第20話 忍者の里
出発して数時間後、三刃達を乗せた車は森の中へ入っていった。
「少ししか離れていないが、なんか懐かしいな」
「え?もうそろそろ着くのか?」
「ああ」
服部の言葉を聞き、三刃と翡翠は周りを見回した。周りは森だらけで、人が住んでいるような気配は一切なかった。
「どこにいるんだろう」
「まだ走ってるんだ。もう少し待とう」
三刃は座りなおし、荷物を持った。その時、外に赤くて大きい鳥居が現れた。
「入口だ」
「一体どんな所なんだろう……」
「忍者の里なんだから、至る所に罠があるんじゃない?」
「そんな物騒な所じゃないぞ。お、着いたようだ」
車は広場の隅に止まった。東山は三刃達を見てこう言った。
「さぁ着いたぜ!ここが俺達の里だ!」
三刃達は目の前の光景を見て絶句した。三刃の勝手なイメージだが、忍者の里は森が茂っていて、木や藁でできた建物が多々あり、そこら中に手裏剣の特訓場が設置してある。そんなイメージだが、実際は車があり、電柱があり、コンビニがあり、ちょっとした高さのビルがあった。
「これが……忍者の……」
「忍者の生活も、時の流れとともに変わっていくものだ」
「車での迎えがあるって聞いた時点でこんなことになってるって察してたけど」
姫乃が小さくこう呟いた。その後、服部は三刃達の案内を始めた。東山の方は車の整備をするため、先に服部家に向かった。
「ここが私が生まれ、育った里だ。特に何も目立つものはないけどな」
「何もない……ねぇ」
三刃の周囲には、平然と壁を走るサラリーマン風の男性、高くジャンプして塀を乗り越えて近道をしようとしている子供、大きなカエルを呼び出して移動している主婦などの異様な光景が見られた。
「こんなところで育ったら、これが当たり前と思い込むんだろうな」
「何か言ったか?」
「いや別に」
三刃は服部にこう言うと、かなり大きくて目立つ山を見つけた。
「なんかあの山だけ大きいな」
「ああ。昔から言われていることだけど、あの山の下には大昔に封印した妖がいるんだ」
「それってモンスターの事?」
「いや、お前らと一緒に戦った化け物とは違う」
「妖怪だよ」
と、いきなり現れた男性がこう言った。突然現れた男性を見て、三刃達は少し引いた。
「ごめんごめん、驚かせちゃった?茉奈の知り合いだからこういうの慣れっこだと思った」
「私はまだそこまで器用にできないよ、白也兄さん」
服部は微笑みながら、白也と呼んだ男性の近くへ寄った。
「帰ってきたんだ茉奈。久しぶりだな」
「うん!」
明るい性格となった服部を見て、三刃達は茫然としていた。しばらく服部は白也と話し込んでいたのだが、三刃達の方を見てこう言った。
「そうだ。あのコンビニの近くが私の実家だ。近くに東山もいると思うから」
「服部さんは……」
「話が終わったら行く」
と言って、白也との話を続けた。
服部家への移動中、翡翠と凛音と凛子は今さっきの服部について話をしていた。
「服部さん、絶対にあの白也って人の事が好きだよ~」
「多分そうよ!私達の接し方が違うもん」
「私もああいうイケメンと恋に落ちたい……」
「いいな~服部さん。あんなイケメンがいるなんて思いもしなかった」
「顔もいいし性格もよさそうだし、文句なしね」
妹達が恋の話で賑わっている中、三刃と姫乃は周囲を見ながら会話していた。
「確かコンビニの近くって言ってたよな」
「ええ。私の勘なんだけど、あの大きな家が服部さんの実家じゃない?」
姫乃は三刃に近づき、大きな家の方を指さした。
「あの家か。だけど他にも家はあるぞ。とにかく東山さんを探そう、家にいるからって言ってたじゃないか」
「そうね。探しましょ」
この時、三刃は翡翠の視線を感じ、後ろを振り向いた。
「なんかあったか?」
「いや、お兄ちゃんと姫乃さんって仲がいいなって」
「やめてよ翡翠ちゃん、こんな子供みたいな顔をした男がお姉ちゃんの彼氏になるなんて」
「あいつがお姉ちゃんの旦那になるのぜ~~~~~~ったい反対!」
「だね。この前お兄ちゃん、姫乃さんがいるなんて気が付かずにお風呂場に入っちゃったから。お兄ちゃん、姫乃さんの体に見とれてた」
この言葉を聞いた瞬間、凛音と凛子の目が殺意を放った。
「翡翠ちゃん、その話詳しく聞かせて」
「いいわよ。ここだとお兄ちゃんが邪魔するからどこかで」
「絶対に話をするなよ翡翠!僕が死んだらお前が一人になるからな!」
「あの~、もしも~し」
ここで東山が現れ、声をかけてきた。声に気が付き、三刃達は東山の方を見た。
「東山さん」
「遅いから探しに来たよ。さ、服部家に行くぞ」
その後、三刃達は東山の後について歩いて行った。道中、東山は服部がいないことが気になり、三刃にこう聞いた。
「なぁ、茉奈はどうした?」
「服部ですか。白也さんって人と話したいから先に行っててくれと言われました」
「白也の坊主とあったのか。そうかそうか。久しぶりに会うからテンション上がったんだな」
「じゃあ、やっぱり服部さんは白也さんの事が好きなんですね!」
凛子が目を輝かせながらこう聞いてきたため、東山はうろたえながら返事を返した。
「まぁそうだな。茉奈は昔っから白也の坊主に懐いてたもんな。恋する乙女ってのはああいうもんの事を言うのかねぇ」
東山は少し笑ってこう言った。数分後、三刃達は大きな門の前に着いた。その門の奥には大きな屋敷が建っていた。
「着いたぜ。ここが服部家だ」
姫乃は小さな声で予想以上と呟いた。三刃は姫乃の方を向き、少し笑いながらこう言った。
「お前の勘外れたな」
「うっさい!」
姫乃は三刃の顔を右手で持ち上げ、振り回し始めた。三刃と姫乃を無視し、翡翠達は屋敷に入って行った。
「うわ……」
玄関に入った直後、目の前の光景を見て翡翠は持っていた荷物を落としてしまった。凛子と凛音も、声をあげて驚いていた。それもそのはず。玄関には、古い手裏剣が壁に貼り付けてあるケースの中に入れられていて、奥には何本もの日本刀が置いてあった。
「すごい!これ昔の忍者の武器!」
「ああ。代々この家に伝わる物なんだよ」
「へー、じゃあすごい武器とかもあるの?」
「もちろん。昔の悪い妖怪を倒した武器もあるんだけど、どこにあるのかは教えてもらってないんだよ」
「何でですか?」
「危険なものだって話を聞いたよ。危ない妖怪を封印したんだから、それ程の魔力を持ってるんだろ」
「そうなんですか」
翡翠が返事をした直後、足元に何かが転がってきた。
「何これ?」
「あ!触れちゃダメ!」
東山がその物体を飛ばそうとしたが、触れた瞬間に煙が発した。
「すまない。寄り道で遅くなった」
煙が晴れたのを確認し、服部が玄関から入って来た。
「服部さん」
「急な用が出来てすまなかった。明日しっかり町の案内をする」
「あ……ありがとうございます」
「ところで、三刃と姫乃は何やってるんだ?人の家の玄関の前でプロレスのまがい事なんかやって」
「まぁいろいろとね」
その後、服部は三刃達を連れて家の中の案内を始めた。
「長い廊下だな~」
廊下を歩く中、三刃はこう呟いた。その呟きを聞き、服部は三刃にこう言った。
「私の家は無駄に長いからな。そうだ、あまり壁を触るなよ。仕掛けがあるからな」
「仕掛けね……」
姫乃は周囲を見回し、変な飾り物が埋め込んである壁を見つけた。
「服部さん、これを押すと何か起こるの?」
「確かこれは落とし穴のスイッチだ。丁度三刃が立っている床が開くんだ」
「へー」
話を聞いた後、姫乃はそのスイッチを押した。すると、三刃の足元が開き、三刃は落ちていった。
「あああああああああああああああああああああああ!!」
「本当だ、すごい」
「お前!何やってんだ!?」
三刃は落とし穴から這い上がり、姫乃に向かって叫んだ。三刃の叫びを無視し、姫乃は周りの壁について服部に質問していた。
「ねぇ、これは」
「天井から槍が降ってくる。丁度三刃がいるあたりだな」
「ポチっとね」
「あああああああああああああああああああああ!!」
「じゃあこれは?」
「大岩が転がってくる、三刃が立っている通路に転がってくるぞ」
「ポチ」
「おわあああああああああああああああああ!!」
「このスイッチは?」
「三刃の後ろの壁が爆発する」
「えい」
「もう止めろォォォォォォォォォォ!!」
傷だらけの三刃が姫乃を羽交い絞めにし、行動を封じた。
「えー、面白かったのに」
「僕はつまらない」
「今度は私がやりたかった」
凛音は不気味な笑みを作り、近くの壁のスイッチを押そうとしていた。
「遊びはこれで終わりだ。部屋案内を続けるぞ」
案内が再開したのだが、まだ三刃は姫乃に向かって怒鳴り声をあげていた。その様子を、何者かが遠くで見ていた。
「客人か……」
その人物は黒装束を着ており、頭にも黒頭巾を被り、顔を見せないようにしていた。その人物は三刃達の姿を見た後、地面を降りて人目が付かないような通路を通って移動を始めた。
移動中、その人物は携帯電話を取り出し、連絡を始めた。
「原戸様。服部家の方で動きがありました」
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