第27話 蘇る血狐

屋敷内に残った三郎は、隠し部屋で原戸達の行動を監視していた。原戸の隙を伺い、機械を壊そうと考えているのだ。しかし、原戸はなかなか機械から離れない。


「早く復活しろ~。お前が復活すれば、またわしがこの里の実権を握ることができるのだ~」


 原戸は苛立ったのか、近くにあった本棚に蹴りを入れた。その時、棚から小さな本が落ちた。


「全く、面倒なことを……」


 落ちた本は、あの機械の説明書だった。原戸は何となく、説明書を読み始めた。その時、日照達が戻ってきた。


「原戸様、ただいま戻りました」


「そうか。傷だらけじゃのう」


「お恥ずかしい話、服部家が呼んだ客人にやられてしまいました」


「お前達を倒すとは、かなりの腕前じゃのう」


「すみません。油断しました」


「しかし、次こそは確実にあいつらを始末します‼」


「そうか。それより、貢一はどうした?」


「あいつらによって捕らえられました」


「しょうがない奴じゃのう。まぁいい。生贄は貴様らで足りる」


「生贄?何のことですか?」


「弱者に負ける部下など用はない、死んで血狐の餌になるがいい‼」


 原戸は隠し持っていた忍び刀で、日照達の首をはねてしまった。予想外の展開で三郎は驚いた。だが、すぐに我を取り戻し、原戸との距離を縮め、原戸に斬りかかった。原戸は三郎の気配を察し、三郎の攻撃を忍び刀で防いだ。


「久しぶりじゃのう。三郎」


「貴様、自分が何をしたか分かっておるのか?」


「血狐様に餌を上げようと思ってのう」


 原戸は忍び刀を振り下ろし、三郎との距離を開けた。


「部下を餌扱いするとは、もはや自分の事しか考えない外道になったか!?」


「わしは元から外道よ‼使い捨ての駒など、また増やせばいいんじゃ‼」


 原戸は日照達の首を、機械の上に置いた。


「さっき説明書を読んだときにな、こう書いてあったんじゃ。魔力による注入よりも、魔力を持った人間の血の方が効果が出るのが早いとな!」


「なっ……まさか……」


 この直後、揺れが起こった。だんだんと揺れは強くなり、上から砂が落ちてきた。機械は音をサイレンのように鳴らし、つながれているケーブルからは、白い煙が大量に噴き出した。


「復活じゃあ!血狐様が復活するんじゃあ‼」


「こりゃまずい‼」


 三郎は急いで、出口へ向かった。


 城に突入した白也達は異変を察し、すぐに外に出た。


「すぐに避難勧告を出せ、大急ぎでだ‼」


「戦闘準備に入れ‼」


「ぐずぐずするなよ‼」


 部下達が慌てる中、白也は三郎の姿を探していた。


「三郎様……」


「無事じゃったか」


 三郎の目の前に、息を切らせた三郎が現れた。


「ご無事でしたか」


「何とかな……しかし、大変なことになった」


「まさか、血狐が……」


「すまん」


 この時、黒井家の屋敷が崩れ、そこから大きな狐の化け物が現れた。




 黒井家の屋敷へ向かっていた三刃達も、この異変に気付いていた。


「な……なんだありゃ!?」


「モンスターなの……」


「妖怪血狐。大昔に封印されていたはずだが……あの爺が封印を解いたのか!」


「状況はまずい方向に進んでいるのか」


「ああ。あいつを倒さないとこの里が危ない」


「分かったわ。急いであいつを倒しましょう」


 姫乃の言葉を聞き、服部は驚いた。


「倒すって……私達の力じゃあ……」


「みんなで力を合わせば大丈夫よ」


「いざとなったら僕が無茶をする」


「三刃君、ジズァーと戦った時のような無茶は止めてよね」


「はいはい」


「……気楽だな」


「嫌なことを考えるよりはましだろ」


「……そうだな。早く皆の所へ行こう」


 会話を終え、三刃達は再び走り出した。




 一方、里にいる乾もこの状況を察し、戦いの準備をしていた。


「里の守りを固めろ‼何があってもバケモンがここに来るのは防ぐんだ‼」


「乾さんはどうするんですか!?」


「戦ってくる!三郎様も白也もいるはずだ」


「帰ってきてくださいよ‼」


「わーってるって‼」


 乾は武器を持ち、自分の車の元へ向かって行った。


「ったく、原戸のクソ爺!何を考えているんだ!」


 車のエンジンを付け、急いで三郎の所へ向かった。




 海人は目の前の光景を見て、怯えていた。


「わ……あわわわわ……」


「海人、お前は逃げろ。ここは俺達で何とかする」


「で……でも白也兄が……」


「俺は大丈夫だ。あいつを倒すさ」


「……白也兄、絶対に戻ってきてよ」


「分かってる」


 そう言うと、海人は戻って行った。


「いいんですか?あいつの孫を返しても」


「海人はまだ子供だ。この戦いに巻き込みたくない」


「……そうですね。悪いのはあの子じゃなくて、あの爺ですからね」


「話は終わりだ。来るぞ」


 白也はそう言うと、横に飛び、血狐の攻撃をかわした。


「皆の者、一斉に手裏剣を投げろ‼」


 三郎の合図と共に、無数の手裏剣が血狐に向けて投げられた。しかし、血狐の口から赤い波動が発射され、手裏剣が消されてしまった。この攻撃を見て、無得は驚き、その場で固まってしまった。


「な……なんてことだ……」


「無得‼避けろ‼」


「え……」


 無得は返事をしようとしたのだが、それより前に血狐が放った赤い波動が、無得を消し炭にしてしまった。波動は消えたが、そこには無得の姿はなかった。


「そんな……無得が……」


 無得の死に、怒りをあらわにした琉血は、両手に忍び刀を持ち、血狐に向かって飛んで行った。


「切り刻んでやる‼」


 琉血は血狐に近付き、何度も何度も剣を振った。琉血の攻撃で血狐の体から血が流れた。


「やめんか青二才。そんな攻撃、血狐様には効きはしない」


 血狐の上にいた原戸が、笑いながらこう言った。


「何だとこのクソ爺‼」


「言葉には気を付けろ」


 血狐は琉血を右手で捕らえ、強く握りしめた。


「グガアアアアアアアアアアア‼」


 琉血が気を失ったことを確認した後、血狐は口を大きく開け、琉血を口の中に入れ、食べてしまった。その後、血狐は口から何かを吐き出した。それは、琉血の左腕だった。


「どうやら、あの青二才はまずかったようじゃのう」


「琉血ィィィィィィィ‼」


 徒都は大声を上げ、両手に手裏剣を持ち、血狐の頭の上にいる原戸に接近し、両手の手裏剣を投げた。しかし、血狐の咆哮により、手裏剣は遠くへ飛ばされた。


「なっ!?」


 血狐は驚いている徒都を捕まえた。そして、徒都を握りしめている右手から、炎が発した。しばらくし、血狐の右手から、小さな灰が落ちて行った。


「徒都までもが……」


 血狐との戦いが始まり1分とも経っていない。たった短時間で三郎は3人の部下を失ってしまった。


「これが……血狐の力か……」


 汰戸須は血狐の力を目の当たりにし、怖気付いた。汰戸須だけではない。他の忍者も悲鳴を上げて逃げ始めた。


「皆、気持ちは分かるが逃げてはいけない……ここで俺達が食い止めなければ……被害は大きくなる‼」


 白也は両手に水を発生させ、その水を地面に叩きつけた。


「水霧の術。相手をごまかせるはずだ。その隙に態勢を整えよう」


「すまない、白也」


 白也の術で、原戸と血狐は三郎達を見失っていた。


「霧を出すとは……小賢しい連中め‼……まぁいい。この霧が晴れた時が、貴様らの最期だ」


 数分後、霧が晴れた。だが、そこには三郎達の姿はなかった。


「身を隠したか……」


 原戸は気配を探り、三郎達の姿を探した。


「血狐様、あの波動をあそこの地面に向けて放ってください」


 血狐は原戸に言われた通り、波動を放った。大きな煙と共に、悲鳴が上がった。


「ネズミはそこに隠れているようじゃな」


 原戸は地面に降り、波動が当たった地面を調べた。


「チッ、ネズミは一匹だけか」


「一匹じゃないさ」


 原戸の背後に、汰戸須が現れた。原戸は後ろを振り向こうとしたが、その前に汰戸須が原戸の首を左腕で絞め、右手に装備されている小刀を、原戸の喉元に突き立てた。


「あいつを止める方法を教えろ」


「青二才が偉そうに。知ってても教えるもんか」


「状況を考えろ」


 汰戸須は少しだけ、小刀を動かした。だが、原戸の態度は変わらなかった。


「状況を考えろか、それは貴様の方ではないか?」


「何?」


 ふざけたことを言う。そう思った汰戸須だったが、自身の腹に何か当たった感触がした。腹を見ると、地面から突き出た爪らしきものが、汰戸須の腹を貫いていた。


「な……なんだ……と……」


 汰戸須は察した。血狐が自分の爪を地面に刺し、自分の近くまで爪を伸ばして攻撃したと。


「三郎様……すみませ」


 その直後、血狐の爪は急に縮み始めた。血狐の元に運ばれた汰戸須は、そのまま食べられてしまった。


「……フフ……フフフハハハハハハハハ‼強い、強すぎるぞ血狐様‼これならこの里を支配……いや、この国、この世界を支配できる‼」


 勝利を確信した原戸は、大声で叫んだ。

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