第22話 安息を破る黒井家の動き

 夕食の後、三刃は屋敷の外れにある雑木林へ向かった。周囲に人がいないことを確認し、武器を出した。


「よし。これで次は……」


 剣を持ち、三刃は眼を閉じて集中した。剣を持っている右手に魔力を送り込み、そこから剣に魔力を送り始めた。すると、刃の周りが緑色に光り始めた。これは、魔力が武器に入っている証明である。送り込んだ魔力が多ければ、輝きはさらに強くなるのだ。


「……ふぅ……」


 剣に入っている魔力を再び右手に戻し、三刃は武器を戻した。


「つ……疲れた……」


 疲れ果てた三刃はその場に座り、呼吸を整えた。この時、目の前から服部が現れた。


「こんなところで何をやっている?」


「力試しだよ。どれだけ武器に魔力が入るか試しているんだ」


「何故そんなことを?」


「強くなるためだよ。そうすれば、この剣はもっと威力を増す」


「日々努力しているんだな。それより、風呂が沸いたぞ」


「そうか、教えてくれてサンキュな」


 服部に礼を言った後、三刃は服部の屋敷に戻った。その後、三郎から風呂場を教えてもらい、風呂場に入って行った。


「はぁ……」


 今風呂場は三刃一人である。服部家の風呂は温泉施設の風呂かと思うほど、広かった。


「広い風呂……その中僕一人……貸し切りの気分だな……」


 三刃は更衣室に誰もいないことを察し、湯船の中を泳ぎ始めた。


(広い風呂の中で泳ぐの夢だったんだよな~)


 三刃が泳ぎを楽しんでいる中、突然扉が開いた。


「子供のようなことをするな」


 入って来たのは服部。声を聴き、慌てて三刃は服部の方を見たのだが、服部の姿を見て三刃は慌てて後ろを見た。入口にいる服部は何も着ていない。全裸だった。


「お前、覗きに来たのか!?」


「お前の裸なぞ興味ない。背中を洗いに来ただけだ」


「いや、大丈夫だから!」


「大丈夫じゃない。代々服部家には客人が風呂に入ったら必ず背中を洗え、それが礼儀だと伝えられている」


「なんだよ、そのありがたいような迷惑のような家訓は」


「どうした?裸の少女が入って来たんだ、普通の男はうれしいと思うのだが」


「そりゃあ嬉しいけど、今翡翠や姫乃がいるんだ。下手したら殺される」


「誰に殺されるのかしら?」


 服部の後ろにいた姫乃が、睨みながら三刃にこう聞いた。姫乃の殺気に押されながら、三刃は返事した。


「いや、僕は何も言ってないけど……」


「ふふ、ごまかしたって無駄よ~」


「ごまかしてないって!本当だ!」


 三刃が姫乃に近付き、反論しようとしたのだが、全裸の三刃を見た姫乃は赤面し、後ろを見た。三刃も自分が全裸だと察し、慌てて股間を隠しながら姫乃に近付いた。


「悪かったよ、僕が悪かった。それでいいだろ」


「全く、口には気を付けてね。化け物扱いされると困るんだから」


「はいはい」


 三刃は返事をし、湯船に戻っていった。


「全く、うるさい奴らだ」


 全裸の服部がこう言った。それに対し、姫乃は服を着ろと叫んだ。




 三刃が風呂から出た後、姫乃達が風呂に入った。


「どうだ皆?服部家の風呂は?」


「広くて気持ちいわ~」


 湯船に入っている姫乃は返事をしながら、大きく背伸びをした。翡翠は外の景色を見て、感動の声を漏らしていた。


「木ばっかり、いろんな動物がいそう!」


「いろいろいるぞ。この里は特殊な気候でな、そのせいかいろんな種類の動物がいるんだ」


「すごい」


「明日行ってみるか?」


「是非!お願いします!」


 服部と翡翠が話す中、凛子と凛音が外に何かを見つけた。


「あれ?あれって翡翠ちゃんのお兄ちゃんじゃない?」


「え?お兄ちゃん!?」


 翡翠が慌てて外を見た。凛子と凛音の言うとおり、遠くに三刃がいた。しかし、三刃はこちらを向かず、何かをしていた。その時、何かを察した姫乃は湯船から出て、三刃の方を見た。


「魔力を察したんだけど……三刃君が何かやってるの?」


 姫乃がこう聞いた直後、三刃の周りに緑色のオーラが発した。


「お兄ちゃん、何やってるんだろう?」


「魔力を操る練習してるのかしら。湯冷めするのに」


「今さっきも修行をやっていたのだが……あいつはなぜあんなに力を欲するんだ?」


 服部が頭を傾けながらこう言った。




 姫乃は風呂から出た後、外に出て三刃を探した。風呂から見えた雑木林の所に来たのだが、三刃の姿は見当たらなかった。戻ったのかと思いつつ、姫乃は屋敷に戻ろうとした。その時。


「いたっ!」


 足元で三刃の声がした。姫乃は地面を見ると、そこには三刃の顔があった。


「どうしたの三刃君?こんなところで横になって」


「魔力使いすぎた。ごめん、起こしてくれないか?」


「全く、しょうがないわね」


 姫乃は三刃の手を掴んで体を起こした。


「歩ける?」


「なんとか」


 三刃を起こした後、姫乃は三刃を連れて屋敷に戻った。


「お兄ちゃん!一体どうしたの!?」


「修行をやりすぎて倒れたのよ。凛音、三刃君を横にするから手伝って」


「はーい」


 三刃は横になった後、すぐに眠りについた。眠る三刃を見て、姫乃はため息とともにこう言った。


「三刃君、ジズァーの戦いでさらに強くなろうとしているのかしら」


「何で?あのジズァーって人を倒したからいいんじゃないの?」


「違うのよ。きっと三刃君、次の大きな戦いに備えてさらに強くなろうと思うの。ジズァーとの戦いで一人じゃ大きな敵を倒せないって悟ったのかしら」


 翡翠は話を聞いた後、三刃の額を叩いた。


「あほなお兄ちゃん、一人で無茶しなくてもいいのに……」


「いえ、三刃君の考えは正しいと思うわ。あの時は私がいたからいいんだけど、次の戦いは私がいるとは限らないわ」


「そうですね……」


「いずれ翡翠ちゃんも一人で大きな敵と戦う時が来ると思うわ。その時のために、特訓するのもいいわよ」


「分かりました」


 姫乃は話が終わった後、布団を敷き始めた。


「私も寝るわ。明日はたくさん歩くから寝て体力を休めなさい。凛音、凛子。遅くまで遊んでちゃダメよ」


「はーい」


「分かった」


「それじゃあお休み」


 姫乃は照明のスイッチを押し、電気を消した。




 翌日、三刃達は服部と共に里周りを始めた。最初に案内されたのはトレーニングジムのような場所。看板にも忍トレーニングジムと書かれていた。


「忍者のトレーニングジム?そんなのがあるんだ」


「私が子供の頃からある。私も使ったことがあるぞ」


 返事をしながら、服部はジムの中に入って行った。その後を追って三刃達もジムに入って行った。中に入り、三刃は思わず小声で嘘だろと呟いた。ジムの中に滝があり、ふんどし姿の男性が滝に打たれていた。他にも、天井に近い所にある平均台を歩いている人、飛んでくる矢を片手で受け取る人など、明らかに人並み外れた超人がいた。


「忍者って……」


「ここは術ではなく、運動神経を鍛える施設だ。術を使うにも、体力がいるからな」


「はぁ」


 三刃は茫然としながら、この光景を見ていた。その時、背後から気配がした。三刃は後ろを見たが、そこには姫乃達しかいなかった。


「おい、今魔力使ったか?」


「使うわけないでしょ、こんな所で使ったらどうなるか分かってるでしょ」


「馬鹿じゃねーの?」


 人を小馬鹿にしたような顔で、凛子がこう言った。


「はっはっは。まだまだ甘いなぁ」


 見知らぬ男性が笑いながら三刃の肩を叩いた。この男性を見て、服部が少し驚きながら話した。


「乾さん。驚かさないで下さいよ」


「いや~悪い悪い。古い知り合いの子供が来てるっていうから会いに来たんだよ」


「あなたが乾さん?」


「そうだよー。で、君が相場の子供の三刃、そして妹の翡翠。二人とも両親にそっくり」


 乾は三刃と翡翠の顔を見て、こう言った。続いて三刃が手にしている宝石を見て続けて話した。


「俺が茉奈に渡した風丸、ちゃんと届いたようだね」


「へ?風丸?」


「この武器の名前だよ。愛着を持つようにって相場が名前を付けたんだよ」


「そうなんだ……じゃあ私のこの武器も名前着けようかな」


 翡翠が宝石を手にし、こう言った。乾は服部に近付き、小さな声で呟いた。


「茉奈、なるべく早めに三刃達を帰らせてくれ。黒井の爺が何か企んでいると噂を聞いたんだ」


 話を聞き、服部は小さく頷いた。


 その後、乾と共に三刃達は歩き始めた。歩いている中、三刃は魔法使いとして戦い始めたこと、ジズァーとの戦いを乾に話した。


「そうか、相場を殺したジズァーを倒したんだな」


「姫乃と一緒に戦いました。僕一人だけじゃあ倒せませんでした」


「姫乃ってあの美人の嬢ちゃんの事か?性格もよさそうだし、体つきもいい。いい子に目を付けたな。流石相場に似てスケベだな」


 乾は笑いをこらえながら姫乃の方を見た。その直後、乾は三刃にこう聞いた。


「まさかだとは思うけど、あの子って巫女?」


「はい。火龍の巫女です。妹の翡翠も風龍の巫女です」


「巫女が二人いるんだ。あんまりいないって聞いたけどな」


 歩きながら話していると、上空から何かが降りてきた。


「乾さん、丁度良かった」


 降りてきたのは白也だった。服部はすぐに白也を向き、近付いた。凛音と凛子も白也を見て、歓喜の声を出しながら近づいた。


「白也兄さん!どうしたの?」


「茉奈、ごめんな。仕事の話で乾さんと話が」


 服部は白也の耳元に近付き、小さくささやいた。


「黒井の爺の話か?」


 服部の問いに対し、白也は小さく頷いて返事した。近くにいた凛音と凛子は、何の話か聞き取れなかった。


「ねぇ、何の話?」


「仕事の話だよ」


「分かった。じゃああそこのカフェでコーヒー飲みながら話そうや」


「じゃあ僕達もそこへ行こう。休憩もしたいし」


「いや、これは忍者だけの話だ。ごめんな」


 そう言って、白也と乾は去って行った。


「あ~、待って白也さ~ん」


「もう少し話したかった……」


 服部は溜息を吐き、こう言った。


「仕方ない。私達は別の所で休憩を取ろう。少し離れた所にハンバーガーショップがある。そこに行こう」


 その後、歩き始めた三刃達だったが、三刃はそわそわしながら周囲を見ていた。


「ん?どうした?」


「服部、この辺にトイレないか?」


「便所か……確かあの角を曲がったところにコンビニがあったな」


「ごめん、行ってくる!」


 三刃は急いでコンビニに向かった。三刃の姿が見えなくなった後、姫乃は翡翠達にこう言った。


「仕方ないわ。どこかで座って待ってましょ」


「ですね」


 その後、姫乃達は近くの公園のベンチに座り、三刃の戻りを待った。しばらくし、東山が車でやってきた。


「やっと見つけた!」


「どうした東山?顔色悪いぞ」


「急いで屋敷に戻ってください!皆さんも一緒に!」


 東山は速く乗るように急かしたが、姫乃と翡翠は顔を合わせ、こう言った。


「すみません、今三刃君がトイレに行ってて……」


「私と姫乃さんはお兄ちゃんが戻ってきたら急いで屋敷に戻ります」


「そう。じゃあ残りの嬢ちゃん達、早く乗ってくれ!」


「えー、お姉ちゃんと一緒じゃないとやだー」


「あんな男の事なんて忘れて戻りましょ」


 凛音と凛子がこう言ったが、姫乃は二人を車に乗せた。


「お姉ちゃん……」


「あなた達は先に戻って三郎さんの力になってあげて。大丈夫、すぐ戻るから」


「……分かった」


 その後、服部達を乗せた東山は、急いで戻って行った。


「さて、三刃君を迎えに行きますか」


「それにしても、一体何があったんですかね」


「白也さんと乾さんも何か慌ててたし、事件が起きたんでしょ」


「休めると思ったのに、大変な時に来ちゃいましたね」


「全く、どこの輩かしら。休みの時期に騒動起こそうなんて……」


 歩きながら姫乃はこう言った。

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