
「そんな簡単に勝てる相手じゃないのに……」
「……私には、とっておきがあるわ」
姫乃はこう答え、先へ歩いて行った。
三郎は危機感を感じていた。優秀な部下が短時間で全滅、他の部下も血狐の力を恐れている。唯一戦えるのは、自分と白也だけになってしまった。
「どこじゃネズミ共‼出てこい、殺してやる‼」
三郎達を見失った原戸はやけになり、血狐を操って暴れ始めた。
「まずいな……このままじゃあ里の方に被害が出る」
「三郎様」
白也が三郎に声をかけた。
「どうした?」
「血狐について、何か倒す方法はありませんか」
「ある。あいつはただ力が強い化け物だ。だが、こちらの攻撃は通用する」
「……分かりました。あいつの攻撃が強すぎるため、こちらが攻撃する暇がないというわけですね」
「隙があれば攻撃をしようと思ったが……あれでは攻撃する隙もない」
「なら、作ってきます。三郎様、他の皆に報告をお願いします。隙を見せた時に一斉攻撃を‼」
白也はそう言うと、再び両手に水を発生させた。
「うまくいってくれよ、ハッ‼」
白也は水を上空へ向けて発射した。上空へ舞った水はしばらくし、凍り始めた。
「忍法、氷柱雨」
凍った水は鋭い棘になり、血狐に向けて降り始めた。
「小賢しい真似を!ぐおッ‼」
原戸は右肩に刺さった氷柱を引き抜き、簡単に傷の手当てを行った。飛び回って移動している白也を睨み、大声で叫んだ。
「血狐様‼あの小賢しい男に攻撃を‼」
原戸の叫びに合わせ、血狐は口から無数の波動弾を放った。白也は敵の波動弾を引き寄せ、命中する直前に横に飛んで攻撃をかわした。だが、一部の波動弾は攻撃を避けた白也を追尾した。
「チッ!」
白也は手裏剣を構え、波動弾に向けて投げた。波動弾は手裏剣に当たり、爆発を起こした。攻撃が失敗に終わり、原戸は歯ぎしりをし、悔しがった。
「クソがァァァァァ‼まだ穴の青いクソガキが‼わしを舐めるなァァァァァ‼」
怒りで我を失った原戸を見て、白也は察した。攻撃を仕掛けるなら今だと。その後、白也は氷の霧を発生させ、周囲を凍らせ始めた。
「何をする気だ?」
「貴様らに教えてやる。氷の切れ味を」
白也は氷で作られた手裏剣やクナイを血狐と原戸に向けて投げた。投げられた無数の手裏剣とクナイは血狐に命中し、傷を負わせた。
「何だと‼」
その時、飛んできた一部の手裏剣が原戸の右足のももに命中した。
「ギャアアッ‼」
鋭い痛みに、耐えきれない原戸は片足を着いた。そんな時でも、白也の攻撃は続いていた。いまだに無数の手裏剣とクナイが原戸を襲ったのだ。
「グッ……若造が……」
傷を負いながら、原戸は大声で叫んだ。
「血狐様‼あれは氷でございます、あなたの咆哮一つで粉微塵となるでしょう‼」
血狐は大きく息を吸い、大声で叫んだ。その衝撃で白也が放っている手裏剣とクナイは壊れてしまった。
「しまった……」
「死ねぇ‼」
血狐の大きな爪が、白也に襲い掛かろうとしていた。その時だった。急に突風が吹き、血狐を後ろに押した。
「風だと、何故急に?」
その時、前方から炎が現れ、血狐を襲った。
「今度は炎だと!?」
「これは……」
「白也兄、遅くなって済まない」
白也の後ろから、服部が現れた。その後ろには、海人と三刃、姫乃がいた。
「茉奈、海人……それに君達も……」
「援護しに来ました」
「皆であの化け物をやっちゃいましょう」
三刃と姫乃はそう言うと、前に出て、武器を構えた。
「白也兄、俺も戦うよ。あのクソ爺の尻拭いは俺がする」
「海人……」
「心配なんだろ、白也兄。大丈夫だ、海人は私が守る」
服部はこう言うと、手裏剣を構えた。
その頃、三刃は血狐の攻撃をかわしつつ、反撃の隙を狙っていた。だが、姫乃は後ろに立ち、目をつぶって何かをしていた。
「おい姫乃、何やってんだよ!?」
三刃は迫ってくる爪を剣で太刀打ちし、弾き返した。
「ちょっと待ってね。そろそろ使うから」
「何をだよ?」
「龍の力」
その直後、姫乃の周囲に赤いオーラのようなものが発生した。姫乃の頭上のオーラは、龍の形になっていた。
「何だこれ……」
「龍の力を引き出したのよ」
姫乃は返事をすると、血狐に向けて剣を振り下ろした。振り下ろした剣から、赤い衝撃波が発生し、血狐に向けて飛んで行った。
「こんなもの、消してくれるわ‼」
原戸は血狐にかき消すよう命令し、血狐は爪を振り下ろして衝撃波を消そうとした。だが、血狐の攻撃で衝撃波は消えず、逆に血狐の爪を斬り捨てた。その後、衝撃波は血狐の腕を傷つけた。痛手を負った血狐は痛みのあまり、大きな悲鳴を上げた。その際大きく動き回り、頭上にいた原戸は落ちないように態勢を整えていた。
「ああっ!おおおっ‼血狐様、落ち着いてください‼」
原戸は血狐をおとなしくしようとしたが、姫乃の追撃が血狐を襲っていた。
「あら、この程度?」
血狐の近くに移動した姫乃は、血狐より高く飛び上がり、宙で剣を構え、そのまま血狐に向けて剣を振り下ろした。この攻撃を受け、血狐の体から大量の血が流れた。
「何ィ!?無敵の血狐様が……」
「貴様の悪さもここまでだ」
原戸の後ろに忍んでいた三刃が、剣を原戸に突き付け、こう言った。
「いつの間に……」
「お前たち忍者の特技だろ?気配を消して相手に近付くの?それを真似しただけだよ」
「く……」
「馬鹿な事を考えるなよ、何かあったら風でお前を斬る」
もはやこれまでか。原戸はこう思った。だが、血狐が大きく飛び上がった。
「なぁっ!?」
「おわわわわわ‼」
原戸は大急ぎで、血狐に命令をした。
「血狐様‼気を持ってください‼こんなの、ただのかすり傷です‼だから止まってください‼」
何度も何度も命令したが、血狐は原戸の言うことを聞かず、暴走を続けた。
「いかん、ダメージを受けすぎて、暴走を始めおった‼」
「ダメージは受けてるのか……じゃあ、止めを刺して止めるか」
三刃が血狐に剣を突き刺そうとしたその時、原戸が飛び蹴りで三刃を攻撃した。
「血狐様に手を出させん‼」
三刃は落ちないように手を伸ばしたのだが、落とされたと同時に、血狐は高く飛び上がっていた。
「うわあああああああああああああああああああああ‼」
落下していく三刃を見て、原戸は笑みを浮かべていた。
服部達は武器を構え、血狐との戦闘準備をしていた。高い木の上にいる海人は、小さい望遠鏡で遠くを見ていた。
「皆、血狐が高く飛び上がってこっちに来ている」
「了解!」
白也は武器を構え、上空を見た。しばらくし、白也の目に血狐の姿が映った。
「来た」
その直後、血狐が着地し、周囲を吹き飛ばした。
「手負いの状態か、三刃達がやったんだな」
「あと少しだ、一気に決着をつけるぞ‼」
三郎は大声で叫んだ。それに合わせ、白也は血狐が立っている地面を凍らせた。血狐は足を滑らせ、転倒した。
「今だ‼」
服部は風の刃を大量に発生させ、血狐に向けて投げた。風の刃は血狐の体に刺さった。
「爺……これであんたの野望は終わりだ‼」
海人は右手に雷を作り、左手に風を発生させ、両手を合わせた。風と雷が合わさり、激しい音を立てた。海人は血狐に接近し、風と雷をぶつけた。風は血狐の体を切り刻み、周りの雷は、血狐の全身を走り回った。だが、二人の猛攻も血狐は耐えてしまった。方向と共に血狐は立ち上がり、近くにいた服部と海人を見つけ、二人に攻撃を仕掛けた。
「茉奈‼海人‼」
白也は大急ぎで二人に接近し、遠くへ突き飛ばした。
「あっ……」
「白也兄‼」
血狐が二人に仕掛けた攻撃は、白也に命中した。攻撃で発生した砂煙が晴れると、地面には白也の下半身が落ちていて、そこから離れた所に腹部と左腕が失われ、頭部の半分が削られた白也の上半身が落ちていた。白也の死体を見た服部は、頭の中が真っ白になった。
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