第21話 謎の黒井家
「着いた。ここがお前らが泊まる部屋だ」
服部が案内した部屋はとても広かった。だが、テレビや壁電話と押し入れ以外、目立つような物はなかった。
「テレビと電話だけか」
「押し入れの中に何が入ってるの?」
「布団類だ。ああそうだ。一応この事も伝えておこう」
服部は押し入れを開き、中にあった布団をどかした。そして中の壁を押し、隠し通路を三刃達に見せた。
「これは客人用の隠し通路だ。何かあったらここから脱出しろ。この先は玄関の近くに通じている」
「さすが忍者屋敷……」
三刃が感心する中、翡翠は三刃にこう言った。
「ねぇ、お兄ちゃんはどこで寝るの?」
「どこで寝るって……この部屋だろ?」
「女の子がいる中で?」
「当たり前だろ」
三刃がこう言った直後、女性陣から猛攻撃を受け、廊下に放り出された。
「お兄ちゃんは廊下で寝て!」
「三刃君みたいなスケベが女の子と寝たら、何かされるからね~」
「何もしないよ!頼むから!部屋の中で寝かせて!」
「あとで物置の片付けをしておく、お前はそこで寝ろ」
服部はこう言うと、姿を消した。三刃はちょっと待てと言おうとしたが、すでに服部は消えていた。
服部家から少し離れた路地裏。三刃達の様子を伺っていたあの人物が走っていた。
「おい、そこのお前」
近くから少女の声がし、あの人物は動きを止め、声の方を向いた。
「お前、黒井原戸の者だな」
「貴様は……服部のガキか!」
あの人物が刀を取ろうと動きを見せた瞬間、服部は手裏剣を投げて攻撃した。
「残念、俺の方が動きは速かったようだな!」
あの人物は刀を素早く抜き取り、服部が投げた手裏剣を弾き返した。しかし、手裏剣に気を取られていたせいで、目の前にいた服部の姿を見失ってしまった。
「今のは罠か……」
「動くな」
後ろから服部の声がした。それと同時に、首元に何か触れている感覚が走った。
「動けばお前の首をはねる。死にたくなければ事情を話せ。あの爺は何を考えているんだ?そして、三刃達をどうするつもりなんだ?」
「さぁな。俺は見張りに来ただけさ。何も知らない」
「本当に何も知らないんだな?」
服部は手にしている小刀を、相手の首に当てて聞いた。
「怖い怖い。本当だって」
「そうか……」
返事を聞き、服部は刀を鞘に納めた。
「ふぃ~、助かった」
「お前を開放したわけじゃない。ここじゃあしっかりと話ができない。それに、何も知らないと言っていたが、私はその言葉を信用していない」
「どういうことだ?」
「今からお前を私の家に連れていく。黒井原戸の部下、志宮貢一よ」
服部は風を起こし、志宮の周りに風を発生させた。慌てた志宮は動こうとしたが、指の皮が風のせいで切れてしまった。
「少しでも動いたり変なことを叫べばお前を切り刻む。私の言うことを聞いて大人しくしていれば、助けてやろう」
「分かったよ、お前の言うとおりにする。お前の家で本当のことを言うよ。こんな所でみじん切りにされちゃあ困るんでな」
と、少し笑みを見せながら志宮はこう言った。この時の志宮の笑みを見て、服部は不気味と思った。それと同時に、いやなことが起こるんじゃないかと不安になった。
その頃、三刃は屋敷の外にある物置小屋にいた。
「全く……広い部屋で眠れるかと思ったのに……」
三刃は独り言を呟きながら、布団を敷いていた。三刃は布団の上で横になり、本を読み始めた。数分後、三刃は何かの気配を察し、本を置いて武器を取り出した。そして背後から襲われるのを防ぐため、壁を背にやった。
「ほう。若いのになかなかやるのう」
後ろから声がした。三刃は振り向こうとしたのだが、その前に後ろから手が現れ、三刃の頭を掴んだ。
「うっ!」
「じゃが、まだ甘い」
「なんだお前……魔法使いか?」
「いや、わしは忍者。茉奈の爺じゃ」
服部の祖父はそう言うと、三刃の頭を離した。
「今姿を見せる」
この言葉の後、急に三刃の目の前に煙玉が落ちてきた。煙が晴れると、三刃の目の前に老人が立っていた。
「すまんの、お主を試すようなことをして」
「いえ、別に構いませんよ」
三刃が立ち上がった後、服部の祖父は話をつづけた。
「わしの名は服部三郎。お主、名は?」
「僕の名前は護天三刃です」
「護天……おお。乾が助けた男の一人か」
「それって僕の父の事ですか?」
「父……そうか。あの男の息子か。あれから十年以上も経過していたのか。まぁ話は飯を食いながらしよう。晩飯の用意ができたから呼びに来たんじゃった。食堂に案内するからついてこい」
話を終え、三刃は三郎とともに食堂へ向かった。食堂には先に姫乃達が座っていた。
「なんだ、先にいたのか」
「東山さんが教えてくれたの」
「大変だな、あの物置小屋に止まることになるなんて」
東山が三刃の肩を叩いてこう言った。三刃は仕方ないですからと返事をし、東山の隣に座った。その時、天井裏から服部が現れた。
「うわ!そこから現れるなよ!」
驚いた三刃が注意したが、服部はそれを無視し、三郎のもとに近づいた。
「おじいちゃん、ちょっと話がある。黒井関係で動きがあった」
「そうか……すまん。席を外す」
服部と三郎は食堂から出て行った。
「何かあったのかな……」
「だな。変なことが起こらなければいいんだけどな。ま、大丈夫だろ」
心配する翡翠に、三刃はこう言ったが、三刃自身も異様な雰囲気を察していた。
服部と三郎は屋敷の応接間で話をしていた。服部の横には、手足を縛られた貢一がいた。
「茉奈、こいつは?」
「黒井原戸の部下だ。三刃達が来たのを見ていた」
服部が小刀を貢一に向け、こう言った。三郎は服部に小刀を戻すように促すと、貢一の前に移動し、彼の目を見て質問を始めた。
「質問に答えろ、あの男は何を考えている?」
「さぁ?分かんないっすね」
「本当に知らないのか?」
「はい。指令の内容は服部家に誰か来るから見張りに行って来いと」
「それだけか?」
「本当にそれだけ。で、俺からも聞いていい?あの子ら何?強いの?」
貢一が笑いながら質問をした。それを聞き、服部が小刀を貢一の喉元に突き付けた。
「貴様が質問をするな。今質問をしているのはこっちだ」
「おーこわこわ。何?何か気に障る質問でもしたの~?」
「安易な挑発に乗るな、茉奈」
三郎が服部を睨んだ。覇気に負け、服部は小刀をしまい、貢一から離れた。
「茉奈、お前は食堂へ戻れ。後はわしがやる」
「……わかった」
「不安な顔をするな、大丈夫じゃ。わしに任せておけ」
三郎は服部に向かってウィンクし、余裕を見せた。服部は祖父を信じ、三刃達のもとへ戻っていった。
黒井家地下。家主である黒井原戸がコンピューターを操作しながら笑い声をあげていた。
「もう少しだ……あと少しで里の実権がわしに戻る!」
原戸は扉の近くにいた少年に近づき、渋い顔をしてこう言った。
「喜ばないのか海人。わしの孫よ」
「ふざけんな。あんたの孫なんて今すぐにでもやめたいよ」
海人は原戸の手を払い、部屋から出ようとした。その姿を見て、原戸はこう言った。
「その態度もすぐに変わるぞ。実験がわしらに戻ればもはや敵なしじゃ。わしらに逆らう者はいなくなるからじゃ!なのに……なぜ喜ばないんだ海人よ!」
「俺の考えはあんたと違う」
「ったく、服部のところのクソガキと佐々木の馬鹿野郎に毒されおって……」
原戸がグチグチ言いながらコンピューターの前に戻り、作業を再開した。海人は外に出て、空を見上げて呟いた。
「俺は……どうすればいいんだ?どうすればクソ爺の野望を食い止められるんだ……」
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