第15話 激戦開始‼

 機械の中にいる翡翠は、激しい音を聞いて目を覚ました。周囲を見回し、剣を振りまわしている三刃、そして高笑いをしながらチェーンソーを振りまわしている凛音の姿があった。


「どうなってるのこれ……」


 動揺していた最中、突如目の前のガラスが音を立てて下に落ちた。


「無事のようだな」


「あなた……誰……いつの間に!?」


 翡翠の前に現れた服部は刀をしまい、翡翠を担いで高く飛びあがった。


「いやああああああああああああああ!!」


「静かにしろ、舌を噛むぞ」


「すみません!でも、これ一体どうなってるか教えてくれませんか!訳が分かりません!」


「……事が終わったら細かく教えてやる、だけど、今はおとなしくしていて」


 地面に着地し、服部は凛子の方に向かって歩いて行った。


「翡翠ちゃん!よかった、無事だったのね」


「凛子ちゃん。ねぇ……その槍は何?」


「えーと……」


「後で話すと言ったじゃないか。まぁいい。早く事を終わらす」


 と言って、服部はクナイを構えて空に飛んで行った。


 その頃、凛音は巨大なモンスターにチェーンソーを突きつけ、モンスターの悲鳴を聞いて笑みを浮かべていた。


「あらら、体がでかいだけで、後は何もないんですか?駄目なモンスターね……かわいそう」


 と言って、巨大なモンスターを真っ二つにした後、周りのモンスターを見つめ、小さく呟いた。


「あらあら、私に斬られに来たの?」


 凛音の声に反応し、モンスター達が大きな悲鳴を上げた。その時、上空から飛んで来た服部がモンスターの頭の上に着地し、周囲を見回した。


「どうやら、君が群れを相手にしてくれるようだな」


「はい。雑魚の掃除は私に任せてください。それと、雑魚共をまとめるボスがいるようなので、忍者さんはそいつを掃除してくれませんか?」


「了承した。それと、三刃の妹は私が助けた。君の双子の姉妹の元にいる。戦いが終わったら、三刃の妹に声をかけてやれ」


「ありがとうございます~」


 会話を終え、服部はモンスターのボスを探し始めた。すると、いきなりモンスターが飛んで来て、服部を地面に叩きつけた。地面に激突する前に、服部は着地して態勢を整え、モンスターの追撃に備えた。


 向かってくるモンスターは周りのモンスターと比べて身長はほぼ同じだが、背中には蝙蝠のような羽が生え、両腕には手の代わりに鎌のような刃物が生えていた。そのモンスターが遠吠えをすると、周囲にいたモンスターが一斉に服部の方を向いた。


「こいつがボスか」


 服部はボスモンスターを視界に入れ、刀を右手に持ち、左手に数枚の手裏剣を構えた。


 最初に動きを見せたのはボスモンスターの方だった。ボスモンスターは翼を広げて空に飛びあがり、手下のモンスターに服部を襲うように指示をした。


「まずは手下から倒せという意味か」


 モンスターの行動を理解した服部は、手裏剣をモンスターの急所に向けて投げ、次々と倒して行った。近くにいるモンスターは刀で斬って数を減らした。


 モンスターを倒しつつ、服部はボスモンスターへ近づいて行った。服部の接近を知り、ボスモンスターは急効果で服部に接近し、風圧で飛ばそうとした。


「うわっ!」


 風圧で飛ばされた服部目がけて、ボスモンスターは服部の後を追い、左腕の鎌で服部の胸を貫いた。獲物をしとめたと思ったのだろうか、ボスモンスターの顔は笑みを浮かべていた。しかし、服部の体は崩れ始め、水となって消えた。


「水遁、水分身の術」


 ボスモンスターが貫いた服部は水で作られた分身だった。その分身の水を浴び、ボスモンスターは水浸しになった。


「止めを刺す」


 そう言うと、服部は右手の人差し指を上に構え、目をつぶって魔力を練り始めた。ボスモンスターが雄叫びを上げ、再び服部に襲いかかろうとしたとの直後。


「雷よ、我に力を……墜閃」


 服部は上に上げていた人差し指をボスモンスターの方に向け、雷を放った。その雷は目にも見えぬ速さでボスモンスターを貫き、感電させた。


「終わったか……」


 身動きしなくなったボスモンスターに近づき、服部は刀でボスモンスターの首を切断した。


 その直後、近くにいたモンスター達の動きに変化が現れた。どうしようか分からないのか、どのモンスターも周囲を見回していた。


「ボスがやられて皆混乱したのか」


「そのようですね。服部さん、ありがとうございます」


 周囲のモンスターを倒しながら、凛音が現れた。


「無事のようだな」


「はい。さて、ここでお話しするよりも早く凛子の方に戻りましょう。翡翠ちゃんにこの事を教えないと」


「そうだな。本当は三刃も一緒にいた方がよかったが、また改めてあいつに話をさせるように伝えておく」


「わかりました~。では残った雑魚を片づけながら戻りましょう」


 会話を終えた後、二人はモンスターを倒しながら凛子と翡翠の元に戻って行った。




 湯出はシニタの攻撃をかわしながら、攻撃を仕掛けようと考えていた。そんな考えも知らずに、シニタは猛攻を続けていた。


「あっははは!どうしたのオタクみたいなもやし野郎!私の攻撃にビビっておしっこでも漏らしたの?」


「ビビってはいない。それに、君みたいな人は何度も相手にして倒して来た」


「はっ、強がりは死んでから言いなさい!」


 シニタが鎌を大きく振り上げた。このわずかな隙を狙い、湯出はポケットから宝石を取り、片手で持てる大きさの銃を出現させた。この時、湯出はわずか数秒でこの手順を行った為、シニタはいつの間にか現れた湯出の銃を見て、驚いていた。


「いつの間に……」


 この直後、湯出はシニタの右肩を狙い、三発の銃弾を放った。うち二発はシニタの右肩を貫いたが、もう一発はシニタの頬をかすっただけだった。


「ぐあっ!」


 右肩の痛みに気付き、シニタは右肩を押さえ、よろよろと動き始めた。


「舐めたマネしてくれるじゃねーか、もやし野郎!」


「相手の攻撃を封じるのも手段の一つ。殺すことしか考えてない君の頭じゃ、こんな事は考えられないよね」


「ふざけるな!ぶっ殺してやる!」


 叫びと同時に、シニタの体の周りから魔力の渦が音を立てながら回り始めた。


 その後、シニタは鎌を左手に持ち、湯出に向かって走って行った。湯出に近づき、鎌を振りまわし始めたのだが、振った時の軌道が右手の時よりもかなりずれている。


「何故だ!何故あのもやしに当たらねーんだ!」


 湯出は察していた。なれない左手を使ったため、シニタの攻撃のセンスが下がった事を。


「畜生!畜生がァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」


 鎌を地面に叩きつけ、シニタは息を荒げながら湯出を睨み、口笛を鳴らした。それに合わせ、残っていたモンスターが一斉にシニタの元に集まった。


「モンスター共!あのもやし野郎をぶっ殺せ!」


 シニタの号令に合わせ、モンスターは一斉に湯出に向かって飛んで行った。


「めんどくさい事になったな……」


 この時、シニタはにやりと笑った。モンスター達は湯出に近づいたと思ったら、そこでUターンし、翡翠の方に向かって飛んで行った。


「な!?」


「かかったなクソ野郎!モンスターには風の巫女をぶっ殺せと伝えておいた!魔力が解放出来なかったから、そいつはただの人間だ!せめて……あのアマをぶっ殺してやる!ヒャーハッハッハ!!」


「しまった!」


 湯出は急いで翡翠を助けようとしたが、目の前にシニタが現れた。


「行かせねーよ!」


 シニタは左手で拳を作り、湯出の腹にパンチした。左手に込められた魔力が爆発し、湯出の体はぶっ飛んでしまった。


「ああ!」


 翡翠は飛んで来るモンスターを見て、驚いて地面に座ってしまった。


 服部は手裏剣やクナイを投げ、凛子と凛音は飛んで武器を使ってモンスターの数を減らしていったが、モンスターの数は多かった。


「これじゃあ……翡翠ちゃんが!」


「翡翠ちゃん!」


 凛子と凛音が翡翠の方を見た時、倒し漏らした一匹のモンスターが翡翠に向かって飛んで来た。


「こ……来ないでェェェェェ!!」


 翡翠はモンスターが来ないように、右手を前に突き出した。それと同時に、翡翠の右手から大きな風の渦が放たれた。


「……へ?」


 今の光景を見て、凛子と凛音の口はぽかんと開いていて、服部も驚いて持っていた手裏剣を落としてしまった。


「今のは魔法……」


「まさかあの機械の影響で翡翠ちゃんも魔法使いに……違う。眠っていた魔力の力が今目覚めたんだ」


 凛子と凛音は会話をした後、すぐに翡翠の元に戻って行った。


「大丈夫翡翠ちゃん!」


「大丈夫……だけど。今のなんなの?私って一体何なの?」


「後で話す。それまで、じっと待ってて」


 凛音が優しくこう言った。


 シニタの怒りは更に溜まった。今の流れのせいで翡翠が魔力を解放させてしまい、そのせいで手駒のモンスターが減ってしまったからだ。


「チェックメイトだな」


 湯出が銃口をシニタに向けてこう言った。歯ぎしりをしながら、シニタは叫びと同時に鎌を振り下ろした。


「うるせぇ!勝つのは私だ!クソ野郎がァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」


 シニタが鎌を振り下ろす直前、湯出が放った銃弾がシニタの右足に命中し、そのまま太ももを貫いた。


「ぐあっ!」


「片腕片足は銃で貫かれて使用不能……そんでもって」


 湯出はシニタの鎌を狙い、銃弾を放った。刃が破壊された鎌は光になり、そのまま砕けた宝石となった。


「武器もない。俺の勝ちだな」


「武器もない?私の拳でブッ飛ばされた事を忘れたか!」


 シニタが湯出に殴りかかろうとしたが、急にシニタの顔色が悪くなった。


「が……あ……?」


 シニタは何が起きたのか分からなかった。急に息が出来なくなり、鼻からの呼吸も上手くできない。水に溺れたかのように、シニタは苦し始めた。


「最初から仕込んでたんだよ。君が最初に鎌を振り下ろした時、こっそりと魔力で作った水を飛ばしたんだ。その水が、今になって喉と鼻孔が水で埋まるぐらいの大きさになったんだよ」


 湯出の言葉を聞き、シニタは心の中で叫んだ。クソ野郎と。その直後、シニタの意識は飛んだ。

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