第16話 因縁に決着を

 輝海は冷や汗をかいていた。目の前にいるバヌアは、身動きせずに斧を持ったまま、立っていたのだ。

何を考えているのか察知できなかった。無暗に動いたら駄目だと輝海は考え、自分も動かないようにしていた。


「……思い出すか?」


 突然、バヌアが輝海に話しかけて来た。話してくる事は予想しておらず、輝海は少し焦りながら返事した。


「何だよ?何を思い出すんだ?」


「俺の師匠を倒した時の事だ……十四年前、お前は俺の師匠と戦い、死に追いやった!」


「あの時……ああ。変な武者鎧着たおっさんの事か。という事は……お前は変なおっさんの近くにいた少年か」


「お前、今師匠の事を侮辱したな」


 バヌアの顔が怒りに染まった。輝海はこの時、この状況を打破する考えを思いついた。


「侮辱?俺は侮辱はしてないつもりだが。変な奴の事を変って言って何が悪いんだ?」


「貴様ァァァァァァァァァァ!!師匠を侮辱するなァァァァァァァァァァ!!」


 叫びを上げながら、バヌアは斧を持って輝海に襲いかかった。


 輝海は宝石から槍と盾を出現させて装備し、向かってくるバヌアを視界に入れた。輝海は突っ込んでくるバヌアの攻撃を左手で持っている盾で防御し、右手の槍でバヌアに攻撃をした。だが、バヌアは後ろに下がり、槍の攻撃をかわした。


「いい勘してるじゃねーか」


「黙れ!」


 バヌアはまた叫んだ後、斧を左に振った。左から右に攻撃が来ると察した輝海は一気にバヌアの腹の近くに接近し、槍を突き刺した。


「グアアアアアアアアアア!!」


 輝海が付き刺した槍はバヌアの腹を突き刺し、そのまま背中を貫いた。


「もう動くな。後で治してやるからじっとしてろ」


 槍を引っこ抜き、輝海は倒れたバヌアの様子を見た。槍で体を貫かれたが、バヌアの闘志は消える事はなかった。


「殺す……お前を……殺す!」


「無茶すんなよ。俺を殺す前にお前が死んじまうぜ」


 槍を構え、輝海はこう言った。今の一撃でバヌアは致命傷を負った。


 次の一撃で確実にこの勝負は終わる。輝海はこう考えていた。だが、バヌアは血を流しながらも立ち上がっている。


 その後、バヌアは血を流しながらも輝海に攻撃を続けた。だが、傷のせいでさっきよりも動きが鈍くなっていた。


 攻撃をかわす中、輝海は昔の戦いを思い出していた。十四年前のジズァーとの戦いの時の事を。輝海はジズァーと戦う相葉の為に、周囲のモンスターやジズァーの部下と戦っていた。しばらくし、輝海の目の前に鎧武者が現れた。


「フッ、強そうな若者がいるじゃあないか!」


「師匠、ちゃちゃっとやっつけてください!」


 鎧武者の横にいる、十六歳位の少年が声を上げて、師匠である鎧武者の男性を応援した。この姿を見て、輝海はため息を吐きながらこう言った。


「うるせーぞおっさん!俺はお前みたいなコスプレイヤーを相手にしてる暇はねーんだ!」


「貴様の都合など知らぬ!我が斧の威力を味わうがいい!」


 と言い、鎧武者は斧を輝海に向けて振り下ろした。


「おわっ!」


 輝海は攻撃をかわし、空中で体制を整えながら魔力を練り始めた。


「ったく、めんどくせーな!一気に片をつけるから覚悟しろよおっさん!」


 輝海は両手に槍を装備し、鎧武者に向かって行った。槍の刃と斧の刃が交差し合う中、鎧武者は笑いながら叫んでいた。


「フハハハハハハ!!楽しいな!猛者との戦いはこうではなくては!」


 輝海は鎧武者の笑みを見て、焦り始めていた。


 相手の体力はまだある、それに対して自分の体力は限界に近い。いざという時に練った魔力を使うしかないと思い、輝海は両手の槍を鎧武者に向けて投げた。


「無駄な事を!」


 鎧武者はそう言うと、斧から暴風を起こし、槍を飛ばしてしまった。


「フハハハハハハ!そんな小細工、我には通用せぬ!」


「アホかおっさん。攻撃は続いてるぜ」


 輝海は右手から電撃を発し、宙にある槍に向けて電撃を放った。それが意を持ったかのように、自由自在に宙を飛び始めた。


「電撃で操っているのか。だが!所詮は小細工!我には通用せぬと言ったはずだ!」


「今投げた槍の数を忘れたか?」


 鎧武者はこの言葉を聞き、輝海の考えを読んだ。対処しようとしたのだが、考えを読むのが遅かった。輝海は左手から放っている電撃でもう片方の槍を操作し、鎧武者の背後に回り込ませたのだ。


「何と……」


「終わりだ」


 その後、片方の槍が鎧武者の体を貫いた。


「ガハァッ……」


「し……ししょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 まだ少年だったバヌアが、倒れた鎧武者に近づき、涙を流しながら叫んだ。この時、去って行く輝海の後ろ姿を見て、バヌアは輝海に恨みを抱き始めた。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 バヌアの咆哮が輝海の耳に響いた。バヌアは斧を前に構え、魔力を練り始めた。この時、輝海は練られている魔力の量を察知し、大声でバヌアに叫んだ。


「バカ野郎!そんな量の魔力を放ったら死んじまうぞ!」


「お前を道連れにすれば全てよしだ!この一撃で共に逝こうぞ……我が師から習った究極の一撃!暴風焦滅砲!」


 バヌアの斧から、巨大な風が輝海に向かって放たれた。風はドリルのように回りながら唸りを上げ、周囲の地面や木を削りながら飛んで来た。


「こんなもん喰らったら……チィッ!」


 輝海は槍をしまい、もう一つ盾を出現させた。二つの盾をバヌアが放った風の前に構え、輝海は攻撃を防ぎ始めた。


 風の勢いは激しく、徐々に輝海は後ろに下がって行ってしまった。歯を食いしばり、後ろに下がっている右足のかかとに力を入れ、輝海はこれ以上下がらないように踏ん張った。


 しばらくした後、輝海は後ろを見た。後ろは崖で、後三メートル程下がったら、輝海は落ちてしまう状況に陥っていた。


「マジかよ……」


 小さく呟いた直後、その隙を見たバヌアは風の勢いを強めた。その事に気付いた輝海は力を入れ直したが、バヌアの動きの方が早く、一気に輝海は後ろに下がって行ってしまった。


 こりゃまずいと思った輝海は、全体重を右足のかかとに込め、全魔力を二つの盾に込めた。バヌアの最後の一撃が放たれてから数分後、急にバヌアが放った風が弱まった。


「……まさか」


 輝海は盾をしまい、急いでバヌアがいた場所に近づいた。周囲を見回し、輝海は地面に倒れているバヌアを見つけた。バヌアの脈や呼吸の有無を確認し、輝海はバヌアが死んだことを確認した。


「終わったか……」


「先輩!」


 前からシニタを拘束した湯出がやって来た。輝海は湯出が捕まえたシニタを見て、声を上げた。


「もう一人の方は捕まえたのか」


「はい。水で窒息させたんです」


「相変わらず水の魔法は恐ろしいな。使いによっては暗殺の道具にも使えるしな」


「そんな事には使いませんよ。それよりもう一人の方はどうなったんですか?」


「今死んだことを確認した。死なない程度に止めを刺したつもりだったが……俺を殺すつもりで全力の魔力を放ちやがった。死にかけた体でな」


「そうですか」


 湯出との会話を終え、輝海はバヌアの死体を担ぎ、周囲を見回した。


「他の連中はどうした?」


「翡翠ちゃんは忍者の子と凛音ちゃんと凛子ちゃんが保護しています」


「そうか。翡翠ちゃんが無事なら安心だが……姫乃はどうした?」


「……あ」


 湯出はあの場に姫乃がいなかった事を思い出し、焦りだした。輝海はため息を吐き、湯出にこう言った。


「俺が様子を見てくる。多分三刃君と一緒だ!」


「ええ!じゃあそいつの死体はどうするんですか!」


「お前が何とかしろ!結社の奴を何名か呼べ!もう俺らの行動は察知されてるはずだからな!」


「そんな事言ったって!どう説明すればいいんですか!」


「いいわけは後で考えるから大丈夫だ!」


「全然大丈夫じゃないですよ!」


「大丈夫だ!相葉の奴だって何度も同じような事をやっただろ!」


 去って行く輝海を見て、湯出は苦い顔をしてこう言った。


「分かりましたよ。言い訳の事についてはあなたに任せましたからね」


 と言って、湯出は携帯を出し、結社に連絡を入れた。




 三刃と剣を交えていたジズァーは、動きを止めてぽつりと呟いた。


「あの役立たずどもが、くたばったか」


「仲間のことを信頼してなかったのか?」


 三刃にこう聞かれると、ジズァーは笑いながら答えた。


「仲間?ただの駒に特別な感情なぞ生まれんよ」


「……ただの駒か……それで分かったよ。お前がどんな人間なのかを」


 怒りがこみ上げたのか、三刃は震えながらこう言うと、魔力を開放させて叫んだ。


「お前は最低最悪のクソ野郎だ!僕がお前を倒してやる!」


「私を倒すだと?調子に乗るなよ小僧!」


 三刃の挑発を受け、ジズァーも魔力を開放させた。その後、魔力のオーラに包まれた二人の剣が激しくぶつかり合い、火花を散らした。


 剣同士の戦いはジズァーの有利で進んでいた。ジズァーは三刃がどんな軌道で剣を振るのかを察知しており、三刃の攻撃を予測してかわし、隙を見て斬る。この戦法で三刃を苦しめられていた。三刃はジズァーの言動で頭に血が上り、攻めることしか頭になかった。


「そらそらどうした?私を倒すんじゃなかったのか小僧?」


「ぐっ!がっ!」


 ジズァーに斬られ、三刃は後ろに転倒してしまった。落とした剣を拾って再び攻撃しようとしたのだが、ジズァーが剣を三刃ののど元に突きつけていた。


「今回は確実に殺してやる。大丈夫だ、楽に両親の元へ送ってやる」


「そうはさせないわよ」


 直後、炎の鎖がジズァーの体を縛った。鎖を払おうとしたジズァーだったが、何者かに蹴り飛ばされ、そのまま後ろにあった木にぶつかった。


「大丈夫三刃君?」


「ひ……姫乃……お前、モンスターと戦ってるんじゃあ……」


 三刃を助けたのは、姫乃だった。姫乃は倒れている三刃を起こし、話を始めた。


「三刃君が心配だから、こっちに来たのよ」


「僕が心配だからか……僕は大丈夫だから姫乃はモンスターと戦ってくれ」


「それは無理ね。私もあの野郎と戦うわ」


 姫乃の返事を聞き、三刃は茫然とした。


「いい三刃君?たった一人で無茶しても、確実にあいつは倒せないわ。だったら、二人で無茶しましょう。一人で無茶するより、勝つ確率は上がるわ」


「姫乃……」


 三刃は深呼吸し、少し間を空けて姫乃にこう聞いた。


「姫乃、一緒に無茶してくれるか?」


「もちろん!」


 この直後、ジズァーは炎の鎖を破壊し、三刃と姫乃に向かって飛んできた。


「一人じゃ駄目だから二人で挑むのか?一人増えても、この私には通用しないということを貴様らに教えてやる!」


「教えるのは私のほうよ。あなたに巫女の恐怖を教えてあげる」


 そう言うと、姫乃は魔力を開放した。姫乃の全身からあふれ出る魔力の量は、三刃やジズァーよりも多かった。


「これが……巫女の力か……」


 姫乃の力を始めてみた三刃は驚き、その場で止まってしまった。ジズァーも、巫女の力を目の当たりにし、汗をかいていた。


「これが……巫女の力か……私はこんなものを手に入れようとしていたのか……」


「そうよ。それに、この力はそんな簡単に操られるものじゃないわ」


 姫乃はこう言うと、片手を軽く振った。それに合わせるかのように、炎の波が発生し、ジズァーを飲み込んだ。


「うおあああああああああああ!!」


「これでも手加減している方よ。簡単にやられないでね」


「グッ……クソ!」


 ジズァーは炎の波から出ようとしたのだが、目の前に三刃が現れた。


「今度は僕の番だ!」


 三刃の降った剣がジズァーの額に傷を付けた。額から出る血を手で押さえ、ジズァーは攻撃を受けないように後ろに下がった。


 だが、三刃の動きが速く、ジズァーが後ろに下がる前に三刃が前へ行き、追撃を行う。


 状況が変わった。三刃は自分と姫乃が有利な展開になったと察すると、剣に魔力を込め、刃に風を纏わせた。


「お前との因縁、これで終わらせる!」


「ふざけるな……ふざけるな小僧!私の力を甘く見るな!」


 ジズァーは三刃に対しての怒りや憎しみを込めて、剣を振るった。だが、攻撃を察していた三刃は後ろに下がってジズァーの攻撃をかわした。


 終わった。


 ジズァーは自分の敗北を察した。何も出来ぬまま三刃が振り下ろした剣の刃を体に受け、血を流しながらジズァーは倒れた。

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