第13話 ジズァー襲来‼

 数時間後、三刃は欠伸をしながら起きあがった。目をこすりながらボーっとしていた。


「確か……いきなり体が……」


「目を覚ましたか」


 お盆を持った湯出が部屋に入って来た。湯出は食えと言ってお盆の上に乗っていたお茶漬けを三刃に渡した。だが、三刃はお茶漬けには手を出さなかった。


「どうした?お茶漬け嫌いか?」


「……いえ。あの話を聞いて動揺しないようにしていたんですけど……やっぱり……」


 三刃の話を聞き、湯出はため息を吐いてこう言った。


「気持ちは分かる。俺も正直この話は三刃君に少し重すぎると思った。だけど、いずれ君はこの事を知る事になる」


「……妹が……翡翠が巫女だからですか?」


「ああ」


 湯出は立ち上がり、部屋から出ようとした。その時に、もう一度三刃にこう話した。


「三刃君、少し落ち着けよ。戦いだろうとどんな時だろうと、焦って混乱したら失敗するからさ」


「……はい」


 三刃の返事を聞き、湯出は部屋から出て行った。


 三刃はお茶漬けを食べた後、立ち上がって軽く体を動かした。まだだるさは残っているが、何とか動けると思い、部屋から出た。


「湯出さーん?僕もう動けるので帰りますけどー」


 と、声を出したのだが、返事は来なかった。どこにいるんだろうと思いながら周囲を見渡し、廊下を歩き始めた。


「どこ行ったのかな……」


 ぼやきながら歩いていると、前の扉の窓から光が漏れていた。三刃はそこに湯出がいると思った。


「湯出さん。ここにいるの?」


 扉を開けた先には、全裸でドライヤーを使っている姫乃の姿があった。


「き……きゃあああああああああああああ!!何やってんの三刃君!?」


「ごめん!まさかここが風呂場とは思わなかった!」


 三刃が後ろを振り向き、こう話した。三刃はやってしまったなと思いながら、なんて謝ろうか考えていた。だがその前に、姫乃がこう言った。


「いいわよ。タオルまいたから」


「あ……ああ」


「で、体大丈夫なの?起きてすぐ動くと悪いわよ」


「大丈夫だよ。今から帰るから湯出さんに一言言おうと思って」


「そう。湯出さんは多分お店の方にいるんじゃない?」


「そうか。ありがとう」


 と言って、三刃は風呂場から出て行った。その時、姫乃の方を見てこう言った。


「すまん。君の全裸を見てしまって」


「わざとじゃないからいいわよ」


「お前、意外とスタイルいいんだな」


「一言余計よ!」


 姫乃が投げた石鹸が、三刃の額に命中した。




 その後、三刃は赤くなった額をさすりながら、店の方に行った。


「お。どうした三刃君?帰るのか?」


「はい。翡翠が心配してると思いますので」


「そうだな。君がいた方が翡翠ちゃんも安心するだろう」


「ええ。結社の人が守ってくれてるのは安心できますが……やっぱり僕があいつを守ってた方がいいと思います」


「分かった。気をつけて帰れよ。ジズァーの連中がいつ襲ってくるか分からないからな」


「はい」


 その後、三刃は家に帰った。家に入った直後、翡翠が怒鳴りながら三刃に近づいてきた。


「お兄ちゃん!本当にどこ行ってたのよ!遅くなるなら遅くなるで連絡してよね!もー!」


「ごめんごめん、ちょっと連絡できない状況だったからさ……」


「で、ご飯は?」


「大丈夫。済ませて来たから」


「あっそ。じゃあ今日作った晩御飯は明日でいいね?」


「ああ」


 返事をした後、三刃は風呂場に入り、服を脱ぎ始めた。この時、窓から人影を見つけた。


「誰だ?」


「待て待て待て、敵意をむき出しにしないでくれ。私は魔法結社の者だ。風の巫女、護天翡翠を護衛するように頼まれた者だ」


「あなたが……」


「君の事は湯出さんや輝海さんから聞いている。もちろん今回の事もだ」


「ジズァーの事ですね……分かりました。お願いします、翡翠の事を守ってやってください」


「もちろんだ。君も気を付けろよ」


 と言って、結社の人は離れて行った。守ってくれるのはいいけど、風呂場も見られてるんじゃあ気が滅入るな。三刃はこう思いながら風呂に入った。




 その日の夜中、夜間パトロールをしている魔法結社の魔法使い達が、三刃の家の周辺にいた。


「異常はあったか?」


「いえ。特にありません」


「こっちも異常なしです」


 声を掛け合い、互いの無事を確認しながらパトロールは続いた。ジズァーが上空から、その様子を見ていた。


「さて……祭りを始めよう」


「いいんですね!あいつらを殺しまくっても!」


 嬉しそうなシニタを見て、フフッと笑いながらジズァーは答えた。


「ああ。好きなだけ殺して来い」


「わっかりましたー!あいつらをヤってきまーす!」


 はしゃぎながらシニタは下に降りて行った。ジズァーはにやけながらシニタを見ていたが、横にいるバヌアは動こうとはしなかった。


「バヌア、お前は行かないのか?」


「雑魚の相手などしたくない」


「そうか。さて……私も行くとするか。お前はそこで待ってろ」


「了承」


 バヌアの返事を聞き、ジズァーはシニタの後を追って降りて行った。


 一方、ジズァー達がいるという事に気付かず、結社の魔法使いは無駄話を続けていた。


「全く、あいつ等も今になって出てくるなんてな……めんどくせーよ」


「そうですね~。あのままあの世に行ってれば俺達がこんな夜中に夜回りすることなんてなかったのに」


「ああ。あいつ等を見かけたらすぐに魔法の鉛玉を打ち込んでやるぜ」


「ヘェ~、じゃあやって見せてよ」


 にやけながら、シニタがこう言った。シニタの声を聞いた結社の魔法使いは武器を構えようとしたが、その前にシニタの鎌が結社の魔法使いの首をはね飛ばしてしまった。


「アッハ。弱すぎ~」


「いたぞ!ジズァーの手下だ!」


「銃で攻撃しろ!」


 騒ぎを聞きつけた別の結社の魔法使いが現れ、一斉にシニタに向かって魔法銃を発砲した。シニタは鎌を振りまわしながら飛んで来る弾を落とし、結社の魔法使いに向かって歩いて行った。


「嘘だろ……鎌一本で銃弾を……」


「班長!こっちに来ます!」


「じゃあね~。死ね!」


 シニタの鎌が再び宙を舞い、結社の魔法使いの首をはね飛ばして行った。シニタの凶行を見た他の魔法使いの顔色が、青く染まっていった。


「あいつ……悪魔だ……」


「逃げるぞ……俺達だけでも生きるんだ!」


「おいおい。仲間が死んでいるのに、自分達だけは助かろうというのかい?」


 後ろからジズァーの声がした。逃げようとした魔法使いは振り向こうとしたが、その前にジズァーが爆発する魔法を起こし、逃げようとした魔法使いを爆殺した。


「弱すぎる。話にならない」


「ジズァー様が強すぎるんですよ。雑魚相手に全力を出さないでくださ~い」


「いや、これでも手を抜いた方なのだが。まぁいい」


 ジズァーが武器をしまうと同時に、パトカーのランプが周囲を照らした。それに、周囲から人の声が聞こえて来た。


「やれやれ、この騒動を聞かれていたようだな」


「当たり前です。今の爆発音が周囲に響いたんです」


 バヌアが静かにこう言った。話を聞き、少し笑った後、ジズァーは二人にこう言った。


「さて、戻るとしよう。また明日、風の巫女を探しに行くぞ」


「は~い」


「分かりましたが、捜索中などで周囲に身元がばれないよう、今後は派手な魔法は使わないでください」


「お前の叱りはアジトに戻って聞く。それまで我慢していてくれ」


「了承」


 その後、ジズァー達は魔力を使って高速移動し、アジトへ戻って行った。




 翌日、三刃と姫乃が通う学校では、昨夜に起きた殺人事件の話が話題になっていた。


「三刃!昨日の殺人事件知ってるか!?」


 宇野沢が声を高く上げ、三刃にこう言って来た。


「ああ。今日ニュースでやってたな」


「まただぜまた!なんか最近おかしいぜ、こんなエグイ事件が連続して起きるなんてよ~」


「考えられないな。恐ろしい奴が近くにいるなんてゾッとするよ」


 三刃は宇野沢にこう返事を変えした。三刃は確信していた。昨日の殺人事件の犯人はジズァー達だと。学校に行く前に、三刃は湯出と携帯で会話をしていたのだ。それで、昨日の事件の事を知ったのだ。


 人を平気で殺す連中を相手にするのか。三刃はジズァー達に対し、少し恐れていた。だが、そんな奴らに翡翠を渡すわけにはいかないと心で何度も呟き、戦う覚悟をしていた。


 授業が終わり、三刃は湯出の所に行く前に、翡翠に連絡を入れた。しばらくのコール音の後、翡翠の声が聞こえた。


『何お兄ちゃん?』


「翡翠か。お前今無事か?」


『無事って……大丈夫よ。どうしたの急に?』


「いや、何でもないよ。最近怖い殺人鬼がいるから、危なくなったら近くの人に助けを求めろよ」


『分かってるわよ。それで、今日も遅くなるの?』


「ああ。ごめんな」


『もう慣れたわ。じゃあね』


 と言って、翡翠は三刃の会話を止めようとした。だが。


『え……ちょっとなんですか……ウッ!』


 翡翠のうめき声が聞こえ、その直後に通話が切れた。


「翡翠?まさか……」


 三刃は確信した。ジズァー達が翡翠を襲ったのだと。その後、急いで翡翠が通う中学校の近くへ向かい、翡翠を探し始めた。


「クソッ!こんな昼間から襲ってくるのかよあいつ等!」


「早く襲って悪いか?」


 三刃の一言に反応するかのように、人の声が聞こえた。三刃はポケットの中の宝石を手に取り、魔力を解放させた。


「お前がジズァーか!?」


 剣を装備し、三刃はジズァーの方を見た。すでにジズァーは翡翠を捕まえており、周囲にはモンスター達が立っていた。


「お兄ちゃん!この人達何、それとその剣何!?」


「少し黙ってもらおう」


 と、ジズァーは翡翠を気絶させ、三刃の方を見た。


「君が護天相葉の息子、三刃君だね」


「そうだ……そんな事より、翡翠を返せ!」


 叫びと共に、三刃は剣を構えて走り出した。ジズァーに斬りかかろうとしたのだが、ジズァーから放たれた炎が鞭のような形となり、三刃を襲った。炎を切ろうとし、三刃は剣を振りまわしたのだが、炎は斬れず、三刃を襲い続けた。


「うがああああああああああああ!!」


「君のお父さんは強かった。この私を限界まで追いつめた。その力が……今の君にあるのかな?」


「黙れ……」


 炎に襲われるなか、三刃は風を発生させ、ジズァーに向かって飛ばした。だが、ジズァーは風をかわし、炎の剣を作り、三刃の胸を貫いた。


「がはっ……」


「はぁ……楽しめそうと思ったが……そうでもなかったな。死んでもらおう」


 と、倒れている三刃に向けて、ジズァーは炎の剣を振りおろそうとした、だが、突如発生した雷が、ジズァーの炎の剣を打ち消した。


「ジズァー!あいつの息子に手を出すんじゃねー!」


 ジズァーは現れた輝海を見て、ニヤリと笑った。


「あいつは……あいつは……」


 身動きしなかったバヌアが、輝海の姿を見て声を上げ、体を震わせた。


「師匠の仇ィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!」


 バヌアは巨大な斧を装備し、輝海に向かって突進していった。


「ったく、お前みたいなのにかまってる暇はないんだっつーの!」


 突進してくるバヌアをかわし、輝海はジズァーの足元で倒れている三刃の元まで移動した。


「久しぶりだなクソ野郎!」


「驚いた。怪我はいいのか?」


「おかげさまでな!」


 輝海は蹴りと同時に雷を飛ばし、ジズァーに攻撃を仕掛けた。ジズァーはジャンプして飛んで来る雷をかわし、両手に炎を生み出した。


「また丸焦げになるがいい」


「今お前に用はない!」


 ジズァーの攻撃を無視し、輝海は急いで倒れている翡翠に向かって走って行った。だが、上から鎌を振りまわしながらシニタが現れた。


「ざ~んね~ん!きゃははは!この子には触らせないよ~だ!ば~か!」


「クソッ!」


 輝海は舌打ちし、シニタを睨んだ。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 後ろから、バヌアが輝海目がけて突進してきている。更に上ではジズァーの攻撃が始まろうとしている。分が悪い。そう思った輝海は足に雷を溜め、それを放出して飛んで逃げた。


「……逃げたか」


 ジズァーは炎を消し、地面に降りてシニタにこう言った。


「行くぞ。龍目山りゅうもくさんに」


「あそこですか……十四年前の決戦の地」


「ああ。もう準備はできている。風の巫女の力を手にする時が来たのだ。その前にシニタ、バヌアを連れて来い」


「は~い」


 シニタは雄叫びを上げているバヌアを連れ、ジズァーの後について行った。ジズァーは倒れている翡翠を連れ去り、龍目山へ向かって行った。

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