第24話 翡翠の初戦闘
服部は自分の部屋に行き、装備を整えていた。忍者刀の手入れ、手裏剣の補充、吹き矢の支度などをしていた。その時、扉を叩く音が聞こえた。
「茉奈、いいかな」
声の主は白也だった。服部は扉を開けると、外にいた白也と海人が部屋に入って来た。
「準備をしてたんだね」
「ああ。夜の作戦、私も行くからな」
「やっぱり。だけど、今回の作戦は君を外す」
白也の言葉を聞き、服部の目は丸くなった。
「どうして!」
「君は自分の友達を守るんだ」
友達を守れ。こう言われ、服部は手にしていた忍者刀を机の上に置いた。服部はわかったと小さく言うと、部屋から出て行った。
「いいのか白也兄。茉奈を外すなんて……」
「これは三郎様の意思だ。この里に関係無い者を巻き込みたくはないだろう。それは私も同じだ」
「俺もそうだ。だけど、もし血狐が復活したらどうする?」
海人の質問を聞き、白也は笑いながら答えた。
「大丈夫だ。私が復活を阻止する」
「……本当だな?」
「私が嘘をついたことがあるか?」
「ない」
「じゃあ安心しろ、深く考えることは忍者としていい心構えだが、毎日深く考えていると心が病むぞ」
白也は海人の肩を叩き、去って行った。
それから時が流れ、夜になった。牢屋にいる貢一は周囲に誰もいないことを察し、隠し持っていたスマホを取り出した。
「あーやばいことになった。さっさとこの里から逃げないと死んじまうよ」
スマホケースから小さな刃を取り出し、縄を切り始めた。縄をほどいた後、手を振り回し、異常がないかを調べた。
「よし。逃げるか」
牢屋の窓を開け、貢一は脱出を図った。地面に着地し、すぐに門の外に出た。
「脱出成功っと」
「どこに行くんだ?」
近くで三刃の声が聞こえた。慌てた貢一は逃げようとしたのだが、下から強風が吹き、転倒してしまった。
「脱獄なんてしちゃ駄目だよおじさん」
「悪いことしたら……」
「首を斬っちゃうわよ~」
目の前にいた翡翠達がこう言った。その後、後ろから来た三刃と姫乃が貢一に近付き、こう言った。
「案内しろ、黒井とかいう奴の屋敷に」
「これは強制よ。逃げようとしたら丸焦げにするわ」
「おいおいおい、脅すつもりか!若造のくせに!」
「うるさい黙れ。次何か言ったら切り刻む」
「そして燃えカスにするわ」
貢一は三刃達を睨み、何か言いたそうな顔をしたが、何をしても無駄だと悟り、溜息を吐いてこう言った。
「分かった分かった!俺のボスの家を教えるからさ、それでいいだろ!」
「それでいい。じゃあそこまで歩いて案内して頂戴」
姫乃の言葉を聞き、貢一の顔はさらに歪んだ。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?教えるだけじゃダメ?俺も行くの!」
「当たり前じゃない。私達、まだこの里の地理わかんないんだもん」
「道案内ならやってくれますよね~」
三刃が武器を手にし、こう言った。貢一はその場に座り込み、こう言った。
「はぁ……分かったよ。一緒について行ってやるよ。だけどよ!俺を戦いに巻き込むなよ!俺はお前らみたいに変な力はないんだからな!」
「よし、じゃあ行くか」
三刃は貢一を立たせた後、先に歩かせた。その後ろには凛音がいた。
「早く歩いてね。もし、変なタイミングで遅く歩いたり寄り道しようとしたらばらばらにしちゃうから」
「そんな事しねーよ!」
「じゃあ早く歩いて」
「あぁ……もう!」
反抗したら死ぬ。そう悟った貢一は自分の命を守るため、仕方なく三刃達の案内を始めた。
服部は三刃達がいる部屋へ向かう中、いろいろと考えていた。これから白也達が恐ろしい血狐と戦う中、自分は戦うなと言われた。果たして、その言葉の言う通り戦わなくてもいいのか?白也達が死んでしまい、一人で恐ろしい魔物と戦えるのか?何度も考えても答えは出なかった。服部は部屋の前に立ち、溜息を吐いた。
「皆、帰り支度を……」
扉を開け、服部は絶句した。部屋の中は三刃達の荷物が置いてあるだけだった。服部はすぐに三刃達が外に出たと察し、急いで外に出て行った。
その頃、三刃達は貢一を先頭にし、道を歩いていた。
「おい、黒井家はまだか?」
「またその質問かよ!あと三十分はかかるよ!」
貢一は苛立ちながら三刃の質問を返し、歯ぎしりしながら歩いていた。三刃のしつこい質問とは別に、何かしたら殺すとオーラを発している凛子と凛音、後ろから無言のプレッシャーを放っている姫乃と翡翠。彼女らの存在がさらに貢一のストレスを高めていた。誰でもいいからどうにかしてくれと、貢一は心の中で何度も叫んでいた。
しばらくすると、三刃は急に立ち止まり、周囲を見回した。姫乃も刀を手にし、翡翠と凛音と凛子に目で合図をした。
「へ?何かあったの?」
貢一がこう言った直後、上空から無数の手裏剣が降ってきた。三刃は風を発して手裏剣をはじき、姫乃は手裏剣が飛んできた方向に火の玉を投げた。
「無様だな、貢一」
突如声が聞こえた。それと同時に、貢一が宙に浮かび、猛スピードで三刃達から離れて行った。
「その声は……嵐の旦那!」
嵐と呼ばれた男は貢一を地面に卸し、三刃達の方を見た。三刃は剣を構えようとしたのだが、後ろから何かの音が聞こえた。
「お兄ちゃん!」
翡翠が三刃の方に向かって飛んできた手裏剣を打ち落とし、敵がどこにいるか、周囲を見回した。
「剣と銃が合体した武器ね……いいねぇ……美しいねぇ……」
三刃を襲った男は笑いながらこう言うと、翡翠の前に現れた。男は咳ばらいをし、頭を下げてこう言った。
「俺の名前は煙火日照。これからお前を灰にするナイスガイの名前さ」
「灰になるのはあなたの方よ!」
姫乃は日照の背後に回り、刀から炎を出して襲い掛かった。日照は炎で刀を作り、姫乃の攻撃を防御した。
「おい土門、聞こえるか?罠の上に敵を置いてやったぜ」
嵐が大声で叫んだ。それからすぐ、三刃と姫乃と翡翠の足場が崩れてしまった。
「お姉ちゃん!翡翠ちゃん!」
凛子が助けに行こうとしたのだが、日照が手裏剣を投げ、妨害した。
「あんた……あんたのせいでお姉ちゃん達が落ちちゃったじゃない!」
「そりゃあ大変だねぇ。多分死んだよ」
「何が多分よ……本当にむかつくわ!ぶっ殺してやる!」
凛子は槍を構え、日照に向かって飛んで行った。一方凛音は、ボーっとしたまま嵐を見ていた。
「何を突っ立っている?それで俺の速さを見切れるとでも?」
「自分の強さに自信あるんですね」
「そうだ!俺は強い、俺は速い!貴様のようなボーっとして奴に負けるはずがない!」
「そうなんんですか~。じゃあ、本気を出してもいいんですね?」
「貴様が本気を出しても、俺にはかなわん」
「いいんですか。死んでも後悔しないでくださいね」
凛音は不気味な笑みをし、こう言った。
落とし穴に落ちた翡翠は、腰をさすりながら立ち上がっていた。
「いたたたた……お兄ちゃん、姫乃さん、大丈夫ですか?」
「僕は大丈夫だ」
「私もよ。まったく、こんな仕掛けに引っかかるなんて……」
姫乃がぼやきながら翡翠に近付いた。三刃も立ち上がり、二人と合流した。
「土門って奴の仕業だよな」
「魔法で地面を削ったのね」
「魔法ってなんでもありなんですね。今更ですけど」
三人が話し合いをする中、姫乃が何かの音を聞き、三刃の後ろに隠れた。
「どうした?」
「今ネズミの声がしなかった?」
「……しなかったけど」
「嘘言わないでよ!今聞こえた!絶対に聞こえた!」
「あの……姫乃さん……」
騒ぎ始めた姫乃に恐る恐る近づき、翡翠はこう聞いた。
「ネズミが嫌いなんですか?」
「そうよ!あんな汚くてバッチィ動物なんて好きになれるわけないじゃない!」
「そうですよね……」
苦笑いをし、翡翠はこう答えた。その時、翡翠の耳にも足音のようなものが聞こえた。
「無茶をするなよ翡翠、僕が何とかする」
武器を持った三刃が翡翠にこう言った。だが、三刃は急に変な声を上げ、変な動きを始めた。
「あひゃっ!?はははははは!な……何で急にひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
「何やってんのお兄ちゃん?」
「変なのが服の中に入ってきひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!た……助けてひしゅひゃひゃひゃ!!」
この時、翡翠は自分の右足の上に何かがいると察し、すぐに右足を蹴り上げた。翡翠の目には蹴り上げられた衝撃で宙に舞うネズミが映った。
「まさかネズミのせいでお兄ちゃんが……」
「察しがいいな」
奥から男の声が聞こえた。翡翠は武器を構え、叫んだ。
「あなたが土門って人ね!」
「その通り、俺は尼内土門。そして周りのネズミ達は俺の手下だ」
「じゃああなたを倒せばお兄ちゃんは助かるのね」
「違うな。お前は俺を倒せない。確実に俺に殺されるからだ。残りの二人はゆっくりと始末してやるよ」
土門の目つきが変わった。土門の殺意に押されそうになった翡翠だが、目を閉じて冷静になった後、大きく深呼吸をして気持ちを切り替えた。
「あなたを倒します!」
「無駄な事!」
土門は水を発し、翡翠に向けて水を放った。翡翠は飛んでくる水を斬って相手の攻撃を封じようとしたのだが、切り落とされた水が再び翡翠に向かって襲い掛かった。
「ハッハッハ!無駄だ!水の力を甘く見るな!」
水から逃げまとう翡翠を目にし、土門は高笑いをした。このままじゃまずい。翡翠はそう察し、何とか反撃の糸口がないか考え始めた。
「考えたって無駄だ!俺の水は無敵だ!」
再び土門の笑い声が響いた。この時、翡翠はあることを思いついた。翡翠は走るのをやめ、その場に立ち止まった。
「観念したか!死ねぇ!」
土門は勝利を確信し、この場にある水を一斉に翡翠に向けて放った。水が翡翠を襲おうとしたその瞬間、いきなり水ははじけ飛んだ。
「さぁ……私のターンよ!」
翡翠は武器を銃にし、土門に向かって撃ち始めた。
「銃か?がむしゃらに撃っても俺には……」
その時、土門の羽織に斬れ傷が出来た。傷を見て、土門は翡翠を凝視した。ただ銃を撃っているだけなのに、目の前に水で盾を作っているのに、どうして攻撃が届くのだ?土門が困惑する中、翡翠の攻撃は続いた。立ち止まっていたらまずいと思った土門はその場を離れ、翡翠から距離を取った。
「逃げたわね‼」
翡翠は土門の後を追った。土門は追ってくる翡翠を見て、にやりと笑った。
「隙だらけだ‼これでも喰らえ‼」
土門の足元から、無数の水柱が生まれた。
「何これ!?」
「必殺、水喰。これに飲まれたら、窒息するだけだ‼」
水柱はうねりを上げながら、翡翠に襲い掛かった。翡翠は武器を剣に変え、水柱を斬り始めた。だが、水柱は斬られても、すぐに再生を始めた。
「ハッハッハ!無駄なことを‼斬っても斬ってもすぐに再生する、お前は飲まれる運命なのだ‼」
「そう……だったら」
翡翠は剣を振り下ろし、風を発生させた。驚いた土門は攻撃を解除してしまった。それをみて、先ほどの傷は風の刃で出来たものと察しした。
「ふむ。幼いと思って手を抜いたが……では、本気で貴様を始末しよう‼」
土門は両手に水を発生させ、大声を上げた。すると、両手に発生した刀は、凍ってしまった。
「えええええええええええ!?」
「この氷の刀で、貴様を切り刻んでやる‼」
翡翠は追ってくる土門から逃げようとしたが、目の前に水の柱が現れた。
「そんな……」
「逃げても無駄だ‼俺の水の魔法からは逃げれない」
「真正面から、戦うしかないんだ……」
翡翠は武器を銃に変形させ、迫ってくる土門に向かって発砲した。だが、放たれた銃弾は、土門に斬られて落とされた。
「そんなのが効くか‼」
攻撃が効かず、翡翠は苦い顔をして後ろに下がった。どうすればいい?何か考えはないかと翡翠は考えた。
その時、翡翠はあることに気付いた。それは、どうやって土門は氷を作ったのか?もし、魔力を使って水の温度を下げて作ったとしたら、風も同じようなことができるのではないか?
翡翠は両手を前に出し、風を発生させた。
「ただの風で動きを鈍くするつもりか?そんなの、ただの時間稼ぎではないか‼」
相手はただの風だと思い込んでいる。なら、今がチャンスたと翡翠は察した。今発生している風に熱を加えて熱風にし、氷の刀を溶かし始めた。
「これで、あなたの武器は封じたわ」
「確かにな」
武器を失ったが、土門には余裕があった。
「確かに溶けて水になった。だが、俺は自分で発生させた水なら自由に動かせる‼」
土門は溶けた水を魔力で動かし、翡翠を襲った。だが、翡翠はそれよりも先に武器を銃に変形させ、土門に狙いを定めていた。そして、引き金を引いた。
「フン。さっきの攻撃は通用せんと……」
さっきと同じように銃弾を防ごうと、土門は思っていた。しかし、先ほど発砲された銃弾より、回転もスピードも増していた。
「み……見えない」
土門は小さく呟いた。その直後、銃弾は土門の体を貫いた。
「ふぅ……勝った」
翡翠は武器をしまい、三刃と姫野の元へ戻ろうとした。だが、土門が起き上がった。
「グハッ……ハハハ……まだお前の勝ちではない……」
血を吐きながら、無理に立ち上がろうとしている土門の姿を見て、翡翠は溜息を吐いた。
「おじさん、もう動かない方がいいよ。いくら急所を外しても、血は出てるんだから」
「構うものか……ここで……倒れるわけには……いかぬのだ」
「その根性、すごいと思う。それを別の所で使ってほしかったな」
「グッ……ハァッ……ハァァッ……」
土門は自分の血を触り、翡翠に向けて血を飛ばした。
「大体は察し出来てるよ。水と同じように、血も動かせるって」
翡翠は血をかわした。それを見た土門は再び倒れた。翡翠が近付き、土門に息があるか調べた。土門は息をしており、脈も動いていた。
「気を失ったのね」
「翡翠ー‼」
奥の方から、三刃の声がした。翡翠はすぐに三刃と姫乃の所へ走って行った。
翡翠は二人と合流した後、土門との戦いを語った。
「お前がやったんだ。だからネズミがおとなしくなったんだ」
「少しは見直した?」
「ああ」
「話はそこまでよ、今はどうやってここから抜け出すか考えないと」
翡翠は上を見ながらこう言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます