第12話 輝海の復帰

 その後、三刃達の修行が始まった。今まで百匹位の模擬モンスターを相手にしていたが、今日からはその十倍の千匹のモンスターを相手にする事になった。


「うぐっ!」


 三刃は目の前の巨大なモンスターの攻撃を風で防御していた。だが、目の前にいるモンスターは一匹ではない。五十匹はいる。百匹の相手をしていた時は確実に一匹ずつ倒していたが、相手が多数だと簡単に相手は倒せれない。


「クソッ!」


 三刃は防御を解き、剣でモンスターの首元を突き刺した。


 続けて、あいている左手に魔力を溜め、風を発生させてモンスターを攻撃した。しかし、モンスターの群れは高くジャンプし、三刃の攻撃をかわした。しかもジャンプした時、三刃の背後に着地しようとしていた。着地し、三刃に攻撃をしようとしているのだ。その事を三刃は察したのだが、モンスターは目の前にもいる。振り向いたら確実に攻撃を食らう。だからと言って、前のモンスターばかりに集中していると、着地したモンスターの攻撃を食らう。


 どうする?


 三刃は何度も何度も自分に問い聞かせた。だが、答えは出ないまま、ジャンプしたモンスターが三刃の背後に着地した。


「三刃君!」


 姫乃の声が聞こえた。その直後、三刃の後ろが火の海になった。


「うおっ!」


「大丈夫?結構苦戦してたみたいだけど」


「ああ……何とかなった」


 目の前のモンスターを倒し、三刃は姫乃に近づいた。


「きついな……」


「そうね。結構疲れるわ。そうでもしないと、ジズァーって魔法使いを倒せないのかしら?」


「そう……かもな……」


 荒い呼吸をしながら、三刃は言葉を返した。この時、モンスターの一部が三刃に向かって爪を飛ばした。


「後ろ!」


 姫乃の声に反応し、三刃は剣を振って風を起こし、爪を吹き飛ばした。


「今だ……」


「わかった」


 三刃の合図を聞き、姫乃は刀から炎を出し、目の前のモンスター達を燃やし尽くした。攻撃を受けても、まだ残っているモンスターがいたのだが、姫乃は素早い動きで次々と生き残ったモンスターを斬って行った。


 しばらくし、周囲にいた物凄い量のモンスターは、ほとんど消えていた。


「何とか倒したわ。三刃君……三刃君!?」


 姫乃は慌てながら三刃の元に近づいた。三刃は倒れていて、顔色も少し悪かった。


「湯出さん!修業を止めて!三刃君の様子がおかしいわ!」


『マジか!ちょっと待ってろ、モンスター達を止めるから!』


 その後、モンスター達の姿が消えていった。様子がおかしいと察した服部は、急いで三刃の所の向かった。


「どうした!」


「……どうやら疲れて倒れたみたい」


「やっぱ、あの話を聞いたのが原因かな……」


「かもしれませんね」


 凛音がこう言うと、倒れた三刃を担ぎ、上に戻って行った。


「凛音!ちょっと待ってよ!」


「早くしないと……この人死んじゃう」


「えええええええええ!死んじゃうの?こいつ死んじゃうの!?」


「だから早く湯出さんに布団の準備をしてって言って」


「分かった!なんかこいつが死んじゃうの嫌だからすぐに言う!」


 凛子は急いで湯出に布団の支度をするように伝えた。三刃を布団に寝かせた後、湯出はため息を吐きながらこう言った。


「仕方ない。今日の修業はこれまで。三刃君の様子を見ておくから、皆は先に帰ってていいよ」


「……私、三刃君を見てます。凛子、凛音、先に帰ってなさい」


「は~い」


「分かった。お姉ちゃん。男の人が寝ているからって襲わないでね」


「襲わないわよ」


「倒れた三刃の事は頼む。また連絡する」


「分かったわ服部さん。あなたも三刃君の事が気になるのね」


「ああ」


 会話を終え、服部達は帰って行った。湯出はこの光景を見て、何かを察した。


「姫乃、三刃君に惚れてるのか?」


「そんなんじゃないわよ。ただちょっと、気になるだけ」


 と言って、姫乃は三刃がいる部屋に戻って行った。




 同時刻、治療を受けていた輝海は医者から話を聞いていた。


「ふむ。もう任務に行っても大丈夫だ」


「本当ですか?」


「ああ。今はジズァーの事がある。上もお前さんの力が欲しいだろ」


「だろうな。十四年前の戦いに出てたんだし、あいつ等の事も知っている」


「いいか?あいつと戦って怪我はするな。治療が大変なんだから」


「医者が言うセリフかよ。じゃ、俺は行くから」


「ああ。気をつけてな」


 輝海は保健室から出ると、携帯を取って湯出に連絡を取った。


「あーもしもし湯出か?」


『先輩。もう体いいんですか?』


「まーな。それより聞いたぞ。三刃君達を鍛えてるんだってな。そんでもって、あの事を三刃君に話したんだな」


『はい』


「いずれにせよ、三刃君がこの事をいつか知ってしまうからな。ジズァーと関わったからにはな」


『まだ……自分の判断がよかったって思ってないです』


 湯出の小さな声を聞き、輝海はため息と共にこう言った。


「いまさらテメーがやった事を後悔するなよ。話を聞いて三刃君が無茶したのか?」


『無茶……しようとはしてましたね』


「止めたんならいいじゃねーか。で、三刃君はお前ん所にいるか?」


『いるにはいるんですけど。今は修業の疲れが溜まって、休んでいます』


「そうか……あのテープを三刃君に聞かせようと思ったんだけどな」


『え?あれですか?』


「ああ。三刃君が全てを知った時、相葉があいつに渡してくれと言ってたんだ」


『まさか……あれが出てくる日が来るとは……』


「俺も思ってなかった。だけど、今の三刃君に必要な物だからな。今日はもう遅いから、明日の昼にお前ん所に行く」


『はい。分かりました』


「じゃあ明日な」


 通話ボタンを押し、携帯をポケットにしまって輝海は白雪支部長の元に向かった。


「どうも、白雪支部長」


「輝海か。傷はもういいのか?」


「はい」


「よかった。ジズァーと戦って怪我をしたと知った時は驚いたが……」


「アンタも驚く事があるんですね」


「上司に向かって言う言葉か?」


「すいません。支部長、話はジズァーの件に変わりますが……」


「お前も戦う気なんだろ?だから傷の治療を急がせた」


 この言葉を言われ、輝海の表情が変わった。


「全く、少し焦っているだろう。まだ怪我が残っている、その状態では全力は出せないぞ」


「……分かってます。それでも俺は戦います」


「お前の意志は分かった。これは私の考えなのだが、この事を知った三刃君は無理矢理でもジズァーとの戦いに入るだろう。三刃君と知り合った私の娘達とお前の知り合いの忍者もな。それと湯出も」


「支部長?何が言いたいんですか?」


「お前には共に闘う仲間がいる、一人で重い荷物を背負うな。相葉もこう言ってたろう」


 こう言われ、輝海は昔の事を思い出した。


 ある冬の事、輝海は単独で遠くの地域で任務を行っていた。だが、途中でモンスターの群れと遭遇し、戦闘に入った。一対多数の状況の上、足元は少し凍結していた。相手の攻撃を防御した時、足が滑って転倒してしまった。すぐに落とした武器を取ろうとしたのだが、モンスターの群れが一斉に輝海に襲いかかって来た。その時、相葉がやって来たのだ。


「ったく。話は白雪支部長から聞いたぜ。一人でおもてー荷物背負うんじゃねーよ。俺にも背負わせろよ」


 その後、輝海は相葉と共にモンスターを倒し、任務を終わらせた。


「……そうですね。あいつより長く生きてたせいか、基本的な事を忘れていました」


「ああ。戦場では仲間を使え、仲間を頼れ、そして仲間を助けろ」


「はい。支部長、ありがとうございます」


「な~に。私は何もしておらん。輝海、戦いの時になったら子供達を任せたぞ」


「分かりました」


 そう言って、輝海は支部長室から去って行った。

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