第17話 ジズァーの最期

「やっと一撃が入ったか……」


 呼吸をして体制を整え、三刃はジズァーの様子を見ていた。その後ろには姫乃がおり、彼女もジズァーが起きて反撃に対応できるように、魔力を練っていた。


 数分後、ジズァーは血を流しながらも立ち上がり、三刃と姫乃を睨んだ。


「ガキ共が……調子に乗るなよォォォォォォォォ!!」


 ジズァーは叫びながら三刃に向かって魔力で作られた刃を放った。三刃はそれに対し、同じように魔力で作った刃を放ち、相殺していった。


「三刃君、めんどくさいことしなくても、私が一気にかき消すわ」


 姫乃は炎の渦を作り、ジズァーが放つ魔力の刃を消していった。


「そ……そんな……」


 攻撃を消され、ジズァーの顔が青く染まった。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 三刃の叫び声がジズァーの耳に入った。上空には飛び上がった三刃がジズァーに向けて、剣を振りおろそうとしていた。


 ジズァーは攻撃を防御しようと試みた。だが、さっきの三刃の一撃がジズァーを苦しめた。その傷のせいで体が言うことを聞かず、腕を動かせなかった。


「これで……これで……終わりだァァァァァァァァ!!」


 三刃の剣がジズァーの体を斬り裂いた。魔力を纏っていたせいか、さっきの一撃よりも攻撃力は増していた。


「グハッ!!ガハァッ……オボァ!!」


 吐血しながら、ジズァーは苦しそうに後ろに下がっていき、倒れた。ジズァーは呼吸して態勢を整えようとしたのだが、口から出る血のせいで、思うように呼吸はできなかった。


 三刃と姫乃が倒れたジズァーに近付き、刃を向けた。


「馬鹿なことを考えるなよ。お前を捕まえる」


「変なことを考えたら剣で刺すわよ」


 三刃がジズァーに近づいて捕まえようとしたのだが、ジズァーはにやりと笑い、三刃に向けて右手を前に出した。


「かかったなアホが!お前もあの馬鹿を葬った同じ技で殺してやる!」


 ジズァーの右手から、小さな朱色の球体が放たれた。ゆっくりと三刃に向かって飛んだ。


「三刃君!よけて!」


 姫乃の声が聞こえた。三刃は声を聞いて動こうとしたが、体のバランスを崩し、転倒してしまった。


「死ねェェェェェェェェェェェェ!!」


 三刃を倒すことができると確信したジズァーは、笑い声とともに叫び声を出した。


 だが、上空から巨大な槍がジズァー目がけて降ってきた。槍の落下の際、ジズァーが放った攻撃が消されてしまった。


「何ッ!?」


 降ってきた槍を避け、ジズァーは上を睨んだ。


「貴様は……」


「お兄ちゃん、助けに来たよ!」


 三刃は後ろから来た翡翠を見て、目を開けて驚いていた。


「翡翠……お前……何で来るんだよ……ここに来たらまた狙われるぞ」


「そんなことはいいから。お兄ちゃん、あの変なおっさんの方を見て、まだ動けるみたいだから」


「あ……ああ」


 三刃は姫乃と翡翠に支えられ立ち上がり、剣を構えた。


「後お兄ちゃん、これが終わったら全部話してね。私の巫女の力と魔法の事、そしてお父さんとお母さんの事を」


「……分かった」


 その後、ジズァーが立ち上がり、三刃に向かってゆっくりと歩いて行った。


「はぁ……はぁ……もうこれ以上体がもたない……」


「だったら捕まれよ」 


「ふざけた事を!このまま結社に捕まるなら、一人でも多く道連れにしてやる!」


「誰も死なせない!」


 三刃は剣を構え、ジズァーに向かって走って行った。翡翠も後を追おうとしたが、姫乃に止められた。


「あの……どうしてですか?」


「翡翠ちゃんはまだ巫女の力をうまく使えないでしょ。だから私に任せて」


「でも、私も戦わないと皆が……」


「大丈夫よ。凛子や凛音、服部さんや後のおっさん二人は強いわよ。何も心配しないで。皆を信じて」


「……はい」


 翡翠との会話の後、姫乃は魔力を開放させた。その時、姫乃は小さく何かをつぶやき始めた。


「出でよ火の竜。火の巫女に竜の力を貸したまえ。火の巫女に邪の者を打ち破る力を貸したまえ!」


 姫乃が呟き終えると同時に、姫乃の魔力の渦が動き出し、竜の形になった。


「そんなもの、所詮は魔力で作られた塊!簡単に崩してやるわ!」


 ジズァーは魔力の波動を解き放って竜を消そうとしたが、逆に波動は消されてしまった。


「そんなちっぽけな魔力で私の竜を倒せると思ったの?」


「そんな……この私が……」


 ジズァーは死を覚悟した。だが、目の前で竜は消えてしまった。姫乃の魔力が切れたかと思ったジズァーだったが、目の前には三刃の姿があった。


「これで終わりだァァァァァァァァァ!!」


 三刃の叫び声とともに、再び剣は振り下ろされた。再び斬撃を受けたジズァーの体からは大量の血が流れ、ジズァーは後ろに下がって倒れた。


「やったか……」


「まだよ三刃君。今さっきのように襲ってくるかもしれないわよ」


「様子を見てくる」


 三刃は倒れたジズァーに近付き、ジズァーの脈を測ろうとした。その時、ジズァーの手から魔力の球が生まれ、三刃に向けて投げられた。


「やっぱり、お前は馬鹿な父親と一緒の技で殺される運命だったようだな」


 三刃の動きが止まった。球が近くなった事を察した三刃は刃の風で球を壊そうとしたが、その光景を見たジズァーが笑いながらこう言った。


「その球を壊すなよ?今のは魔力が弱くて消されてしまったが、今回のはたっぷりと魔力を溜めた‼それを壊したらこの町が木端微塵に吹き飛ぶぞ!」


 だが、その言葉を聞いても、三刃は風を出そうと魔力を練っていた。姫乃は三刃に向けて叫ぼうとしたが、その前に三刃は風を放ってしまった。勝ったと、ジズァーは確信した。


「馬鹿が!私の勝ちだ!たとえ私が死のうが、お前らさえ死んでくれれば構わんのだ!」


「馬鹿はお前だ。僕が刃の風で球を壊すと思ったのか?」


 三刃が放った風は球を吹き飛ばし、ジズァーの元へ飛ばした。球はゆっくりとジズァーに飛んで行き、ジズァーの体に入った。


「僕は普通の風も出せるんだよ」


 球が体内に入った事を察したジズァーは、叫び声を上げながら苦しもがいた。


「グガァァァァァァァァァァ!!この野郎がァァァァァァァァァ!!この私を……こんな目に!」


「まだ僕の攻撃は終わってないぞ」


 その後、三刃は魔力を解き放ち、ジズァーの周りに竜巻を発生させた。


「な……何だこれは!?」


「お前を吹き飛ばす。このくらい強い竜巻なら、お前を上空へ飛ばせる」


 竜巻はジズァーを浮き上がらせ、そのままジズァーを上空へ吹き飛ばした。夜空に消えるジズァーを見て、三刃はその場に倒れてしまった。


「三刃君!」


「お兄ちゃん!」


 姫乃と翡翠は倒れた三刃に近付き、彼の様子を調べた。


「……疲れて眠ってるみたいね」


「そう……ですか……」


「さて、私は皆を呼んでくるわ。皆戦いが終わったことに気がついてると思うから」


「分かりました。えーと……」


「私は姫乃。白雪姫乃よ。よろしくね」




 その頃、ジズァーは声をあげながら上空へ飛んでいたが、勢いが弱まったせいで、ジズァーの体は下へ落ちて行った。


 落下し始めてから数分後、ジズァーは巨大な積乱雲の中へ入った。その後、巨大な積乱雲は急に分裂し、消えていった。中にいたジズァーも、雲と同じように消えた。




 あれから三日が過ぎた。


 ジズァーとの戦いが終わった後、結社は戦いの後始末に追われていた。竜目山はそのせいで一時封鎖となったが、魔法の事を知らない者に対しては山の大掛かりな掃除と伝えられていた。


「ったく、上も酷い事するよな~、戦った後でまた後始末させるなんて」


「まぁ自分達でこの山を汚したようなもんですからね」


「ほとんどはジズァーの連中のせいだろうが」


 愚痴を言いながら輝海は掃除をしていた。後始末が始まって数時間後、輝海達は休憩をしていた。


「ふぃ~、やっと休める」


「でも十五分だけですけど」


「それだけありゃあ十分だ」


 輝海は湯出からスポーツドリンクを受け取り、一気にそれを飲み干した。輝海が横になって休む中、湯出にこう聞いた。


「なぁ、三刃君はどうなったんだ?」


「まだ寝てるみたいですよ。昨日店に来た翡翠ちゃんが言ってました」


 返事を聞き、輝海は起き上がって再び湯出に聞いた。


「翡翠ちゃんが?お前の店に来たのか?」


「はい。三刃君がまだ寝てるから、姫乃が翡翠ちゃんに魔法の事を話したらしいです」


「姫乃がね」


「輝海さん、いつでもいいので相場さんが遺したテープを翡翠ちゃんにも聞かせてください。とても聞きたがってたので」


「わかった。また都合のいい時に俺から伝えておく」


 輝海はそう言うと、再び横になった。

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