第18話 つかの間の休息

 三刃の家にて。翡翠がまだ寝ている三刃を気にしながら、時計を見ていた。しばらくし、姫乃が部屋に入って来た。


「三刃君起きた?」


「いえ。それほど疲れてるんですよね。あれから三日過ぎたのに」


「魔力を使いすぎたのよ。ちゃんと休めば起きると思うわ」


「そうですよね。姫乃さんありがとうございます。お兄ちゃんの為に泊まり込みで看病してくれて」


「いいのよ。三刃君に無茶をさせたのは私なんだから、しっかり面倒見ないと」


「あははは。お兄ちゃんが起きたらすぐに姫乃さんに土下座してお礼言うように伝えておきますね」


「ありがと」


「姫乃さん、お風呂入りますか?このところずっとお兄ちゃんの看病をやってたからお風呂入る暇なかったでしょ。もう湧いているから入ってください」


「え?いいの?」


「はい。少し体を休めてください。姫乃さんが倒れたらお兄ちゃんショックすると思うので」


「わかった。じゃあ入ってくるね」


 と言って、姫乃は翡翠からタオルと下着を借りて、風呂場に入っていった。


 その後、翡翠は左手の人差し指に魔力を練り始めた。人差し指から、小さな竜巻が生まれ、すぐに消えた。


「まさかこんな力があるなんてな~」


 翡翠は横になり、小さく呟いた。その時、三刃が目を開き、ゆっくりと起き上った。


「あ……あれ?なんで家に?」


「お兄ちゃん!やーっと起きたのね!」


 起き上がった三刃に近づき、翡翠は声を上げた。


「翡翠!お前、怪我はなかったか?」


「うん。大丈夫だよ」


「ふぅ……よかった」


 三刃は安心して息を吐くと、何かに気付いたのか、自分の服に鼻を近づかせた。


「少し汗臭いな……」


「三日間寝てたからね。そりゃ寝汗も酷いわけだ」


「三日も!?あれからどうなったんだ?」


「私はあまりわからないけど、結社とかの人に聞いてみれば?」


「ああ。後で聞いてみる」


 三刃は立ち上がった後、風呂場に行こうとした。翡翠は慌てて三刃に近づき、三刃を止めた。


「ちょっと待ってお兄ちゃん!」


「どうしたんだよ?汗臭いから風呂に行ったほうがいいだろ?」


「いやだけど……」


「誰もいないんだから、行ってもいいだろ」


 と言って、三刃は風呂場に行ってしまった。脱衣場で服を脱ぎ、全裸になって三刃は風呂に入ろうとした。


 だが、丁度風呂から上がった姫乃と鉢合わせしてしまった。しばらくの沈黙の後、三刃と姫乃は悲鳴を上げた。


「なんでお前がここにいるんだ!?」


 三刃は股間を隠し、姫乃の方を向こうとしたが、その前に三刃の顔におけが命中した。


「ずっと三刃君の看病をしてたのよ。翡翠ちゃんと一緒にね」


「そうだったんだ……ありがとな。僕の為に」


「ちょっと待って!振り向かないで!」


 姫乃は三刃に向け、近くにあったシャンプーの入れ物を投げつけた。


 風呂の後、三刃は翡翠が用意した食事を食べ始め、姫乃は横目で三刃を見ていた。


「悪いって言ってるじゃないか」


「これで二度目よ。私の裸を見るなんて」


「え?これで二度目?」


「翡翠の前でそんなことを言うな!」


「何があったんですか?場合によってはちょっとお兄ちゃんにお仕置きをしないといけませんので」


 と、翡翠は手元に七味唐辛子を用意し、ふたを開けた。三刃はそれを今食べている料理に入れると察しし、慌てて翡翠から七味唐辛子を取った。


「恐ろしいことをするな!」


「お兄ちゃん、女性の全裸を覗くなんて最低だよ」


「わざとじゃないって!」


「本当にそうだか」


 と、姫乃は言いながら皿の上にあった唐揚げを一つ食べた。


 数分後、チャイム音が鳴り響いた。


「誰だろ?」


「僕が出る。宇野沢かもしれないし。姫乃、念のためお前隠れてろ」


「確かに宇野沢君だったらクラス中に私が三刃君の家にいたこと話すわね」


 姫乃はこう言うと、キッチンに向かった。三刃は玄関を開き、来訪者の姿を見た。


「やっと起きたようだな」


「輝海さん。それに湯出さんも」


 輝海と湯出は三刃の家に上がり、翡翠を呼んだ。


「翡翠ちゃん、頼まれてたあれ持ってきたよ」


「持ってきてくれたんですね」


「君も死んだ相場の声を聴きたいだろ?あと、湯出が君用の武器を作ったからこれも渡しておくよ」


「ありがとうございます」


 その後、翡翠は相場の遺したテープを聞き始めた。この間、三刃は輝海と湯出から話を聞いていた。


「あれから何か動きはありましたか?」


「特に何も。ジズァーの手下のおっかない女が放ったモンスターは全部やったようだし」


「あの、ジズァーはどうなったんですか?」


「あいつの事か。あいつは多分爆発しただろう。で、その破片は散り散りになって海に流れた」


「そうですか……」


 三刃はこう言うと、横になった。


「どうした?」


「なんかまた疲れが出てきて……」


「しっかり休めよ。結構魔力を使ったんだからさ」


「はい」


 この直後、輝海が持つ携帯から着信音が鳴り響いた。輝海は嫌な顔をしながら、電話を手に取った。


「あーはいはい。今すぐ戻りますんで。分かってますよ。昼休みの時間が過ぎていることぐらい。ちょっと時間ができたから三刃君の所に行ってただけです。はい。相場のテープをね。はいはい。じゃあすぐに湯出と一緒に戻ります。はーい」


 と言って、輝海は電話を切った。


「行くぞ湯出」


「分かりました。三刃君、しっかり休みなよ。じゃあ」


「時間が空いた時でもいいから翡翠ちゃんを連れて結社に来いよ。案内してやるから」


 と言って、輝海と湯出は帰っていった。


「誰だったの?」


 奥の部屋から姫乃が顔を出した。三刃が説明をすると、姫乃は隠れない方がよかったと呟いた。その後、相場のテープを聞いた翡翠が三刃に近づいた。


「お兄ちゃん、輝海さんたち帰っちゃったの?」


「ああ。仕事あるみたいだったし」


「テープを届けてくれたお礼言おうと思ったのに」


「今度結社に行った時でいいだろ。また今度連れてってやるから」


「そうだね」


 と、翡翠は三刃に返事をした。




 数日後、体調が戻った三刃は翡翠を連れて湯出宝石店へ向かった。


「店の中、アニメグッズで一杯だったろ」


「うん。そういう人なんだって察した」


「湯出さんの名誉のために言っておくけど、武器を作る腕は確かなもんだって。お前が渡された武器、それ湯出さんが一から作ったんだって。最高なものを作るために頑張ったと本人が言ってた」


「それを私が使うんだ……うまく使えるかな……」


「大丈夫さ。地道に練習していけばな」


 と言って、三刃は店の扉を開き、中に入った。


「お。いらっしゃい三刃君、翡翠ちゃん」


 カウンターで宝石を見ていた湯出が三刃と翡翠に気付き、挨拶をした。三刃は挨拶を返すと、湯出にこう言った。


「今から翡翠に結社の案内をしたいんだけど」


「もうちょっと待ってて。あと少しで適役が来るから」


「適役?」


「湯出さん、それって私の事じゃないよね?」


 姫乃と凜子、凛音がやって来た。翡翠は凜子と凛音の方へ行き、話を始めた。三刃は姫乃の方を見てこう言った。


「適役って姫乃の事だったのか。納得」


「まぁ三刃君より結社の事を知ってるからね。まだ知らない場所もあるでしょ」


「それはそうだけど……」


 この時、三刃は前に聞いた輝海との会話を思い出し、姫乃に質問をした。


「なぁ、結社のことをよく知ってるんだろ」


「そうよ」


「じゃあ……父さんと母さんの墓ってあるのか?」


 三刃の問いを聞き、姫乃はしばらく考え始めた。その時、湯出が咳払いをして三刃にこう言った。


「あるよ。ちょっと特別な部屋にあるけど」


 返事を聞き、三刃はすぐに案内してくれと湯出に頼んだ。数分後、三刃達は結社へ移動した。


「この部屋だよ。この部屋は戦死した魔法使い達が眠る場所さ。魔法使いが死んだ後、その死体がモンスターになって暴れないように、特別な魔法で作った結界で死体の中にある魔力を抑えるんだ。だから結社の部屋の中に埋葬されるんだ。奥に相場さんと美晴さんの墓がある。これが部屋の鍵だから。出る時に僕か輝海さんに渡して」


「わかりました」


 三刃に鍵を渡し、湯出は姫乃達と合流して翡翠に結社の案内を始めた。


 三刃は鍵を開け、部屋の中に入っていった。部屋の中はたくさんの墓があった。墓標には戦いで散った魔法使いの生まれた年月日、そして命を落とした年月日が書かれていた。


 三刃は部屋の奥へ行き、親の墓を探した。しばらくし、護天相場と護天美晴と書かれた墓を見つけた。


「……父さん、母さん」


 三刃は小さく呟くと、親の墓の前にしゃがんだ。


「……やっと会えたね。ここに来るまでに、何年かかったんだろう。まだ小さかった頃、親戚のおじさんやおばさんに父さんたちの事を聞いても、何もわからないっていうから少しおかしいと思ってたんだけど……まさか僕と翡翠が魔法使いだって分からなかったよ。それと、父さんの代わりにジズァーを倒したよ。口では翡翠を助けるためだって言ってたけど、本当は父さんと母さんの仇を取りたかったんだ。そうじゃないと、二人が浮かばれないと思って。父さん、母さん。これから僕はたくさん悪い奴と戦うと思う、たくさん悲惨な目に合うと思う。だけど、絶対に戦いをやめない。バカの父さんの代わりに、僕が皆を守る。だから……僕や翡翠、それに一緒に戦ってくれる姫乃達を見守っていてください」


「おう」


 後ろから聞き覚えのある声がした。三刃はすぐ後ろを向いたのだが、後ろには誰もいなかった。


「……父さん」


 三刃は目から流れた涙を拭き、部屋から出て行った。部屋の外で、翡翠が立っていた。


「どうした翡翠、案内は終わったのか?」


「うん。で、お父さんとお母さんのお墓は見つかった?」


「ああ。奥にあったよ。お前も行くのか?」


「もちろん。私も顔を見せないとね」


 と言って、翡翠は部屋に入っていった。三刃が翡翠が戻ってくるのを待っている中、姫乃がジュースを持って三刃の元へやって来た。


「お疲れ。ジュース持ってきたよ」


「ありがと」


 三刃はジュースを受け取り、栓を開け飲み始めた。


「やっと両親に会えたわね。気分はどう?」


「少しすっきりしたよ。今は翡翠が中に入ってる」


「そう。すっきりしたならよかったじゃない」


「まーな」


 三刃は飲み終えたジュースをごみ箱へ捨て、背伸びをしてこう言った。


「これからは僕が父さんに変わって、戦うんだ。いろんなものを守るために」


 三刃の言葉を聞いた後、姫乃は魔を開けてこう言った。


「そのいろんなものに私も含まれてる?」


「ん?そうだけど」


 返事を聞き、姫乃は笑いながらこう言った。


「大丈夫よ。私は自分で何とかなるから。でも、いざというときは頼むわよ、三刃君」


「はは、分かったよ」


 三刃は笑いながら、姫乃の方を見てこう言った。

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