第25話 双子の戦闘方法
「てやあああああああああ‼」
凛子は槍を振り回し、飛んでくる火の手裏剣を叩き落としていた。
「あんた卑怯よ‼正々堂々と真正面から戦いなさい‼」
日照は大声で笑いながら、凛子に叫んだ。
「戦いに卑怯も何もない‼相手を殺せばいいだけの事だ‼」
「なんなら、こっちにだって考えはあるわ」
凛子は高く飛び上がり、槍の矛先に雷を集めた。
「そんな遅い動きが忍者に通用すると思っているのか?」
「ええ」
凛子は矛先に溜まった雷を地面に振り下ろした。何のつもりだと思いながら、日照は様子を見た。しばらくすると、地面から無数の雷が現れ、日照を襲った。
「見事なものだ。だが、俺の炎の方が上だ」
日照は炎の刀を作り出し、地面から湧き出る雷を斬った。周囲の雷を消し去った後、日照は高く飛び上がり、凛子に襲い掛かった。
「ウッ‼」
やけくそ気味に凛子は槍を振り回したが、攻撃は一切当たらなかった。
「死ね」
日照は炎の小刀を作り、凛子に突き刺そうとした。やられると察した凛子はとっさに雷を放出し、日照を攻撃した。
「グッ……」
放出した電撃は日照の左手に命中した。日照は反撃しようと考えたが、左手に痺れが残った。まずいと思い、態勢を整えた。目の前には、槍を構えて突進してくる凛子の姿があった。日照は左に移動して攻撃をかわしたが、凛子は日照の動きを察し、かわす動作に合わせて槍を振り回した。槍の矛先は、日照の脇腹をかすった。
「俺に傷を付けるとは……」
脇腹から流れ出る多少の血を痺れが治った左手で拭い、両手に炎の刀を作り、凛子に襲い掛かった。
「これで終いにしてやる‼」
「やっと真正面からやる気になったわね‼」
凛子は槍を構えなおし、迫ってくる日照を睨んだ。日照は凛子に接近し、右手の刀を振り下ろした。凛子は後ろに下がり、攻撃を防御した。続けて日照は左手の刀で凛子の喉元を狙い、突き刺そうとしたが、それを察した凛子が槍で日照の左手を弾いた。怯んだ日照に向けて槍を突き刺した。槍は日照の右肩に刺さった。槍を抜こうとしたが、日照は自らの右肩に、思いっきり槍を深く刺した。
「は?あんた正気?」
「正気だ。小娘、一ついいことを教えてやる」
日照は笑いながら、こう続けた。
「これで勝ったと思ったか?勝利を確信した時、必ずではないが余裕ができる。お前、今油断してるだろ」
日照は左手を動かし、持っている刀で凛子を斬ろうとした。だが、凛子はこう言った。
「油断してるのはあんたの方よ」
その直後、左手が再び痺れた。
「な!?」
「魔法使いなら皆知ってること、自分が発した水や火は残っている限り、自由に操れる。もちろん、雷もね」
凛子は槍に雷を集め始めた。先ほどの雷よりも、さらに大きく、激しく音を鳴らしていた。
「あ……ああ……」
「あんたの負けよ」
凛子は日照に向け、槍を振り下ろした。雷が日照に命中し、激しい痛みと痺れが日照を襲った。
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼」
しばらくし、日照の周囲は黒く焦げていた。そして、日照の体はその場に倒れた。
「さーてと、凛音の方は大丈夫かな?」
凛子はそう言うと、凛音を探し始めた。
嵐は恐れていた。恐怖を感じたのは、凛音と戦いを始めた直後だった。凛音には、翡翠や凛子と違い、相手を殺すという気持ちが見えていた。
「あの少女……物凄い殺気だ」
「じゃあ行きますよ~」
凛音はチェーンソーを振り回し、攻撃を仕掛けた。動きは遅く、嵐に動きを読まれてしまい、攻撃はかわされてしまった。だが、凛音はこうなるだろうと察ししていた。
「ま~こうなることは分かっていましたけど」
「だからどうした?」
「私の攻撃は遅く、戦い慣れした人だとすぐに見抜かれて避けられます。そんなこと、承知しています。だから、私は相手が避けた後のことをいつも考えています」
「相手の一歩先を読んでいるのか。まぁ、基本中の基本だな」
嵐は凛音の動きを読み、次の動きでチェーンソーを横に振ると察し、上へ飛ぼうと考えた。次の瞬間、凛音はチェーンソーを上に振り上げた。動く刃が嵐の服をかすった。
「なっ……」
「あ、たまにはフェイントも必要ですね」
「……どこまで俺を愚弄する気だ?」
「さぁ?」
凛音が首を傾げた直後、嵐の足元から電撃が走った。
「グガアアアアアアアアアアアアアアアア‼」
「罠も必要ですね~」
「ググッ……ウオオオオオオオオオオオオ‼」
嵐は自分の足元に風を発生させ、高く飛び上がった。続いて、風を発生しつつ、凛音から離れた所へ着地した。
「風を利用して移動するんですか」
「こうすることも可能だ‼」
嵐は刀を持ち、足に風を纏った。そして、物凄い速さで凛音に斬りかかった。
「なっ!?」
凛音は重いチェーンソーを投げ捨て、横に飛んで攻撃をかわした。しかし、攻撃はかわし切れず、凛音の頬に小さな切り傷が出来た。
「見えなかっただろう。フッフッフ……お前じゃあどうすることもできない。おとなしくしてろよ、今すぐみじん切りにしてやるぜ」
「……女の子の顔に傷を付ける人は最低ですね……」
この時、凛音の足元が揺れ始めた。嵐は察した。先ほどの殺意が、さらに増したことを。
「この少女……まだこんな力を……」
「みじん切りになるのは……あなたの方ですよ」
凛音はチェーンソーを拾い、嵐に向けて投げた。飛んでくるチェーンソーをかわしたのだが、後ろからチェーンソーが追ってきていた。
「クッ、電撃で操っているのか!」
凛音の左手に、電撃が集まっていた。その一部の電撃が、チェーンソーまでつながっていた。
「電撃さえ消せばこっちのものだ‼」
「あなた、アホですね」
嵐が動いた瞬間、足元が爆発した。
「な……何故だ……」
「もう勝負がついたので、手を言いますね。私、雷と火の魔法が使えます」
「まさか……火の術で機雷を……」
「そう。こっそり埋めてたんです」
「……どうあがこうと……俺の負けか」
「はい。じゃあそういう事で……くたばってください」
凛音は地面に埋まっている火の機雷を動かした。そして、嵐の足元で大爆発を起こした。
三刃と姫乃と翡翠は、落とし穴から這い上がり、休憩していた。
「はぁ……はぁ……あの穴、深すぎよ……」
翡翠は声を出した後、その場に倒れた。
「お兄ちゃん、姫乃さん、ごめん。疲れて動けない」
「少し休んでろ、派手に戦ったんだからさ」
「あとは私と三刃君で何とかするから。あと……凛音と凛子はどうしたのかしら?」
「あ、お姉ちゃーん!翡翠ちゃーん!」
三刃達の前から、凛子と凛音が走ってきた。
「二人とも、大丈夫だった?」
「うん!悪い奴をやっつけたよ」
「私の敵じゃなかったわ。で、そっちの方は?」
「翡翠が敵を倒した。まだ穴の中で気絶してると思う」
「……どうしてあなたとお姉ちゃんは戦わなかったの?」
「敵がネズミを操って身動きが取れなかった」
「そうなんだ」
「そっちはどう?ばててないようだけど」
「いや~、これでも結構疲れてるのよ」
会話中、凛音は逃げ出そうとする貢一を見つけ、すぐに捕まえた。
「逃しませんよ~?」
「ヒィィィィィィィ‼許してくださぁぁぁぁぁい‼」
悲鳴を上げる貢一を縛り上げ、凛音は蹴りを入れ始めた。その時、上空から服部が現れた。
「皆!何をやってるんだ!?」
「逃げようとした奴にお仕置き」
「いや、君が何をしているのかは聞かなくても分かる。皆、今何が起きているのかは分かっているはずだ。この事件は忍者に任せ、避難してほしい。忍者とは関係ない皆を巻き込みたくはないんだ」
「……服部の気持ちは分かった。だけど、僕達も戦う」
「なっ!?」
三刃の言葉を聞き、服部は驚いたが、三刃は続けてこう言った。
「魔法使いとして、事件を起こそうとするやつは見逃せない。相手が魔法使いだろうと忍者だろうと、関係ないさ」
「……この前戦ったジズァーとかいう奴よりも手ごわいかもしれないぞ」
「それでも戦う」
服部は三刃の目を見て、溜息を吐いた。
「何言っても無駄のようだな。分かった。一緒に戦ってくれ」
「おう」
三刃の返答と共に、凛子と凛音が気合を入れようとしたが、姫乃は二人を抑えた。
「二人は戦って疲れてると思うから、翡翠ちゃんと屋敷に戻って休んでなさい」
「えー、でも……」
「私の事は気にしないで。力も使ってないし、三刃君もいるから」
「むー……」
「分かったわね?」
「……はい」
「絶対に戻ってきてね」
「分かってるわよ」
その後、凛子と凛音はばてた翡翠を連れ、服部の屋敷へ戻って行った。
同時刻、白也達はすでに黒井家を取り囲んでいた。黒井家の屋敷をかこっている見張りは、白也達の存在には気付いていない。
「攻め込むのは今じゃ。わしが先陣を切る。五人ほどわしと共に来い。他の者は三郎と共に見張りを頼む」
「分かりました」
三郎と五人の部下は足音を立てずに、屋敷の裏へ回った。三郎達が侵入し、数分が経過した。それまで、動きはなかった。そんな中、白也は近くにいる海人に声をかけた。
「海人、覚悟はできてるか?育ての親と戦うことになるのだが……」
「とっくにできてる。あんな爺、育ての親とは思っていないよ」
「……もし戦うことになっても、これだけは頭に入れておいてくれ。怒りや憎しみは心を惑わせる。忍者であるもの、常に冷静であれ」
「……」
「そんな怖い顔をするなよ。お前がどれだけ原戸を憎んでいるかは分かってるつもりだ」
「うん……」
白也は海人の頭をなで、笑顔を見せた。
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