第14話 父の言葉

 翡翠がさらわれ、三日が経過した。


 大怪我を負った三刃はあれからずっと眠っている。魔法結社はジズァーを倒す為、総員でジズァーがいる龍目山に攻撃を仕掛けようとしていたが、翡翠を人質にされた上、魔法の障壁が山を包んでいるため、迂闊に進められないのだ。


「全くもう!いつになったらあの野郎のいる場所に行くのよ!」


「早く翡翠ちゃん助けたい!」


 凛子と凛音が怒りながら輝海にこう聞いた。それに対し、輝海はため息と共に返事を変えした。


「俺だって早く助けたいさ。だけど、簡単に攻められる状況じゃないんだよ」


 髪をかきながら、輝海は忙しそうに周囲を見回した。その様子を見て、湯出がこう言った。


「そんなに慌ただしくしたって、連絡は早く来ませんよ先輩」


「お前だってそうだろ。貧乏ゆすり激しいぞ」


 湯出は貧乏ゆすりを指摘されて足を止めたのだが、しばらくしてまた貧乏ゆすりが始まった。


 苛立ちが募る空気の中、三刃の様子を見ていた姫乃と服部が声を上げた。


「どうした二人とも?」


「三刃君が起きた!」


 姫乃の声を聞き、湯出達は一斉に三刃の元へ向かった。


 目を覚ました三刃はゆっくりと周囲を見渡し、姫乃達の顔を見た。


「あれ……何で僕……ここに……」


「ジズァーにやられたんだよ。あれから三日間、ずっとお前は眠っていた」


 輝海の返事を聞き、三刃はあの時の事を思い出した。


「翡翠は!あいつを助けに行かないと!」


「止めろ!今のお前じゃまたやられるぞ!」


 湯出の叫びを聞き、三刃の動きが止まった。しばらくの間の後、湯出は少し息を吸ってこう言った。


「今の三刃君じゃあ確実に返り討ちにあう。翡翠ちゃんを助けたい気持ちは十分に分かる。だけど、その前に落ちつけ」


「……はい」


 そう言うと、三刃は気を落ち着かせるため、しばらくおとなしくなった。姫乃達が三刃に気を使い、寝室から出て行ったのだが、輝海は棚の上にあったテープレコーダーを取り出し、三刃の手元に置いた。


「輝海さん、何ですかコレ?」


「君のお父さんが遺した言葉だ。遺言状みたいなものだ」


 そう言うと、輝海はレコーダーの再生ボタンを押した。しばらくし、男性の咳き込む声が聞こえた。


『えーあー、マイクテステス。オッケー。えー聞こえるか三刃か翡翠?お父さんだ』


「これが……父さんの声……」


 初めて耳にした父の声。思っていたのと少し違い、三刃は戸惑った。


『三刃、それか翡翠。これを聞いているという事は、お前らのどっちかが魔法の存在を知ってしまった事になるな。俺としてはお前らには魔法の事は知ってほしくなかった。血生臭い世界に足を突っ込んだ事になるからな。そういうクソみたいな世界で生きるのは俺だけで十分、子供達には知ってほしくなかったってわけだ。だけど、俺死んじまうからこうやって言葉を遺してるわけ。まー……えーっと……二人とも、お前らの覚悟はこれから死ぬ俺には分からねーけどさ、もし、俺と同じように世界中にいるバカな犯罪者達と戦う意思があるなら、いくつか伝えておく。まず一つ。バカな犯罪者達相手に戦う時は手段をためらうな。卑怯者と言われても、気にするな。犯罪者達の方がよっぽど卑怯者だからな。二つ目。自分の道を信じろ。他人になにを言われようが、ひたすら自分の生き方、道を貫け。たまには人の言う事を聞くのも必要だけどな。後は……えーっと……ないな。はっはっは。まーこれだけだ。おっと、ジズァーの野郎が仕掛けた爆弾がそろそろ爆発しそうだ。そうだ最後に一つ。三刃か翡翠。どっちかが魔法の事を知ったら、どっちかを守れ。この世に二人しかいない兄妹なんだからよ。それと、好きな奴ができたらそいつも守れ!三刃、惚れた女は必ず守れよ!翡翠、女も度胸って事を惚れた男に見せてやれ!……そろそろ終わりの時が来たみたいだ。じゃーな二人とも。早死にするなよ』


 その直後、テープの再生が終わった。輝海がテープを手に取り、静かにこう言った。


「これがあいつの残した言葉だ。あいつの事だからまだ言いたい事があったと思ったけど……」


「……輝海さん、ありがとうございます。初めて父さんの声を聞いて、少しホッとしました」


 この時の三刃の表情を見て、輝海は昔の事を思い出した。


 相葉はよく仕事で無茶をして怪我をし、よく入院していた。だが、相葉は何度も病室から抜け出し、モンスターや魔法犯罪者と戦っていた。


「やっぱり、あいつの息子だな」


「はい?」


「いや、何でもない」


 輝海はこう言うと、部屋から去って行った。


 その後、三刃は周囲を見回し、外に向かって声を出した。


「姫乃、話聞いてたんだろ?」


 外にいた姫乃は少しドキッとし、申し訳なさそうに三刃の病室に入った。


「ごめんね三刃君。少し気になって」


「別にいいよ。それより、頼みがある」


 と言って、三刃は姫乃を呼び寄せた。




 その日の夜。三刃は病室で眠っていた。すると、外から窓を叩く音が聞こえた。


 来たか。


 三刃は心の中で呟き、布団から起きあがり、机の上に置いてあったハンバーガーを取り、窓を開けた。外には、姫乃と服部、それに凛子と凛音がいた。


「何だ、皆来たのか」


「当たり前よ。私達も翡翠ちゃんを助けたいのよ!」


「私も同じ……」


「知らぬ仲ではない。お前の背中は私が守ってやる」


「皆……ありがとう」


 三刃はポケットの中の宝石を確認し、姫乃達と目を合わせ、こう言った。


「行こう。翡翠を助けに行くぞ」


 そう言った後、三刃達は急いで龍目山へ向かって行った。その後ろでは、輝海と湯出が三刃達の様子を見ていた。


「やっぱり行くみたいですね」


「ああ。だから言ったろ、夜に抜け出して翡翠ちゃんを助けに行くかもしれないって」


「ああいうとこ、本当に相葉さんに似ていますね」


「そうだな。さて、話している場合じゃない。俺達も急ぐぞ」


「はい」


 会話を終え、輝海と湯出も急いで龍目山へ向かって行った。




 龍目山の山頂に、ジズァー達がいた。魔力を吸い取る機械を使い、翡翠から魔力を奪っていた。


「もう三日が経過した。やけに時間がかかる。本当にこいつが巫女なのか?」


「そうだ。風原美晴の娘だが……」


「人違いだったかもしれませんね~」


 シニタが笑いながらこう言った。ジズァーは顎をさすりながら、考え事を始めた。しばらくし、機械から音が鳴り響いた。


「おっ。言ったそばから魔力が反応したぞ」


「じゃあじゃあ、膨大な魔力が私達の手に入るんですね!」


「そうだ。巫女の魔力は普通の魔法使いより膨大だ。世界を覆すほどの魔力を持っている……クククククク……私が世界を支配するまであと少しだ!」


 ジズァーが笑い始めたその時だった。突如突風が吹き、翡翠を閉じ込めている機械を倒してしまった。シニタとバヌアは敵が来たと察し、周囲を調べ始めた。


「まさか……」


「翡翠を返せ」


 山頂の階段の近くから声がした。しばらくし、三刃達の姿が見えた。


「お前……私が殺したと思ったが……」


「運良く生きてたんだ」


「……そうか。なら、今度は確実に殺してやろう。お前の仲間達と一緒にな」


「始末されるのはどっちかな?」


 三刃達の後ろから輝海の声が聞こえた。しばらくし、輝海と湯出が現れた。


「輝海さん湯出さん!どうして病室から抜け出した事がわかったんですか?」


「相葉の野郎と一緒だ。仕事があれば治療よりもそっちを優先して、治療をすっぽかして病室から抜け出すんだ。やっぱり君もそうしたか」


「やっぱり血は争えないね」


「今はのんびり話している余裕はないな」


 輝海と湯出は三刃達の前に立ち、ジズァーの方に向かって走って行った。その後を追うように、三刃達も走り始めた。


「来たか!」


「ちょっと待って下さいね~」


 と言った後、シニタは口笛を鳴らした。口笛の後、上空からモンスターの鳴き声がこだまし、無数のモンスターが飛んで来た。


「こんな事があると思いまして、この町のゴロツキやホームレスを基にして、モンスターを作ったんで~す」


「良い駒を作ったな」


 この会話を聞き、湯出の額に青筋が浮かんだ。


「あのクソ女、無駄な殺人を犯しやがって!」


「湯出、あの女を任せていいか?どうやら、俺を狙ってる男がいる。俺はそいつを相手にする」


「分かりました。だけどジズァーはどうします?」


「三刃君に任せよう。今の三刃君ならやってくれるかもしれない。そんな気がする」


 輝海の言葉を聞き、湯出は頷いた。そして後ろを向き、三刃にこう言った。


「三刃君!君はジズァーを頼む!輝海さんと俺で幹部クラスの奴を相手にする。他はモンスターの掃除、および翡翠ちゃんの救出!」


「分かりました!」


 返事をした後、三刃達はそれぞれの相手に向かって行った。


 途中、三刃は歩きはじめ、深呼吸し、手にしていたビニール袋からハンバーガーを取り出し、食べ始めた。


「何だ?余裕のつもりか?」


 三刃の近くに着たジズァーが、笑いながら聞いた。質問に答えず、三刃は黙々とハンバーガーを食べていた。しばらくし、三刃は包み紙をポケットに入れ、宝石を取りだした。


「魔力補給完了……お前を相手にする」


「……ようやく本気の君と戦えそうだな」


「ごちゃごちゃうるさい。さぁ、食後の運動を始めようか」


 三刃はこう言うと、剣を取り出してジズァーに向かって行った。それに対し、ジズァーも剣を取り出して三刃に向かって行った。

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