第19話 服部の故郷

 四月下旬、三刃のクラスはゴールデンウイークで何をするかの話題で持ちきりだった。


 連休が続くせいで、クラスメイト達は浮かれていたのだが、三刃はそんな気分ではなかった。みんなが休んでいる間も、モンスターと戦いをしなければいけないからだ。


「皆呑気だなぁ……」


 三刃の口から、ため息とともに小声が漏れた。その時、三刃の頭に何かが当たった。机に落ちた包み紙を広げると、そこには文章が書かれていた。


 放課後、湯出宝石店の前に来い 服部


 三刃は周囲を見渡し、廊下の外に隠れている服部を見つけた。三刃が服部のもとへ行こうとした時、服部はすぐにどっかへ行ってしまった。




 放課後、三刃は手紙に書かれた通りに湯出宝石店へ向かった。


「あら三刃君。あなたも服部さんに呼ばれたの?」


「姫乃」


 湯出宝石店の前には、姫乃が立っていた。三刃は姫乃に近づき、話を始めた。


「お前も服部に呼ばれたのか」


「私だけだと思ったけど」


「ジズァーの事件の後で大きな事件はなかったよな」


「また大きな事件があったらすぐに結社から連絡が来るんだけど」


「事件の話ではない」


 空から声が聞こえた。しばらくして、上空から服部が下りてきた。


「おわぁ!?」


「着地成功」


「着地成功じゃないよ!」


 宝石店の中から湯出が現れ、服部の頭を叩いた。


「あう!」


「勝手に人んちの前を集合場所にして、勝手に騒ぐんじゃねーよ!」


「すまない。魔法使い……いや、忍者関係で話ができて人が来ない場所と言ったら、ここしかなかったのだ」


「なんか、俺の宝石店が売れてないってことを言ってるみたいだな」


「そんなことは言ってない。後、お前には関係のない話だ。帰れ」


「俺の扱い酷くない?」


「いいから帰れ。手裏剣刺すぞ」


 湯出ははいはいと返事した後、宝石店へ戻っていった。


「話が脱線した。実はゴールデンウイークの間、私は故郷に戻るんだ。それで、お前らも私の故郷へ連れて行こうと思って」


「旅行の案内か?」


「そう思ってくれてもいい。なるべく明後日までに連絡してくれ。じゃ」


 と言って、服部は煙玉を地面に落として煙を発生させた。


「またこの手を使いやがって……ゲホゲホ!」


 煙が消えた後、そこには服部の姿がなかった。


「全く……服部の奴……」


 残った煙を払いながら、三刃は小さく呟いた。




 その後、三刃は家へ帰り、今の出来事を翡翠に話した。


「服部さんの故郷へ旅行?」


「ああ。ゴールデンウイークに一時的に戻るらしいんだけど、僕達に来ないかって誘われたんだよ」


「確か服部さんって忍者だったよね。もしかしたら漫画みたいに忍者の隠れ里みたいかな?」


 翡翠は箸で里いもをつつきながらこう言った。三刃は欠伸をし、翡翠にこう言った。


「あくまで漫画の話だろ」


「分かってるよ。でも行ってみたいな」


「明日服部にお前も連れて行っていいか聞いてみるよ」


「いいの?」


「あいつがいいといえばの話だけどな」


「やった!」


 翡翠が喜んだ直後、三刃は窓の外にモンスターの姿を見つけた。


「モンスターか!」


 三刃は慌てて外に出て、剣を装備した。


「お兄ちゃん!私が行く!」


 後ろから翡翠が追いかけてきた。三刃が自分に任せろという前に、翡翠は剣を装備していた。


「初めて実戦で使うの!」


「だからって無茶はするなよ!僕に任せろ!」


「大丈夫だって!修行でこの子の扱いは慣れてるから!」


 翡翠はモンスターの前に立ち、手にした剣でモンスターの足を切り払った。攻撃を受けたモンスターは態勢が崩れ、地面に倒れた。


「翡翠!離れろ!」


 三刃の声を聴き、翡翠は後ろに下がった。モンスターは傷を受けた足を自ら切り落とし、翡翠に向けて投げた。


「それで遠距離攻撃のつもり?本当の遠距離攻撃はこういうことを言うのよ!」


 翡翠は剣の持ち手の下に付いてあるボタンを押した。ボタンを押した瞬間、剣が銃へ変形した。


「終わりにするわよ!」


 何度も魔法の弾丸を撃ち、モンスターの体を打ち抜いた。


「これでおしまい。どうお兄ちゃん?私も戦えるでしょ?」


「まぁな。でも少しは相手がどんな動きをするか、相手を見て考えて行動しろよ」


「それ、三刃君が言えるセリフかしら?」


 後ろから姫乃の声が聞こえた。三刃と翡翠は後ろを振り向き、姫乃と話を始めた。


「姫乃、いつの間に」


「今さっきよ。翡翠ちゃん、今の戦い見てたわよ。武器の扱いがちゃんとできてた」


「あ、ありがとうございます!」


「だけど、ただ相手を倒すだけじゃダメよ。倒したと思っても、相手がまだ生きているという時があるんだから」


「はい。分かりました」


「三刃君もちゃんと翡翠ちゃんのことを見てあげてね」


「分かってるよ。お前も自分のことを考えろよ、またジズァーのような巫女の力を狙うやつがいるかもしれないからな」


「私は大丈夫よ」


 三刃と姫乃が話している中、凛子が三刃を蹴り飛ばし、翡翠にこう聞いた。


「ねぇねぇ!服部さんの故郷へ行く話聞いた?」


「うん。もしかして凛子ちゃん達も行くの?」


「そうだよ!明日お姉ちゃんが服部さんに伝えるって!」


「私も行くよ!」


「翡翠ちゃんも行くんだ。楽しみが増えたね」


 と、翡翠は凛子と凛音と楽しく話していた。凛子と凛音の足元にいる三刃のことを気にしながら。


「この二人、いつか痛い目に見せてやる」


 三刃は苦い顔をしてこう言った。




 翌日。三刃と姫乃は服部のもとへ行き、翡翠と凛子、凛音も里に行くことを伝えた。


「分かった。祖父にお前達が行くと伝えておく」


「ええ。で、どうやって里に行くの?」


「バスとか電車使うのか?」


「そんなものは使わない。里から迎えが来るから大丈夫だ。じゃあゴールデンウィーク初日の9時にこの学校の前に集まってくれ」


「ああ。翡翠にも伝えておくよ」


「私も二人に言っておくわ」


「頼んだ。では」


 話を終え、服部は普通に帰って行った。


「今日は普通に帰って行ったわね」


「あれが普通なんだよ……」


 服部の後姿を見ながら、三刃と姫乃はこう会話した。


 その後、三刃は結社に向かい、輝海に会いに行った。


「よー三刃君。なんか問題あった?」


「いえ、実はゴールデンウイークの間、僕と翡翠、姫乃と双子こっちにいないから」


「旅行に行くの?」


「服部の実家に行くんです。行かないかって誘われたんです」


「分かった。こっちのモンスター討伐は俺らに任せて休んできなよ。そうだ。確か服部の里って言ったね」


「ええ」


「もし会えたらでいいから乾って男に輝海は元気だって言っておいて。俺の古い知り合いだから」


「忍者の知り合いいたんですか」


「これでも顔が広いんでね。それに、乾がいなかったら相場の形見を三刃君に渡せなかったし」


 この時、三刃は服部と初めて話した時のことを思い出した。


「もしかして、あの時に服部が言ってた知り合いって……」


「乾だな。まぁそこのところの話はあいつに会った時に聞けばいろいろと……」


「輝海さーん!そろそろ戻ってくださーい!」


 事務員の声が聞こえ、輝海は慌てて自分の仕事に戻った。三刃は軽く挨拶して結社から湯出宝石店へ移動した。


 自宅へ戻った後、三刃は魔武器をじっと見つめていた。


「お兄ちゃん、戻ったの?」


 外から翡翠の声が聞こえた。三刃は扉を開け、翡翠に声をかけた。


「たった今な」


「輝海さんに伝えた?ゴールデンウイーク中は戦えないって」


「しっかり伝えたよ」


「ならよし。さて、私は準備を始めないと」


 翡翠は旅行の準備をするため、自室に戻っていった。三刃も部屋へ戻り、準備を始めた。




 約束の日。三刃と姫乃はバックをもって三刃が通う高校の前に立っていた。


「お兄ちゃん、今何時?」


「8時50分丁度」


「姫乃さん達から連絡はあった?」


「あと少しで着くってメールがあった」


「そう」


 返事をしながら、翡翠は欠伸をし、周りを見始めた。落ち着かない態度の翡翠を見て、三刃はこう言った。


「少し落ち着けよ。まだ時間あるんだから」


「はいはい」


 翡翠が返事をした直後、遠くから凛音と凛子の声が聞こえた。


「来た来た」


「お~い!こっちだよ~!」


「待たせちゃってごめん」


「ごめんね翡翠ちゃん、何度も信号機に引っかかっちゃって」


「そうなんだ」


「三刃君、お待たせ」


 姫乃は三刃に声をかけた。三刃は軽く返事をし、服部の到着を待った。姫乃は三刃の横に移動し、声をかけた。


「ねぇ、服部さんから連絡あった?」


「いや。僕、服部の携帯番号知らないし。姫乃は?」


「私も。できたら移動中に服部さんに連絡先交換頼んでみる?」


「だな」


 いったん会話を終え、三刃は腕時計を見て、時間を確認した。


「そろそろ9時になるな」


「じゃあ荷物持たないと。凛音、凛子。準備するわよ」


「翡翠も荷物持てよ」


 三刃達は荷物を持ち、周囲を見回した。しばらくし、クラクションの音が鳴り響いた。


「何かしら?」


 姫乃は近くに来た車を見ると、服部の姿を確認した。そのすぐに三刃達も服部の姿に気づき、車に近づいた。


「来たかお前ら」


「よろしくな服部」


「すみません、遠い所まで迎えに来てもらって」


 頭を下げ、翡翠がこう言うと、運転手は笑いながら返事した。


「気にすんなよ!俺はでかい車でいろんな所を走り回るのが大好きなんだ!」


 その後、三刃達は車の中に入った。運転手は三刃達が乗り込んだのを確認し、車を発進させた。車での移動中、三刃は助手席に座る服部にこう聞いた。


「なぁ、この運転手さんも忍者なのか?」


「当たり前だ」


「おっと自己紹介がまだだったな。俺は東山紀夫。服部家に仕えるドライバーだ。茉奈お嬢様が子供の頃からやってるんだぜ!」


「東山!私の名前を呼ぶな!」


「ついうっかり」


 東山は笑いながらこう言った。そんなやり取りを見て、翡翠は呟いた。


「茉奈って名前だったんだ」


「可愛すぎて忍者のイメージが汚れるからって、下の名前で呼ばれるの嫌ってんだよあいつ」


 三刃が翡翠にこう言った。それを聞き、翡翠は小さく返事した。

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